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【ミステリーレビュー】ロンドン謎解き結婚相談所/アリスン・モントクレア(2021)

ロンドン謎解き結婚相談所/アリスン・モントクレア 

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謎多き作家、アリスン・モントクレアによる戦後のロンドンを舞台にしたミステリー。

戦時中、スパイ活動のスキルを学んできた小柄なアイリスと、上流階級出身の未亡人で背の高いグウェン。
歩んできた道も背格好も対照的な二人が共同経営している<ライト・ソート結婚相談所>に入会した女性が殺されて、彼女たちが仲介しようとしていた男性が逮捕されるという事件が発生。
殺人犯を紹介したとマスコミから風評被害を受ける中、どうしても彼が犯人だと思えない二人は、容疑者・トロワ―の、そして<ライト・ソート結婚相談所>の名誉挽回に奔走する。

なんとなく、タイトルや表紙の絵柄から勝手に日常的な謎を安楽椅子探偵的に解決していく短編集かと思っていたのだが、予想に反して、思いっきり本格的な長編ミステリーであった。
それも、ギャングの本拠地に潜入したり、ナイフを持って相手と対峙したりするハードボイルド要素も満載の。
舞台設定が現代日本とはおおよそ結びつかないため、慣れは必要となるが、ウィットに富んだふたりの会話や、人間味のある登場人物たちとの掛け合いも本作における魅力のひとつとなっていて、殺人事件を媒介とした、ふたりの成長物語という側面もありそうだ。

ふたりの人物描写にページを多く割いているため、テンポとしてはゆっくり。
双方が抱えている秘密についても、打ち明けた時の驚きは少なく、何ならアイリスのスパイのスキルについては、公式のあらすじでネタバレ済み。
バレバレのことをもったいぶるやり取りにストレスに感じるきらいはあるのだが、それにより彼女たちの信条や理念が明確になるのも事実で、物語に立体感を出すには必要だったのだろう。
推理の余地なく、スパイものとして解決するかと思いきや、ロジカルなミステリーに戻ってくるのも絶妙。
スロースターターではあったが、我慢する価値はあったと言えるのでは。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


スパイという概念が日常に存在する戦後ロンドンという時代設定だからこそのミステリー。
ふたりとも、戦争によって心に傷を負っており、直接的な被害だけが戦争の影響ではないのだな、と改めて考えさせられる。
また、物資不足の混乱期において、庶民と上流階級との対立構造ではなく、それぞれのトラウマや足元の受難を、友情を交えて描くことで、当時の価値観がうっすら見えてくる感覚もあった。
読後感としては、ミステリーの本編よりも、それらが印象に残るほど。
ライトなミステリーを想像していたこともあり、序盤はそのギャップに戸惑うことになった。

それでも、スリリングな展開とコミカルなやり取りを行ったり来たりする作風で、それぞれ問題を抱えつつも悲壮感はなし。
親権問題など、読む人によってはヘヴィーに感じる部分もあるだろうが、十分に娯楽作品として読みやすい部類だろう。
スパイもの、ハードボイルドものをマイルドに。
本格要素は、ほんのりスパイスとして、といったところで、"謎解き"という言葉から連想させるほど、謎らしい謎は出てこないが、大立ち回りをした後のどんでん返しには、それっぽいカタルシスを味わうことが出来るはず。
冷静にフーダニットで絞り込めば、容疑者は限られるのだが、ふたりの人間ドラマによって視界が曇らされるという点でも設定の上手さを痛感せずにはいられないのだ。

続編は、更に設定が飛躍しそうな気配。
既に登場人物が丁寧に書き込まれていることを踏まえて、テンポの良さが改善されるなら、期待大である。


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