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14冊目-『コーチングの教科書』

普段はほとんど読まないビジネス書の類。

何か特別に理由やトラウマがあるわけでもないのだけれど、タイトルを眺めるだけでもそこに漂うマッチョな「みなぎり」に胸やけを起こしそうになったりするので、本屋に行ってもそのエリアにさえ寄り付かなかったのだけれども、去年の秋ごろから苦手克服に取り組んでいて。

それは仕事上の都合に加えて、自意識で凝り固まった食わず嫌いをなくしていくのも、リキまない大人へのステップだとジェーン・スーさんが何かの本で教えてくれたから。

無防備に称賛するのでもなく、正当な理由もなしに断固拒絶するでもなく、必要な程度、自分に取り入れたらいいじゃないって、そんな当たり前が少しずつできるようになる「未中年」。


伊藤守『コーチングの教科書』(2010,アスペクト)

読んだのはコーチングやリーダー論みたいなものを7~8冊。

なかでもこれを「#推薦図書」にチョイスしたのは、気になってたことに回答、まではいかないけれど一番よく言及があったような気がしたからで。


「コーチング」ってなんとなく界隈では市民権を得た言葉のような気もするけれど、よく知らない人からするとぶっちゃけ正直どうも「あやしげ」。

「モチベーション・マネジメント」とか「エンパワーメント」とか「アクノレッジメント」とか「AIDアプローチ」とか「GROWアプローチ」とかなんとか言われると、ああ、また胸焼けしそう。

「マネジメント層」のための「セミナー」や「カウンセリング」とかって種類の言葉と親和性が高いのも「あやしげ」に一役買っていそうで。

「学び手主体の人材育成」だと、そう言ってくれたらいいのに、など。

コーチはクライアントに、アドバイスをしません。アドバイスはコンサルタントの仕事です。(中略)コーチは、クライアントが、自分で考えて、自分で行動して、自分で評価できるところまで持っていくことが仕事です。誰かにアドバイスをもらうだけで、自分で考えることをしないと、次も誰かに頼らないといけなくなってしまうからです。

考えるきっかけを与えて、自分なりの答えを引き出して、それから実際の行動を促して、あと応援する。

言ってることは至極まっともだったりするのであって。


信頼ー「よい質問」のために

考えるきっかけを与えるのは「よい質問」。

質問の重要性はどの解説本でも共通していて、確かに、考えてもらうために慎重に問いを選んで会話を進めることの重要性には共感するところなのだけど、ここが「気になってた」1点目。

解説本に書かれてる多くの例文が、どうもその意図に反しているような気がしたりして。

「ふーむ。いま割ける時間は二〇分だ。どんな手助けができるか考えてみよう」。マイケルはお得意の「GROW」アプローチを使うことにした。「まず最初に、目標(Goal)を決めよう。これからの貴重な二〇分を何に使うのか、だ。つまり、一つだけ願いを叶えると言われたら、何を叶えてほしい?」「会議をうまく運営する秘訣」。アレックスは即答した。 

マックス・ランズバーグ『駆け出しマネージャー アレックス コーチングに燃える』(村井章子 訳,2004,ダイヤモンド社)

いや、お利口すぎるよ、アレックス。

私なら「あ、いや、お忙しいなら大丈夫です、また今度で」だ。
マイケルが「私のことはいいから正直に言ってごらん」などときたら
「そのいかにも段取りみたいな話し方をやめてくれませんか」だ。

もうひとつ。

・私があなたにその質問をしたのはなぜだと思いますか?どういう意味があると思いますか?
・あなたにこのことを自問自答してもらう理由は何だと思いますか? 

マイケル・シンプソン『エンパワーメント・コーチング』(フランクリン・コヴィー・ジャパン 訳,2015,キングベアー出版)

いや、「なぜなんですか?」「どういう意味があるんですか?」「どういう理由だったんですか?」って全部そのまま返すわ。
そうでなければ「どういう意図だったんだろう」ってコーチの腹の内を忖度して答えるほかなくて、それは自分の考えを引き出すのとはまったく真逆の方向で。


おそらく英語からの訳文であることも影響してるだろうし、一字一句このままじゃなくて関係性に応じて適宜変換してほしいって話なのだろうけれど、その質問が聞き手にとって、誘導尋問や、いかにもある種のテクニックの上に発せられていると感じさせないようにするにはどうしたらいいか、明確に答えてくれてるものはあまりなくて。

『コーチングの教科書』では、こう。

 ともすると、コーチングのスキルの巧拙だけが問われがちです。しかし、その背景に「信頼」というコミュニケーションのインフラがなければ、コーチングは機能しません。コーチとクライアントの関係は特別なものです。それだけに、コーチには高い倫理性が求められます。当然、信頼というのは、コーチングにおいて、何よりも大切なものです。そもそも信頼関係がなければ、コミュニケーションのレベルも低く、そこで新しい何かが創造されることもないでしょう。
コーチングは新手の説得法でもなければ、人をコントロールするツールでもありません。

「信頼」とは何ぞやと、そういえばそんなことを考える機会があったのも数カ月前で、

「言動に悪意はないと信じられること」
「お互いを大切に考えていると信じられること」

そのときの暫定解はそんなところだったのだけど、

コーチングにおける質問の場面に置き換えるなら、

「誘導尋問ではないと信じられること」
「自分を大切に考えてくれていて、自分もこの人のもつコーチ技術を大切に尊重して、力を借りたいと思えること」

となるかもしれない。


人材の育成や開発において最も重要なものは「信頼」なのだとそんなふうにまとめられると、なんだかはじめとは逆方向から、つまり精神論的・体育会的な意味で「マッチョ」な雰囲気が漂ってきそうな感じもあるのだけれど、むろんそれはその界隈に好まれそうな「絆」みたいなナイーブな関係主義的なものでは全然なくて、徹頭徹尾、互いに個を尊重し承認することに近かろうと思ったりするのであって、働きぶりや生きざまの裏側にある事情や思想、あるいは希望、それらをまず初めに、そして常に認めてもらうことで、人はなんとか成長しながら生きていけるのかもしれなくて。

ここを土台に始めるとやがて「個の尊重と組織のビジョンとの齟齬」の問題にぶち当たったりする、これが「気になってた」2点目だったりするのだけれど、その話はまたどこかで。


畏れ多くもまた教育なんて世界に足を踏み入れようとしているこの春に書き留める、信頼第一主義宣言。


#読書 #推薦図書 #コーチング #人材育成 #教育 #ハウツー本は苦手

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