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【ミステリーレビュー】一の悲劇/法月綸太郎(1991)

一の悲劇/法月綸太郎

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エラリークイーンにあやかって、著者と同名の探偵役が登場する法月綸太郎シリーズの4作目。

山倉家に、息子の隆史を誘拐したという電話がかかってくる。
しかし、その日隆史は学校を休んでおり、実際に誘拐されたのは、隆史の同級生の冨沢茂であったことが判明。
誤認誘拐という特殊な状況の中、主人公である山倉史朗は、身代金の受け渡しに失敗。
茂は犯人に殺されてしまう。
犯人として捜査線上に上がった人物は、推理作家の法月綸太郎と会っていたという鉄壁のアリバイがあった。

ネタバレにもならない序盤で判明する事実として、殺された茂は、実は史朗の隠し子。
犯人候補も、妻・和美の義理の弟。
関係者が二役以上こなしており、なかなかに複雑な人間模様である。
全員が怪しく見える舞台設定としては最適で、説明に時間が割かれそうなところ、コンパクトにまとめきった筆力はさすがの一言。
フーダニット、ハウダニット、ホワイダニット、すべてが有機的に絡んで複雑化していく事件の様相は、なかなか刺激的である。

実は、このシリーズを読むのは初めて。
テレビドラマにもなった代表作とのことで選んだのだが、本作は、どうも法月綸太郎の活躍が少ないようで。
これだけ判断できないと理解しつつ、素直な感想としては、探偵役がもっとも没個性的な印象で、あまり魅力的ではなかったかな。
トリックと、それに気付くきっかけは"確かに!"と膝を打つものだっただけに、名探偵の魅力的な謎解きも、そこに加えてほしかったところだ。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


終わりよければすべて良し、といきたいところなのだが、ラストシーンがなんともイヤミス的。
結果的に、探偵役も警察も、何もできないまま事件が終わってしまう。

頼りない探偵に代わって大活躍するのは、視点人物の山倉史朗。
彼が、保身ばかり考える自己中心的な人物(しかも自覚がない)として書かれ続けるので、フラストレーションが溜まったのは僕だけではないだろう。
自分の立場を守ることしか頭にないし、勝手な思い込みで警察と連携せず、我を通して現場を混乱させるし、かっとなると誰かが止めるまで相手を殴り続けるしで、自分は有能と思い込んだプライドだけ人間の典型。
それが巡り巡って周囲の人間関係がぐちゃぐちゃになっているのに、なんとなく被害者面。
これが昭和の価値観だ、とは言っても、感情移入できないまま読み進めることになり、正直、ちょっときつかった。

そのうえで、このラストシーンである。
言ってしまえば、すべての元凶である史朗だけがまんまと生き残り、そこに残されてしまった隆史が不憫でならない。
この男、絶対に育児になんて参画していなかったでしょ、それまで。

プロットは面白いだけに、探偵役か主人公、どちらかがビシっと決めてくれる作品であれば。
同じシリーズでも、作品によって作風がガラっと変わるものもあるようなので、もう何作品かは読んでみようとは思っている。

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