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【ミステリーレビュー】孤島パズル/有栖川有栖(1989)

孤島パズル/有栖川有栖

無題

"学生アリスシリーズ"の第二弾となる有栖川有栖による長編2冊目。

アンフェアな感想になってしまうのだが、現代劇として読むその他のミステリーに対して、ゲーム性が強い古き良き本格ミステリーを地で行く彼の作品は、これはこれで、それはそれ、で楽しいのである。
とにかく謎解きの興奮だけを求めてミステリーを読み漁っていたことを思い出させてくれる。
古典の領域に入ったからこそ、手放しに面白いと言い切れるようになったとも言い換えられるのだが、やはり帰ってくるべきところはここなのかもしれない。

エラリー・クイーンに倣った"読者への挑戦"は本作でも継続。
前作同様、クローズドサークル内での連続殺人事件に江神二郎と有栖川有栖が巻き込まれるという設定だが、宝の地図あり、密室の謎あり、要素としてはよりゲーム性が強くなったと言えるだろう。
「月光ゲーム」における火山に閉じ込められる大胆さに比べたら、孤島に閉じ込められる設定は平々凡々に感じられてしまうものの、地形を上手く物語に取り込んでいたし、レギュラーメンバーに有馬麻里亜が加わったことで強まった青春ミステリーとしての要素は、海があるからこそ活きた部分でもある。
個々のキャラクターについては、見違えるほど良くなった印象だ。
織田、望月両先輩を、あえてストーリーに組み込まなかったことは英断だろう。

謎解きとしては、タイトル通り、パズルが意識されている。
作中にもジグゾーパズルがアイコンとして登場するが、出揃った情報から事実をひとつひとつ、パズルのピースを当てはめるように消し込んでいくと、犯人が炙り出せるようになっていた。
とはいえ、だからといって全容が簡単に想像できるものではなく、"犯人はわかったと思うけど、密室はどうしてこうなったの?"ぐらいのふわっとした探偵ごっこになってしまう。
宝の地図にしても、フーダニットにしても、読者が手が届きそうでギリギリ届かないラインを見極めるのが、本当に上手い作家であるなと感心してしまった。
結末におけるベタさは、どうしても陳腐化してしまっているきらいはあるが、時代感を踏まえれば納得できないこともないはずだ。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


江神二郎は、探偵役としては個性が弱いと思っていたのだが、二作目になって、その前に出すぎない探偵像が彼の魅力であると気付く。
それに加えて、マリアの登場は"学生アリスシリーズ"におけるシリーズである意味を大いにわかっている配役だった。
アリスとマリアのコンビは話を回すうえでも、青春要素をプラスするうえでも有効であったし、マリアの感情豊かさが、登場人物のキャラクターを掘り下げ、物語に深みを与えるスイッチになっている。

それでいて、彼女がその後もレギュラーとして登場することが確定していない本作の前提においては、犯人ではないか、と疑わせるには十分な素質を持っていたのだ。
犯行時間にボートが使えなくなる前提を作り、英人に特別な感情を持っていたかのような描写も多く、ともすればアリスや和人の行動をコントロールできそうな振る舞いを見せる。
青春の甘酸っぱさでさえ、"一番怪しくない人が犯人”の法則に則れば伏線と言えなくもない。
その積み重ねがジャブのように効いているので、江神がアリスのみを呼びつけて推理を披露する終盤のシーンにおいて、真犯人を推測できていても、マリアを呼ばないのは犯人だからではないか、との疑いを消すことができないのである。

密室については実際はトリックではなかった、ということではあるのだが、序盤からそんない重要ではない、という空気のまま展開されていき、フーダニットにもそんなに影響を与えないという密室の無駄遣い。
密室トリックを期待することで看破するのがより難しくなるのだが、アリスと江神のやり取りによって、読者にも、"密室は気にしなくて良い"というメッセージが送られているので、これはフェアだとしておこう。
強引さでいったら、普通の女性が、ボートで15分の距離を着衣水泳で深夜に往復してしまうほうが現実的ではない気がするし。
無理ゲーを一発勝負でやり遂げてしまう新本格ミステリーの犯人たちには、いつもいつも本当に頭が下がるな。
毎度、楽しませてもらっております。


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