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【ADVゲームレビュー】春ゆきてレトロチカ / PlayStation5(2022)

春ゆきてレトロチカ / PlayStation5

スクウェア・エニックスから発売された、全編実写により構成された"新本格"ミステリーアドベンチャー。


あらすじ


ミステリー小説家の河々見はるかは、不老を研究する科学者・四十間永司の依頼を受け、百年前の白骨死体が桜の木の下から見つかったという永司の実家、四十間邸を編集者の山瀬明里とともに訪れる。
依頼の内容は、白骨死体の正体究明と、この家に伝わる"不老の果実"の在処を探ること。
必ずしも友好的ではない四十間家の人々に、調査のきっかけを掴めないはるかであったが、明里から、四十間家の先祖・佳乃が書いた小説が掲載された古書を渡され、百年前に“不老の果実”をめぐる殺人事件が起こっていたことを知る。
四十間の歴史に触れて、少し不老への信憑性が増す中で、今度は実際の殺人事件が代替わりの儀式のさなかに発生するのだった。



概要/感想(ネタバレなし)


「428 封鎖された渋谷で」の伊東幸一郎がディレクターを務め、「全裸監督」のたちばな やすひとがシナリオを担当。
プロデューサーは「NieR:Automata」の江原純一と錚々たる面々。
この面子で、実写での新本格ミステリーをゲームで再現しようというのだから、もうこれはシナリオに期待しかないでしょ、と。

とはいえ、シナリオの感想をネタバレなしでは語り切れないので、まずはゲームシステム。
これについては、まだまだ改良の余地ありだろうな。
基本的には一本道のストーリーだが、ドラマを見るだけにさせないようにか、手掛かりが出てきたらボタンを押したり、相手に対するリアクションを選ぶ選択肢が出てきたりする。
ただし、それがゲーム性として活きているとは感じられず、トロコンに一部影響するのみ。
なんだか作業チックで、もう一方の選択肢を選んでいたら、どんな風に物語が転んでいたのだろう、となっていかないのだ。
犯人当てミステリーの形式上、シナリオ分岐をさせると破綻してしまうのは理解するが、テンポが悪くなるという印象が先立ってしまっただろうか。

構成としては、問題編、推理編、解決編と3部構成。
問題編は、マルチロールで展開される実写ドラマを見ながら、上述のとおり、手掛かりを拾い集めるパート。
その手掛かりを、推理編で整理することで、いくつも仮説が生まれていく。
ある程度、真相に繋げるための仮説が作り出せたら、解決編。
推理編ですべて仮説を作ったところで、解決編で正しい選択肢を選べないと、犯人までは辿り着けないという仕組みである。

推理編は、頭の中でぼんやり考えていることを仮説にしていく過程が面白いのだが、命題に対して結びつけるキーワードが曖昧というか、感覚的にこれだよね、というものが当てはまらなかったりする。
トンデモ仮説までコンプリートしようと思うと、もはや総当たりで選択肢を選び続けることになりがちだ。
また、解決編でミスすると、推理編まで戻されるのがストレスフル。
完成している"論理の路"をいちいち辿って、最後のパネルを置き直さなければいけない。
せめて、推理まとめまで戻るぐらいで良かったのでは。
ミステリーゲームである以上は、推理パートが肝なのは言うまでもないので、ここのUIはもう少しストレスがかからないようにしてほしい。

逆に言えば、グラフィックは映画レベル。
どんなグラフィックが進化しても、生身の人間でないと表現できないテーマを扱い、実写ミステリーの可能性を十分に見出していただけに、ここさえ改善されれば、第二段ではもっと爆発できそう。
本作をトライアンドエラーの第一歩として、実写ミステリーゲームのノウハウを蓄積してほしいものだ。



総評(ネタバレ注意)


それでは、シナリオについて。
100年前、50年前、現在を行ったり来たりして、5つの殺人事件の犯人を暴くという流れ。
ひとつひとつは単体で完結しているのだが、100年前の白骨死体の正体と不老の果実の在処、それに加えて、100年越しの悪意の源である赤椿とは誰なのか、という謎が横たわっており、すべてが少しずつ繋がっているという構成でもある。
マルチロール形式で、時代が変わっても、ほぼ同じキャスト陣で演じられるため、キャストによって犯人がわかる、というメタ視点は通用しない。
実写モノ、しかも相応に有名なキャストを起用して、となると、案外、これを封じることができたのは大きかったようにも思う。

また、"叙述トリック"が使えたのも、マルチロール形式のたまもの。
顔をいくらでも量産できるイラスト仕様であれば、このトリックは成立しにくい。
実写で、かつ同じ役者が複数の役割をこなすという設定があったからこそ成り立つトリックであったという意味で、最後のオチは、このゲームの特徴をフルで活かしきったものだと断言できる。
正直、100年前の事件が掲載された古書を読む際、明里がはるかに"屋敷の中のひとたちを思い浮かべると読みやすい"とアドバイスしていたのは、いかにもキャストを使いまわすことへの言い訳のようで萎えてしまったのだけれど、まさかあれが伏線だったとは。

個々の事件の難易度は、もう少し骨があっても良い気はするものの、それは相性がある話。
大ネタのある連作短編としての構成はなかなかのクオリティである。
エンディングの時点で回収されていない伏線が多々あったので、ブラフを張りまくって混乱させるタイプの雑なシナリオかと誤解しそうになったのだが、クリア後、真の最終章が待っていて、どんでん返しに次ぐどんでん返しですっきりと終わる結末は見事としか言いようがない。
強いてあげるなら、"不老"という前提がある特殊設定ミステリーとも言える中で、もっと特殊性をトリックに活かしたかったか。
黒幕の赤椿に不老のアドバンテージが見られず、あくまで古き良き新本格推理小説のお作法に則った犯人当てに終始していたので、ゲームらしいダイナミックな展開があっても良かったかもしれない。
もっとも、それを狙って脱出ゲーム化した第5章が少し蛇足的になってしまっていたことを踏まえれば、まずは正攻法で、という判断も間違いではないのだろうけれど。

”年齢"の微妙な表現は、どんなにグラフィックが発達しても、イラストでは難しい部分であり、生身の人間が演じることでリアリティが出る。
テーマもトリックも"実写である"ことの意味付けがされていて、難易度であったり、ゲームシステムであったりの改良が進めば、まったく新しいミステリーゲームの手法が出来上がりそうだ。
名作と呼ぶにはもう一歩ではあったのだが、この先にある未来が待ち遠しい。

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