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『わたしの幸せな結婚』顎木あくみ 富士見L文庫 酷評レビューしてみた。

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題名:わたしの幸せな結婚

作者:顎木あくみ

レーベル:富士見L文庫

小説家になろう発の富士見L文庫刊行ライトノベル『わたしの幸せな結婚』。作者は顎木あくみ。

本作品のAmazonレビューサイトを見ると、レビュー数585件で評価4.6という怪物クラスの高評価。

これはすごい、一体どれほどの傑作なのかとワクワクして買って読んでみたら⋯⋯。

感想は⋯⋯。

所詮素人小説。中身がスカスカ。

キャラクターたちはほぼテンプレで薄っぺらくリアリティーがない、設定は杜撰で突っ込みところ満載で活かし切れていない、ストーリーの目的や方向性は曖昧でグダグダ。 

とにかくつまらない小説にありがちなポイントのてんこ盛り。悪い小説のお手本だ。

さすがに過大評価すぎると思った。

しかもこれ、シリーズ100万部も売れてるんだってね。信じられん。

この作品を絶賛している人たちは、普段から本を読まない人、読書初心者、初めて本を読む、或いはwebでのファン読者なのか。

我慢できずに酷評レビュー書いちゃいました。

(Amazonレビュー原文↓)

https://www.amazon.co.jp/gp/aw/review/4040730194/R3NG4DNEL07EL0?ref=pf_vv_at_pdctrvw_srp

以下はAmazonレビューのコピー。(一万字ぐらいある)

評価があまりにも高く期待して購入しましたが、個人的には買って損しました。
レビュー数百件で平均評価4.6とは凄い、余程の傑作なのかと思いましたが、全くそんなことはありませんでした。
まだ一巻目でこんな感想を書くのはあれかもしれませんが、書かせて頂きます。

結構ネタバレを含みますのでご注意ください。

とにかく話の中身がスカスカに感じました。
最初のストーリーの流れはこんな感じ。生まれつき異能力が無くて虐げられていた主人公が斎森家から捨てられて久堂家へ嫁ぎ、今まで使用人扱いされていたことから嫁としてするべきことがわからず、妻って何をすればいいの?という疑問から、旦那に料理を作る。そして旦那のイケメン君から飯に毒を入れたなと疑惑を持たれ、晴れて、ご飯うまいよと褒められます。それからP60以降は、ずっとイケメン君に終始ちやほやされ、溺愛されています。イケメン君も女嫌いでやたらツンツンしていたのに、すぐに心を開いてお前とは結婚してもいいかもしれないと思ってしまいます。早すぎ⋯⋯。

あらすじに日々料理を作るうちにイケメン君と心を通わせていくとありますが、その過程もp60のご飯を褒められた辺りで終了します。物語全体の中で、料理作り触れあっていくという形の駆け引きでイケメン君の心を徐々に開いていくのかと思いましたが、残念ながらその日々の交流シーンや恋の駆け引きは皆無です。最初にご飯を作ってあげるシーンでお料理作りによる交流は終わりです。そこを読みたかったのに。

イケメン君にご飯を褒められるシーンで、「褒められるのは何年ぶりだろう」という台詞がありましたが、唯一美世が心を許せる人物である心優しい幼なじみの幸次、斎森家の使用人の花は何年も美世を褒めてくれたことがなかったのでしょうか? と疑問に思いました。

そしてあらすじの結に『少女が幸せになって愛されるまでの物語』とあります
。この作品でいう『幸せになる』の意味は、優しいイケメン君の家に嫁いでも過去に虐げられたトラウマにより苦しめられる、精神的に救われていない状態からの回復だと個人的にそう解釈します。主人公が虐待サバイバーですし。そして愛されるの意味は、イケメン君に愛され優しくされることだと思います。
しかし、個人的にもう一巻の時点で美世はイケメン君や使用人のゆり江から愛されて、幸せになっている気がします。彼女が、つい数日前まで虐待人生続きだったのになんか態度が明るくてひた向きな感じだからでしょうか。
私が「主人公もう幸せになってない?」と感じてしまったのは、美世が日常でトラウマに苦しめられている描写(フラッシュバックとか、パニックとか、体調不良とか。悪夢はファンタジー要素が絡んでいそうなので、トラウマが原因と断定すると逆に伏線を読めていないという問題になりそうなので省きます)、精神的に救われていないような演出が無くて彼女の苦しみがほぼ伝わって来ない。
初めて久堂家に来た時も、美世は使用人のゆり江に怯えたり不安を抱いたりせず、普通の態度で接している。後のイケメン君とのデートシーンでも普通に明るいし楽しそうにしているし、ラブラブを満喫している感じ。
なんか、心に傷を負った暗くて鬱々とした雰囲気はあまり感じられず、普通の少女に見えるのです。
幼少期からの長期間に渡る虐待を受けていた者というキャラクター設定にリアリティーがない、上っ面だけに感じてしまうのが原因だと思います。美世の心理描写も書かれていることから、余計に彼女のキャラクターが薄っぺらい。
この点について後に詳しく書きます。
シンデレラストーリーなので幸薄い女の子がイケメン君に見初められ幸せになるストーリーなのでしょうが、一巻の時点でもう物語が終わった感がありました。
「少女が幸せになって愛されるまでの物語」というこの一文を見ると、物語全体の中で虐待でメンタルがボロボロになり生きた屍みたいな美世がだんだんと幸せになって最終的にイケメン君から愛されるのかなーと思ってしまいます。一巻で既にイケメンから溺愛され相思相愛になり、「幸せになって愛される」という目的が達成されてしまった気がして、物語の方向性がよくわからなくなりました。(美世が幸せかどうかは読者個々人の主観によりますが)
正直、あらすじ変えたほうがいいんじゃ⋯⋯と私はそう思っちゃいました。

イケメン君が美世のご飯を褒めて心を開いてからは、白雪姫やシンデレラが王子様と結ばれ、その後の幸せな後日譚が延々と続くようなグダグダ話になります。途中ざまぁ展開もありますが、p200以降で相当後です。それまでの中盤は伏線貼りはいくつかあるもののずっと何の事件も起きず、美世とイケメン君のグダグダイチャイチャが延々と続くのみです。中弛みが半端なく、非常に退屈でした。

ご飯を褒めた後、美世とイケメン君はデートします。
イケメン君、ご飯に毒を盛られたと警戒するあたり、自分は狙われている身だと思っているのでしょう。美世もイケメン君は暗殺を恐れているんだと思う辺り、異能家には対立関係があるそうですね。
イケメン君、暗殺される可能性のある立場で真っ昼間から平然とデートしても大丈夫なんですか? 狙ってくるのは恐らく異能家や異形の存在でしょうから、遠距離からご飯に毒を盛られたり攻撃されたりすることは警戒しないんですか。

美世も、つい数日前まで幼少期から長期間続いた壮絶な虐待人生を送っていたのにやたら楽しそうだし、態度明るいし、わざとイケメン君の前でいい子を装っているわけでもなそうだし、心からデートを楽しんでいている感じ。
なので、この子本当に数日前まで被虐待者だった子なんだろうか? 本当に精神ボロボロでトラウマ抱いて苦しんでいるんだろうか? と違和感が。親が亡くなって凄く悲しみ廃れていたのに、数日後すぐに何事もなくケロッとして元気になったような不自然さです。
これだと読んでいて、あれだけ虐待されていたのに普楽しそうだし、美世幸せそうだなー?と私は思っちゃいますね。
既に生気を取り戻してしまったような感じがします。
何年も経って感情が冷却されたトラウマ持ちなら言動が明るくても違和感はありませんが、つい最近までの新鮮なトラウマ持ちという設定のキャラクターが明るい子だと個人的に「あれ、随分とメンタル硬いな?」と思っちゃいます。
デート以外の場面でも、被虐待者という重くて暗い鬱々とした雰囲気が美世の言動から感じられないから、彼女が日常的に酷く追い詰められているように見えない。
後、虐待による後遺症とかも見受けられないから余計に彼女がイケメン君によって満たされているような気がするのでしょうか。これについても後で書きます。
2005年頃に同じくネットから書籍化された『華鬼』という小説の主人公は親からずっと虐待され、学校ではいじめられて散々な人生を歩んできて、作中ずっと根暗で卑屈で死にたがりなところもある鬱女です。そんな幸薄く暗い彼女を優しいイケメンたちが引っ張っていき、彼女も徐々に変わっていくという差異がはっきりしていて、救われる側、救う側の立場がしっかり書かれていて主人公のキャラクターも引き立っているし、主人公がどう救われていくのか、という期待が持てます。
でも、この作品の主人公とイケメン君はその差異があまり感じられなくてどちらのキャラクターも引き立っていない。
デート中に虐待のフラッシュバックが起きて、美世が飯を吐くなり突如泣き出すなりしてイケメン君が「どうした美世!?」と言って慌てるなど、トラウマによる悶絶シーンがあれば、美世が過去のことでとても苦しみ病んでいるのが伝わったかもしれないし、二人がこれから解決していくべき課題が浮き彫りになってわかりやすかったかもしれません。

そしてイケメン君は長年女性に対して苦手意識全開だったのに、美世とちょっとデートし数日同じ屋根の下で過ごしただけで、美世に対し「死ぬまでここにいろ」「お前とは結婚してもいいかも」といきなり溺愛してしまいます。
イケメン君は冷たい性格だと言われるが実は心優しかったというのはまぁわかりますが、彼はずっと長いこと女性への苦手意識を抱いていました。苦手意識の浄化が急すぎます。その苦手意識が数日共に過ごしただけの美世に対してはあっさり消え去ってしまうのは不自然だし、いきなりすぎると思いました。

イケメン君が美世に心を開いた理由として、1つ目に美世が今までの嫁とは雰囲気、仕草、性格が違い、健気で優しい女の子であまり嫌悪感がない。二つ目、美世がイケメン君にご飯を旨いよと褒められて「褒められるのは初めてで」と泣いたことから、彼女がどんな環境で育ってきたのか気になったとあります。しかし、それだけですぐにすんなり心変わりしちゃいます? ベタベタに惚れちゃいます?

美世に興味を持ったのは彼女に心を寄せていくきっかけでしかないと思います。ベタ惚れに至る強烈な動力にはならないと思います。ベタ惚れに至るまでの過程を、あらすじにあった日々料理を作り触れあっていくシーンで丁寧に描いて欲しかったし、そのほうが多少ご都合主義でも説得力がありました。
あとは⋯⋯実はイケメン君が自分の嫁に相応しい女かどうか試していて、見事美世が合格してこいつを嫁にしようと思ったとか理由があれば、結婚してもいいかもと思ったり、ベタ惚れしたわけにもう少し納得できたのですが。

イケメン君の人物造形も、もう少し不信感や抵抗感などを持った草食系男子として描いたほうがリアリティーがありました。美世に対する優しい対応が年相応のものと言えば頷けなくもないですが、でもすぐ心を開くのは都合が良すぎます。

よくあるご都合溺愛系俺様イケメンと変わりないじゃないですか。

次に、悪夢にうなされる美世に異能力の何かが貼り付いているのをイケメン君が見るシーンありますけど、最強と言われる久堂家のセキュリティー低すぎませんか(笑) 他の異能力が及ばないよう結界貼るとかしてないのかな。
もし悪夢の原因が他者の異能力なら、久堂家のガバガバセキュリティを改善すれば美世が悪夢に苛まれることもなかったとか?と勝手に推測しました。

p90ページ辺りで、無能の美世が実母から受け継いだ可能性があるという最強の異能力『薄刃』の開花と継承を狙い、幸次の父が美世を欲しがる伏線シーンがあります。薄刃は国家権力者も恐れるほどの凄まじい攻撃力を誇る最強能力で、能力の持ち主は身を潜めてひっそり暮らしているのだそうです。
ここでまた疑問が。
このシーンで幸次の父は、美世が薄刃の力を開花するかもしれないのに斎森家の家長である美世の父が久堂家に嫁がせしまったと悔しがり、彼女を欲します。
異能力が開花するのは五才頃で、年を過ぎても開花しなければ無能であると言われていると説明されていますが、幸次の父が十九歳になった美世の異能力開花を期待する辺り、稀に例外もあるそうですね。ちなみに香耶は三歳で見鬼の力を開花しているので、五才頃説は絶対のものではないそうです
もし例外開花が各異能家に周知されていることならば、最初から薄刃の力を開花する恐れのある美世がいる斎森家に監視や暗殺の手が及んでいなかったのかなと疑問に思いました。国家が美世の例外開花を恐れて事前に暗殺したい、とかそういうのはなかったのでしょうか。
美世が嫁いできてからイケメン君を監視する異能の何かが現れる伏線シーンがありますけど、あれは美世のいる久堂家を監視するためのものなのかわかりませんが、とにかく美世みたいな予備軍を含め
薄刃の持ち主は国家から狙われているんだと思います。(薄刃の力についての説明が出てきた直後にこの伏線シーンが出てきたので、作者様はたぶん監視する異能力を美世たちの追手だと暗示したかったのではと推測)
なので、最初から斎森家は狙われていなかったのかと疑問に思った次第です。

デートの次に美世は香耶になじられて卑屈になって泣いたり、幼なじみの幸次のお父さんに連れ去られたりします。200ページ近くまで来て、ようやく小さな事件が起きます。遅すぎ。
幸次のお父さんは美世の薄刃の力を自分家に継承させたいため、美世と幸次を結婚させようとします。薄刃の力は国家権力から恐れられ狙われている危険なものなのに、随分リスクが高くメリットもないことをするもんですな(笑)
そして香耶は幸次のお父さんの策略を手伝い、イケメン君を手に入れるために婚約者を交換しようと美世に持ちかけます。
香耶も幸次のお父さんも、頭が悪すぎます。香耶、美世とイケメン君が仲良しな状態で彼女を引き離そうとすれば、そりゃイケメン君何しやがる!と取り返しにくるだろ(笑) まんまと逆襲されるわけだよ。どうして幸次のお父さんもそんなことがわからなかったのか。アホすぎ。
美世とイケメン君の仲を引き裂く工作をして、美世に対する信頼を損なわせ、あんな子より私のほうがいいわよ?と自分の良さをアピールしイケメン君に接近する展開とかなら、彼も葛藤するだろうし、幸次がイケメン君に「一緒に美世を助けに行こう!」と誘うのも防止できたし、ストーリー的にもっと面白かったし、香耶の狂気的なキャラがより引き立ったと思います。
それとも、香耶を「私のほうが良いのよ!」という感情をただ一方的にぶつけるだけの幼稚で薄っぺらい女として書きたかっただけでしょうか?

そして香耶に捕まった後、美世は生まれて始めて彼女に対してぶちギレます。今まで自分を虐げていた妹に対し反抗する見所シーンですが⋯⋯ちょっと待ってください。つい数十ページまで美世は香耶になじられて卑屈になって、泣いていたんですよ? それに香耶は異能力を持っているのに、反抗すれば殺されるとなぜ美世は危惧しなかったのか。手ぶらで魔物に立ち向かうようなものです。

つい最近まで香耶にいじめられて泣いて私なんかと卑屈になるほど脆弱だった美世が、異能力を持つ香耶に反抗できるほどにいきなりメンタル強化されちゃって、凄く違和感がありました。私なんかと卑屈になった後、主人公のメンタルが強化されていく過程が一切なかったので不自然でした。

イケメン君もゆり江も私に優しくしてくれたという、美世のメンタル強化のわけを匂わす文章がありますが、二人から優しくされただけでメンタル強化できたのですか。優しくされてからもいじめられて泣いていたのに?
誰かから優しくされてもそれはほんの気休めに過ぎず、急激なメンタル強化には至らないと思います。
この時点で主人公も十分なくらい成長してしまっており、次巻からこれ以上成長していくこともなさそうだなぁと思えてしまいます。主人公がすぐ幸せになってその後中身のないイチャイチャばかりが続くだけで、二巻を買う気にはなれません。

作者様が心理描写を丁寧に書こうとしているのは伝わってきますが、心情変化の書き方が甘すぎます。作者の都合のいいようにキャラクターの心理描写が書かれている感じで、どのキャラも操り人形感が否めません。

一方的にイケメン君からすぐ愛され、敵キャラは頭が悪すぎで、美世は急激にメンタル強化されて、もうご都合主義のごり押しで話は進みます。

それでも、P60前までは滅茶苦茶引き込まれたのは確かです。P60までのクオリティをラストまで維持できたなら間違いなく★5でした。P60までは本当に上手かったのです。でもその後がかなり残念で、全て台無しに感じました。

あと、異形の存在とか、異能家とか、異形を倒す部隊とか、それらの設定をストーリーに全く活かしきれていません。個人的にここは本当に致命的でした。
異能家の相互関係、敵対関係の説明も薄い。異能家同士の繋がり、利益、協力関係などの具体的な説明は無かったです。
各家の敵対関係の説明に関しても、毒を入れたとイケメン君が疑い、美世が彼は暗殺を恐れているんだなと思う描写しかなく、相互関係と相まって異能家の対立構造もわかりづらいです。
さらに各家の策謀の具体的説明や伏線もなしで、緊迫感の欠片もありません。
相互関係、敵対関係、策謀、もっとここらへんの説明を丁寧に書かないと主人公たちを取り巻く背景の全体像が把握できない。

ゆえに伏線の張り方も雑に感じてしまいます。
美世が薄刃の力を開花するのを期待し横取りしたいと画策し美世を横取りする展開、美世に悪夢を何者かが見せている展開、イケメン君を監視する異能の何かが現れる展開がちらほらとありますが、『異形の存在、異能家の関係、異形討伐部隊の要素など背景の説明が皆無』なので続きが気になる!これどうなっていくの?という動力源に全くなっていません。
伏線というのは、ただ貼るだけでは説得力に欠けるものです。他の小説の伏線だって、物語の節々に出てきた様々な説明、要素などをちゃんと点と点で結び付けているじゃないですか。本作品の伏線にはそれがほとんどないのですよ。
敵対関係や各家の策謀も、一応二人の生活を阻害する要素の一つなのでしょう? 憶測ですけど。上記(異形たち、異能家の相互関係、敵対関係など)からなる物語の裏側の全体像を垣間見せないと背景事情が掴めず、より話の中身がスカスカになるじゃないですか。
一番ストーリーに関わりそうな美世が開花するかもしれない薄刃の力に関する導入も興味の引き方も弱いです。個人的にはこれを一巻の始めの時点から物語の重要要素としてストーリーに組み込んで欲しかった。唯一、各家に恐怖を与え巻き込む要素、無能にして最強の力を開花する恐れのある主人公という魅力的な設定なのですから。薄刃の設定が様々な人々、二人の結婚生活に影響を及ぼしていくという導入で序盤を書いて欲しかったです。そのほうが、もっとストーリーの基盤もしっかりしていたでしょう。

異形たちが引き起こす事件や異形討伐の部隊の活躍もない。ここら辺の伏線も展開も皆無なのは残念でした。一体何のために異形や異形討伐部隊の設定があるのか、一巻の最後まであやふやなままでした。

そしてこの作品で一番重要そうな『結婚』の設定も全く活かし切れていません。『幸せな結婚』とタイトルにあるのに、私が読んだ限りでは別に結婚なんかしてなくてもイケメン君からは溺愛されラブラブだし、結婚自体が美世の心を癒やすわけでも、美世たちの生活を邪魔する者たちから守り手助けする武器になるというわけでもない。   
結婚したことで家と家の繋がり出来て美世を守り幸せにする仲間や展開が増えていくわけでもなさそうです。斎森家や幸次の家とは一巻最後まで和解出来ていないし(今後、あの何の掘り下げもなさい絵に描いたような薄っぺらい悪役が安易に改心したら萎えますね)。
結婚してから物語が大きく動き出し、色んなキャラクターを巻き込んでストーリーが紡がれていく、という導入や伏線は一切ありませんでした。
結婚という設定の重要性が全く感じられません。
結婚により薄刃の力が開花して、敵役たちが一生懸命離婚させようとする話とかだったら活かさせていたかもな、と思いました。

特に酷かったのは、ストーリーの方向性が一巻最後まで曖昧だったことです。というか全くわかりません。この作品の進むべき最終目標は二人が結婚することなのか? 結婚してから、二人の幸せをよしとしない者たちとの対立や駆け引きを乗り越えていく物語なのか?
一巻目はこれから物語がどうなっていくのかという導入部分なのに、最終目的や方向性をきちんと書けていない気がします。

前者はイケメン君が序盤からもう既に「美世と結婚してもいいかも」とあっさり感じてしまっていて、色んな出来事を二人で乗り越えてようやく結婚する物語という感じでもない。

結婚していいかも!と思うがその先に様々な障壁や対立が待っていて、美世と二人で乗り越えて幸せを掴んでいくぞ!という話でもなさそう。二人の結婚が辰なんとか家を含め各異能家や人物にどんな利害や利益をもたらし、どう巻き込んでいくのか、ストーリー全体をどう動かしていくのかを垣間見せる伏線、描写は見当たりませんので。
最後の香耶たちに拐われ監禁される場面で美世の薄刃の力が覚醒し、各異能家が慌てて、美世を恐れて対処に出るシーンがあれば少しは話の方向性が見えて、続きを読みたいという気持ちになれたかもしれません。

幸薄くボロボロだった美世がイケメン君家に嫁いだことにより高い地位を得て、自分を磨いたり、問題解決をしていったり、異形に脅かされる世界を救っていくという話でもなさそうです。上に書いた通り、異形討伐部隊や異形や異能家の対立構造、利害関係の説明があまりにも少ないので、物語の背景も把握できないし、ストーリーに絡んでくる感じもないので、これも違うでしょうか。

レビューを見る限り、読者の皆さんは主人公に幸せになってほしいと期待し、それをストーリーの目的として読んでいるらしいですが、初めに書いた通り主人公は一巻の時点で不幸から脱出し、大方幸せになっているように見えます。イケメン君から溺愛され、ゆり江からも優しくされ、虐げられない普通の生活を斎森家から追い出されてたった数日後に手に入れた上、美世がトラウマで精神的に滅茶苦茶病んでいて毎日が苦しい、イケメン君が助けてくれないと私生きていけんと誰かに必死にすがっている感じもあまりないし、メンタルボロボロ感も薄いし。悪夢の原因がトラウマだとは断定できないし。
なので、主人公がトラウマを克服して幸せを掴み取るお話として書くには根拠や説得力に欠けます。これ以上主人公に対して、物語に対して何を期待すればいいのかなぁ? と思ってしまいました。

美世がイケメン君やゆり江に優しくされて過去のトラウマを浄化していく話というレビューもありますが、そういう話として描くにしても説得力がない。
何度も書いた通り美世の精神がボロボロで病み苦しんでいる感じがしないし、イケメン君とは楽しく過ごせているし、元気で健気で明るいし、最後には自分をいじめていた妹に反抗できるほど図太くなるし、物語全体の中で過去の苦悶をズルズル引きずっている感が無さすぎて、イケメン君による美世のメンタルケアが話の主軸にしては基盤が弱すぎる。
幼少期から虐待されていたなら、相当重症な症状が出ている気がしますが。
日常でトラウマによるフラッシュバックが起きたり、突発的に感情がおかしくなって泣き出したり怯えたり、体調不良になったり、そういう心的外傷発作の描写や、脆い自己の心を守る防衛本能から来る他人への恐怖、不信感などがない上、ご飯を褒められた後のデートシーンではイケメン君と楽しそうにしていて明るいし可愛らしくなっている。媚を売っているわけでも、誰かにすがらないと生きていけなくてわざと明るく振る舞っているわけでもなく、普通にデートを楽しんでいるようで、正直、彼女の精神がボロボロになっている脆弱感、重たいトラウマを抱いている感じがとても薄い。触れれば今にも折れてしまいそうな傷だらけの心の持ち主という感じがせず、美世の虐げられた幸薄い女の子というキャラも、判で押したような薄っぺらい印象で、悲壮感も、リアリティーも、深みもありません。被虐待者という設定を活かし切れていない感じしかしない。ただのテンプレートドアマット女子にしか見えない。
なので、私には美世がイケメン君の優しさにより既に精神的に救われて幸せになっているように見えてしまいます。なのでトラウマ浄化ストーリーという方向性だと中身が無さすぎる。
表面的には楽しそうにはしているけれど心の中は傷だらけだろうと言われそうですが、そこは読み手の感性やお察し能力に頼らず描写やキャラクター設定のリアリティーによる演出で、自然と苦しみが伝わるようにしてほしいです。
トラウマで苦しいです、誰かの助けがないと毎日辛い、生きていけない!と悲鳴を上げもがいている鬱々としたヒロインに優しく手を差し伸べるイケメン、という差異をもっと上手く書けていれば、これから精神的に不幸な主人公が救われていくのだろうなと思えていたでしょう。

ストーリーの要点というか骨子が全く無いため、何を期待して読めばいいのかわからず、話が物凄くグダグダに感じます。日常ものだから伏線とかあまりなく全体的に緩いんだよ、というにしても、ストーリーがちゃんとしていないものはただの日記です。
『物語』を楽しみたい私には、延々とイケメン君と美世がグダグダラブラブする、何の面白みもない妄想日記を読まされているように感じました。

それとも二巻から、中身スカスカの一巻とは見違えるほどとても面白くなるのでしょうか? 誰か教えてください。

とにかく、一巻目はほとんど内容がない感じです。内容が無さすぎる上に突っ込みどころがやたら多いという。正直、ケータイ小説のほうがまだ登場人物同士の駆け引きやちゃんと各要素を絡めた伏線などがあったりして内容が充実していますね。
ラノベよりも、いやケータイ小説よりもまだ中身が薄い。富士見さん、よくこんな作品を出版する気になれましたね。

イケメン君とのイチャラブを前面に出しすぎて(このシーンに多くのページを割きすぎ!)、他のバックサイドがほぼおざなり状態です。だからなのでしょうか、他レビューの多くが二人のイチャラブシーンしか述べていない感があるのは⋯⋯。

上記各設定を活かしつつ、イチャラブを絡めた二重構造の巧みなストーリーが展開されるわけでもなく、主人公を中心に他キャラが動いたり事件が起きていくわけでもなく、このせいでお話を全く楽しめない。他の書籍化なろう小説のほうがもっと構成はしっかりしていますね。
ストーリーや設定は勿論、他キャラの活用、言動、行動動機も杜撰なため、主人公以外のキャラクターに全く魅力を感じませんでした。メインキャラのイケメン君のキャラさえ立っていない、魅力無しです。女嫌いで、不器用で、冷徹に見えるけどでも本当は優しくてという典型的なハリボテキャラな上、すぐ主人公に惚れる薄っぺらいキャラクターで残念です。

あとがきに作者様は好きなものを詰め込んだと書いてありましたが、本当にただ自分の好きな素材をぶち込んで、使うことなく投げっぱなしにした感じがします。何度も言いますが各設定を上手いことストーリーに組み込めておらず、そのため何のためにこんな設定にしたんだろう? ファンタジー要素余計じゃない? と読んでて疑問に思いました。個人的にはファンタジー要素抜きでも充分描けるストーリーな気がしますが、作者様が好きでぶっこみたかったならまぁいいでしょう。
唯一ファンタジー要素が役に立っているのは、美世が異能を引き継げずに虐げられたという点だけな気がします。

ひねりのないストレート型のストーリーなのはわかりましたが、緩急構成が無くても緊迫感のある人間関係、それぞれのキャラの信念、小事件を小出しに上手いこと構成すれば、静かなお話でも面白くできます。読んでて、もっとこうすれば面白くできたのになーとか何度も思ってしまいました。

この作品がとんでもなく高評価なのは、購入層の大半が元からファンの人という点、富士見書房という大手出版社が宣伝を頑張りまくったからでしょうね(この作品のコミカライズ版の広告だけ頻出してましたし)どうも過大評価感が拭えません。
もし本作が賞でデビューしたプロの作品だったなら、ここまで人気になれなかったでしょう。元が素人の趣味作品だったからだいぶ許せましたが、もしプロ作品だったなら私はぶちギレて本をぶん投げてましたよ(笑)

驚きなのが、このシリーズが100万部も売れていることです。こんなに中身スカスカな素人小説でも出版できて、ベストセラーになれるなんて羨ましい限りです。

普段から本を読まない方、読書初心者、web読者には受けるのでしょう。ある程度の数の本を読んでいる人には何もかも物足りないと思います。

最後に。こんなことを言うのはあれかもしれませんが、名作は他にもあります。他の富士見L文庫、富士見ファンタジア文庫のプロ作品を読んでみてはいかがでしょうか。多分ストーリー構成が雲泥の差に感じると思います(笑)

好き放題言いましたが、参考になれば。

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