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【ミステリーレビュー】体育館の殺人/青崎有吾(2012)

体育館の殺人/青崎有吾

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平成生まれ初の鮎川哲也賞受賞者となった青崎有吾のデビュー作。

部室に住んでいる駄目人間、裏染天馬を探偵役とした、青崎流の"館モノ"。
風ヶ丘高校の旧体育館で、放送部の部長・朝島が刺殺された。
死体の発見現場に居合わせた卓球部員・柚乃は、警察から疑いを向けられた部長・佐川を救うため、報酬を餌に裏染に事件解決を依頼することに。
巨大な密室状態であった体育館、犯人はどのように現場から消え失せたのか。
1本の傘から論理的に真相へ帰結していく、学園を舞台とした本格ミステリー。

裏染にアニメオタクという設定があり、アニメや漫画、オタク文化からのオマージュや小ネタが多く見られる。
それもあってライトな作風だと誤解してしまうのだが、中身はゴリゴリの本格派。
古式ゆかしい読者への挑戦もあり、意味合いはだいぶ異なるが、伊達に"館"シリーズを冠していない。
風変りな探偵役も、言ってしまえばお約束。
高校生が(強引にとはいえ)警察と一緒に捜査する非現実性や、関係者を一同に集めて推理を開始する非効率性など、現代ミステリーでは切り捨てられてしまいそうな設定を、こうしたギミックの中に紛れ込ませることによって受け入れさせてしまう力業は爽快であった。
フィクション度合いが高まったって、読みたいんだよ、こういうのが。

頁数の割りに、登場人物が多いなと感じたのだが、学園設定で登場人物が絞られすぎるのも、確かに違和感。
実際に読み進めれば、このぐらいの関係者は出てくるよね、とむしろ自然に読めてしまう。
アクションやサスペンス的なシーンはほとんどなく、残された証拠から論理的な推理のみで犯人を追い詰めていくカタルシスは、読みやすさとは裏腹、充実した読後感があった。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


用意周到な劇場型の殺人事件に見せて、蓋を開けてみたら案外場当たり的。
こういうタイプの謎解きのほうが、かえって答えに辿り着くのが難しかったりするから面白い。
秋月の機転がキーになったわけだが、結果だけを振り返れば、秋月が何もせずに逃げていれば、出口から出てくる犯人を早乙女が目撃してゲームセットだった可能性もあるのかな。
犯人の顔は十分に売れているわけだし。

登場人物については、あえて人物を深掘りしなかった印象。
純粋に論理パズルだけで犯人を導く目的から、動機から犯人を探らせないように気を払っていたのかと。
結果、不要にドロドロしないので、学園モノらしい爽やかさも残される。
誰が犯人であっても意外性があり、意外性がないというフラットな状況は、読みやすさ、面白さにも繋がっていたのでは。

一方で、含みを持ったオチもあって、事件についてはしっかり描き、登場人物のその後については想像に任せる、というバランス感覚が絶妙であった。
キャラクター的にはコミカライズもいけそうだな、と思うものの、漫画や映像にすると、思考と会話が主だから、動きが少なすぎるとなってしまうのだろうか。
軽いタッチのがっつり本格。
斬新な切り口と言われるのは、この辺りのギャップによるものなのだろう。


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