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【ミステリーレビュー】46番目の密室/有栖川有栖(1992)

46番目の密室/有栖川有栖 

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テレビドラマも話題になった"作家アリス"シリーズの第一弾。

"学生アリス"シリーズにハマってしまったのだが、読み切ってしまうのも寂しい気がして、ちょっと寄り道しての"作家アリス"。
何作かは読んでいるのだが、改めてしっかり読んでおこうかと。
ミステリー好きには有名な設定、"学生アリス"の有栖は"作家アリス"を執筆していて、"作家アリス"は"学生アリス"を発表しているというのは、同じ1992年に発行された「双頭の悪魔」と本作がそれぞれ初出。
2009年には加筆修正された新装版が発表されているロングセラー作である。

海外でも"日本のディスクン・カー"と称される密室の巨匠、真壁聖一のクリスマスパーティーに招待された推理作家の有栖川有栖と、臨床犯罪学者の火村英生。
真壁の家族、担当編集者、親交のある推理作家が集まる軽井沢の別荘にて、実際に密室内の死体が発見される。
殺害されたのは、真壁本人と、最近目撃されていた謎の男。
至ってスタンダードな新本格ミステリーといったところだが、火村英生のデビュー作は、このぐらい王道的なものであるべきだろう。
作中では既にいくつか難事件を解決しており、警察からの信頼がある前提でスタートするので、"強くてニューゲーム”感はあるのだが、探偵パートで情報を集め、推理パートで真相をつきとめる、犯人当てパズルに専念しているという意味では、コンパクトにまとめられ、読みにくさがない長編ミステリーであると評価できそうだ。

30年近く前の作品ということで、トリックの新鮮味が欠けてしまうのはやむなしだが、安定・安心。
現実的に実行可能かは置いといて、密室の謎にときめかない新本格ファンはいないはずだ。
ドラマの後によむのははじめてだったため、頭の中で描く有栖&火村コンビのヴィジュアルイメージはだいぶ変わってしまったけれど、過去に読んだ作品も含めて、読み直してみたくなる1冊であった。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


いかにも怪しい謎の男を登場させた時点で、実際は犯人ではないけど、常に怪しい動きをするスケープゴート要員なのかなと思っていたのだが、名前も目的もわからぬまま被害者になってしまうのは驚いた。
伏線的に過去の火事のシーンが描かれているため、殉職した消防士が実は生きていて、真壁殺害には成功したものの、もうひとりの生き残りである船沢を襲った際に返り討ちにあったのか…なんて推理をしてみるも、完全に不発。
まさか、動機と火事は一切関係ないとは。

もっとも、トリックありきで考えれば、犯人の推測は立てやすかったはずだ。
謎の男の介入により、アリバイトリックが水の泡になったというイレギュラー要素を噛ませたのが、著者の上手い点。
足跡を踏んだ跡がある、という方向に目を向けさせられたことで、読者としてはかえってわかりにくくなっていた。
真相がわかれば、そんなことで殺さなくてもいいのに、と現代の感覚としては思わなくもないのだが、30年の間に、ジェンダーの意識はなんだかんだ大きく変わっているのだよな、と溜息が出る。

良くも悪くも、強烈な読後感はなく、トリックの面白さ一本でさらりと読めるのでは。
ミステリーを読みたいけど、ずっしり重たい世界観は控えておこう、という気分のときに最適であろう。


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