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【ADVゲームレビュー】G-MODEアーカイブス+ 探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.8 仮面幻影殺人事件/Nintendo Switch(2021)

G-MODEアーカイブス+ 探偵・癸生川凌介事件譚Vol.8「仮面幻影殺人事件」

G-MODEアーカイブス+「探偵・癸生川凌介事件譚」シリーズの第八弾。



内容紹介


2003年4月、シリーズ1作目の「仮面幻想事件」から8カ月後。
本作のシナリオライターである生王正生の元に、新作ネットワークゲーム『ミスティ・オンライン』βテストへの招待状が届いた。
『ミスティ・オンライン』は本邦初のMMOADVで、実在する街によく似た世界で起こる事件を仲間とともに解決していくこれまでにない画期的なゲームであった。
癸生川探偵事務所の白鷺洲伊綱とともにβテストに参加し架空の殺人事件に挑戦するも、高所から転落死した、という設定だった「死体役」のプレイヤーから応答がなくなり…
現実と幻想。
現在と過去。
複雑怪奇に絡み合う無数の糸は幻影を描き、人の心を包み込んでゆく。

G-MODEアーカイブス+ 探偵・癸生川凌介事件譚Vol.8「仮面幻影殺人事件」



解説/感想(ネタバレなし)


携帯アプリにて、2005年3月にイントロダクションが無料配信。
同月、ニンテンドーDSソフトとして本編が発表され、携帯アプリ外ではシリーズ唯一のゲームリリースとなった。
2009年にフィーチャーフォンアプリとして逆輸入されていることを踏まえ、「G-MODEアーカイブス+」のラインナップにも組み込まれた様子。
Vol.8というナンバリングはイントロダクションの発表時に合わせたもので、ストーリー上に影響があるものではないものの、本編ではまだ未消化の事件に言及していたりするのでご注意を。

イントロダクション、前編、後編という形式で収録。
ゲームのシナリオライターである生王正生と、探偵助手の白鷺洲伊綱コンビがメインで調査を行い、名探偵・癸生川凌介は裏で暗躍している王道形式。
準レギュラーとしては、音成の出番がだいぶ増えた印象で、Vol.7のスピンオフはそのための助走だったのだろうか。
弥勒院も電話を通して声だけ出演。
ボリューム感は、さすがDSソフトといったところだ。
その分、価格は1,800円と他のソフトよりも1,000円程度高いのだが、コスパとしてはむしろVol.7よりも良いのでは。

ゲームシステムも大幅に改善。
コマンド操作がしやすくなっていて、パソコンの活用を組み込んだ新システムも機能していた。
第一弾の「仮面幻想殺人事件」では、ゲーム内の仮想現実をモチーフにしながらも踏み込めなかった部分について、まったく別のシナリオを持って来たうえで再度掘り下げをしてきた印象。
現実世界と、ゲームの中の世界、両方がリンクして殺人事件が起こるという設定が効いていて、どんでん返しに次ぐどんでん返しも健在。
期待を大幅に上回ってきたな、と。



総評(ネタバレ注意)


「仮面幻想殺人事件」から8ヵ月後の「仮面幻影殺人事件」。
続編なのかなと思ったけれど、そうでもないようで。
同じくゲーム会社・ゲンマが開発したオンラインゲームという設定だけに、"タクリマクス"を遂に自分で操作できる、となったらそれはそれで熱かったのだけれど、β版というのが前提になっているから仕方ないか。

とはいえ、意識はされているようで、あらゆる点で「仮面幻想殺人事件」の上位互換。
複数の事件がひとつに繋がっていくシナリオ、オンラインゲームを設定に組み込むことで可能になるプレーヤー誤認トリック、伊綱の推理を癸生川がひっくり返す多重解決的な作風。
横にも縦にも深い物語性を持たせて、本当はこんな切れ味にしたかったのか、と納得できる充実度だ。
よくあるミステリー作品への批判に、"動機が弱い"、"人間が書けていない"というものがあるのだが、この真犯人の場合、動機が弱いほど不気味さを演出し、人間味が感じられないほうがリアリティがある。
最後の生王の言葉によって収まりは良くなったものの、これだけ時間をかけて特定した犯人が、探偵の説得にもまったくなびかないほどのサイコパスでした、というのもなかなか挑戦的で、犯人が誰かは特定できたとして、こういうラストシーンが待っていることは誰も想像できなかったのではなかろうか。

ろくに指導や指示をせず、管理もせず、失敗した助手の前で正解を披露しつつ説教を講じる癸生川は、時代が違えばパワハラなのだろうか。
ここからしっかり立て直す伊綱のメンタルとポテンシャルはもっと評価されて良いはず。
なんだか、視点人物であるが故に成長が見えにくい生王くんが不憫である。


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