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【ミステリーレビュー】デッドマン/河合莞爾(2012)

デッドマン/河合莞爾

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第32回横溝正史ミステリ大賞に輝いた河合莞爾のデビュー作。

"鏑木特捜班"シリーズの1作目。
全体的な構成としては、ミステリー要素を強めに出した警察小説といった印象。
鏑木警部補が探偵役にはなっているものの、叩き上げの同僚に、無鉄砲な刑事オタク、プロファイラーの若手コンビといったチームの活躍が主軸として置かれていて、彼らの成長も見どころとなっている。

頭部のない死体が発見されることを皮切りに、体の一部が外部に持ち出された形式のある死体が合計6体発見されるところから物語はスタート。
手がかりが乏しく、捜査は困難を極めるが、ある日、持ち出された死体の一部を繋ぎ合わせて誕生したという"デッドマン"から、自分たちを殺した犯人を逮捕してほしい旨のメールが警察宛に届き、物語は動き出していく。
猟奇的な死体の処理方法については、島田荘司の「占星術殺人事件」のオマージュと思われるが、実際に”デッドマン"の視点を挿入することで、見事に設定を昇華していたと言えるだろう。
本当にこの設定で進むのかよ、と驚きとともにページをめくり続けることになったのは、僕だけではあるまい。

猟奇殺人の真相、という謎に引っ張られてテンポ良く展開。
文章としてはとても読みやすく、一気読みも可能な、ほどよいボリューム感だ。
テンポを重視するため、警察内部での政治であったり手続きであったり、という社会派的な側面は端折られたり、ご都合主義的だったりするので、リアリティを求めすぎると雑に見えてしまうのかもしれないが、エンターテインメント作品としては、無駄がないとも言い換えられる。
ラストシーンは、主人公たちにとって良くも悪くもない終わり方といったところで、最後にもうひとつカタルシスが欲しかったものの、これはSF要素を許容しているのか、いないのか、というメタ視点で惑わせる点でも斬新な良作だった。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


コンパクトでスピード感のある展開が魅力なだけに、あちらを立ててればこちらが立たず、といった側面はあるのだけれど、ひとつもったいなかったのは、真相に繋がるヒントがまとめて出すぎたこと。
被害者たちを結び付けるミッシングリンクが判明するタイミングと、”デッドマン"が平成という元号を知らないと記述されるのが、ほぼ同時。
片方ずつ、別々で出てきていれば、”デッドマン"の正体に結びつく前に記憶から消えてしまって、伏線として機能すると思うのだが、この2つの情報が一緒に出てくれば、否が応でも”デッドマン"の属性に気が付いてしまうのである。
本作においては、この謎がすべてと言っても過言ではないので、もっと上手に隠して欲しかったというのが本音かな。

ただし、そこから先をタイムリミットサスペンス的な展開にしていたのはファインプレー。
探偵役による冗長な種明かしモードに入るのではなく、犯人が最後の標的と接触しそうだというのがわかって、どのように近づくか、どのように処理するか、という警察小説の王道クライマックスを迎えるのだ。
これにより、真相が推理できていたとしても、続きが退屈とはならなかった。
深読みすれば、最後の盛り上がりは約束されているので、ミステリー要素については、読者に対して”結末を読む前に解くことができた!"という成功体験を与えるよう、あえてヒントをわかりやすく提示した、なんて解釈も出来そうで、著者の意図を聞いてみたいところである。

いずれにしても、鏑木特捜班のキャラの勝ち。
シリーズの別作品も読んでみたいと思わせるには十分なインパクトを与える1冊だ。

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