【ミステリーレビュー】「白い巨塔」の誘拐/平居紀一(2022)
「白い巨塔」の誘拐/平居紀一
「甘美なる誘拐」に続く、真二&悠人シリーズの第二段。
あらすじ
ヤクザの下っ端である真二と悠人は、昇進を機に組織の息のかかった探偵社で社会勉強中。
そこに、弟が殺人を犯したかもしれないと女子大生が調査依頼にやってくる。
その被害者と思われる浮浪者が住んでいた"ドクロ沼"を調査している途中、ホラー系YouTuberの一向が撮影中に白骨死体を発見する。
一方その頃、医療法人理事長の三代木は何者かに誘拐されていた。
どこに着地していくのかわからない、スピード感のある誘拐×コンゲーム。
概要/感想(ネタバレなし)
主人公のふたりは、少し組内での役割が変わって探偵社勤務に。
シリーズ化にあたり、より話が転がり込みやすい設定が追加され、第三弾以降にも期待がかかる。
真二と悠人が依頼人の弟の事件を調査するパートと、三代木ら、病院関係者を中心に展開されるパートが交互に切り替わる構成は、前作を踏襲。
視点を大きく切り替えながら、スピーディーに物語が展開していく構成も相まって、一気読みするにはちょうどよい文量と言えるだろう。
タイプの異なる真二&悠人の掛け合いが大きな魅力となっており、それだけでも読ませるパワーはあった。
反社組織にも、組織であるためのルールやポリシーは存在していて、それに対して真面目/不真面目という概念が生まれているのが、なんだか面白い。
逆に、被害者である三代木を中心に描かれる誘拐事件は、正当派のホワイダニットとして描かれていて、病院における黒い噂や、過去に三代木が書いた小説など、動機に繋がりそうな話題が増えては消え、増えては消え。
目の前の出来事に一喜一憂しながら、どこが真二&悠人のパートと繋がっているのだろう、と推測しながら読むことになる。
法人の乗っ取りという問題を含むせいで、やや難解というか、小難しい説明も多く出てくるうえ、粗も少なくないのだが、最終的には痛快さが勝る。
細かいところには目をつぶって、勢い任せに読むのが正解かもしれない。
ストーリー的には、第一弾を読んでいなくても問題なし。
クリティカルなネタバレを踏むこともなかったと思われる。
ただし、主人公以外にも前作から引き続き登場するキャラクターが多いので、余裕があれば順番に読んだ方が無難ではあるだろうか。
総評(ネタバレ強め)
これは僕が読み飛ばしてしまったのか、前作から継続しての疑問なのだが、誘拐作戦の際に真二が女装する必然性がよくわからず。
男性だったら作戦が成り立たない、ということもなかったと思うのだが、仮に読者を騙すためにだけ、であれば少しアンフェアな気がしないでもない。
とはいえ、騙し方が上手かったのは認めざるを得ない。
第一弾で、バカに見えて実は頭がまわる、という部分を見せているだけに、このオチも予想が至らなかったわけではない。
しかし、ヤクザとしての誘拐に失敗する、というシーンが丁寧に書かれたことで、その可能性を選択肢から消してしまう。
三代木に後ろ暗いところがたくさんありそうだっただけに、そのほとんどがブラフだったというのは驚いたが、だからこそ辿り着きにくい。
ブラフにしても、可能な範囲で意味付けをしていたと思うし、伏線が張りっぱなしだったというわけでもないのが絶妙だ。
マサヨシはともかく、やり手な感じで描かれていたコンサル会社の女社長、反社勢力と協力しちゃって大丈夫なのだろうか。
それはそれとして、ヤクザが噛み込んだ人気YouTuber、という五味の設定が個人的には衝撃だったり。
本作はフィクションとはいえ、実際にいないとは言い切れないから複雑。
小説の中で危ない橋を渡る医者や政治家にはなんとも思わないのに、新しい文化については、描かれた小説が少ないだけに、リアルと余計に重ねてしまうのだ。
なんなのだろう、この不思議な気持ち。
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