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【ミステリーレビュー】屍人荘の殺人/今村昌弘(2017)

屍人荘の殺人/今村昌弘

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国内ミステリーランキング4冠を達成した、今村昌弘のデビュー作。

神紅大学ミステリ愛好会の会長の明智恭介は、"ペンション"というミステリーらしい設定に惹かれて、映画研究部の夏合宿への参加を志願する。
当初は拒絶されるものの、突然現れた探偵少女・剣崎比留子との取引により、交渉は成立。
ミステリ愛好会唯一の部員・葉村譲も、明智に振り回される形で同行することになった。
ところが合宿一日目の夜、想像しえなかった事態に遭遇。
閉鎖されたペンションというクローズドサークルの中で、不可能殺人が発生する。

神木隆之介や浜辺美波のキャストで映画化されたことでも話題になった作品。
実のところ、既にコミカライズ版を読んでいたので一度スルーしていたのだが、続編の評判も良いので、小説でも押さえておこうと。
率直な感想として、あらすじを知っていても面白かった。
ダークな世界観であるにも関わらず文章は軽妙で読みやすく、小説だからこその"騙し"もあり、この深みこそ本を読む醍醐味。
ディレクターズカット版を見ているような感覚だった。

本作の目玉は、なんといっても特殊設定ミステリーの決定版的なクローズドサークルの構築であろう。
ぶっ飛んだ設定ではあるが、何故そういう状況になっているかの説得力はあり、ルールも明確。
パニック小説の味わいが生まれた一方で、本格ミステリーの要素が消えるわけでもなし。
設定を活かしたトリックに理不尽さや強引さは感じず、きちんと推理パズルとして成立していた。

ネタが枯渇したと言われるミステリー界隈において、次のフェーズに進んだと思わせる特殊設定モノ。
その筆頭として、シリーズ累計100万部突破のセールスを記録したのも納得である。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


一番のサプライズが、序盤にやってくる。
とにかく、この驚きでそれ以降を読ませ切ったと言えるほどのインパクトだ。

肝試しの途中でゾンビに襲われ、登場人物の数人が脱落。
普通のミステリーであれば、災害にあっても、暴動に巻き込まれても、閉じ込められはするものの、被害者は出ず、出たとしても一人だけだったりする。(その場合、実は生きていた、実は真犯人に殺されていた、等のギミック付きで。)
容疑者か被害者か、という以前に、ゾンビ化した屍人に喰われて死んでいく登場人物。
それだけでも衝撃は相当に大きいのだが、その中のひとりに、探偵役になるのでは、と思っていた明智が含まれているのだもの。
てっきり、探偵+葉村のコンビと、剣崎の推理バトルみたいなものを想定していたら、メインキャストがあっけなく退場。
メタ的には、これは何かの伏線だろう、と思ってしまうところだが、結局、事件にはまったく関与しない。
こんなミステリー、読んだことがなかった。

設定のインパクトも然ることながら、推理パートも秀逸。
推理を披露するシーンそのものは、やや地味な印象であるも、3つの殺人、すべてに屍人の設定をしっかり取り込んでいて、特殊設定は、個性的なクローズドサークルを作るだけのものではないことを示していた。
エレベーターのトリックは、ヒントが十分に出ているので比較的わかりやすかったと思われるが、"二度殺す"意味合いについて謎を残すことで、結末に興味を引っ張ることできていたかと。

ミステリ愛好会のふたりに、重厚な本格ミステリーを愛し、ライトな作風の現代ミステリーを否定するスタンスをとらせながら、自らバキバキの特殊設定モノを放り込んで、文体的にも後者に近いスタイルをとっているのは、皮肉的でもある。
それをしっかり本格ミステリーとして昇華したぞ、という自信と気概を感じる1冊であった。

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