着物業界が大きく間違ってしまったこと。
インクジェットプリンターの価値
インクジェットプリンターが着物業界に出現した時、着物業界はどのようにインクジェットプリンターを位置付けしたでしょうか?
伝統産業の価値基準は「手作り」「手染め」「熟練職人が生み出す」「匠の技」などという、アナログ的価値が最優先され、そこに「希少性」という付加価値までもが加味され、それは基本的に今なお変わることがありません。
インクジェットプリンターの出現は、このような既存の価値に反する染色方法だったのですが、こんな便利なものを知ってしまった業者は使わずにはいられませんでした。
そこが人間の弱いところです。(笑)
そこで、メーカーは、できるだけインクジェットプリントだと消費者に気づかさないような商品を作り始めたのです。
つまり、本物の「辻ヶ花」や「手描き友禅」や「絞り染め」「型友禅」などの手間暇かかる本物志向の着物のフェイク商品を造ったのです。
だから、流通業者や小売業者は『インクジェットプリンターは、まがいもの、偽物を安価に作る印刷機械』と言うレッテルを貼ってしまいました。
結果、本来ならば、業界の救世主となるはずだったプリンターは、皮肉なことに業界の市場規模縮小を加速させてしまったのです。
手描きや型友禅でできることをインクジェットプリントでやってしまったのだから・・・・当然です。
私はインクジェットプリントは色数無制限で複雑な表現が可能になることから、「手描き友禅」「手染め」などの職人さんの手仕事では表現できない世界を表現して、消費者の選択肢を広めることに役立てるべきだと、会う人毎に言い続けてきました。
それは、結果的に私のようなデザイナーの仕事の領域が広がることにも繋がるからです。
つまり「従来の染色方法とは別の領域を広げ、共存共栄し、相乗効果を狙うべきだ」と思っていたのですが、多くのメーカーは逆のやってはいけないことをやってしまったのです。
結果、本物の、友禅や絞りなどの手仕事の職人さんの仕事を奪いました。
気がつけば、職人さんがどんどん消えていったのです。
職人さんが減ってしまった多くの染工場は、生き残るために仕方なくインクジェットプリンターを導入せざるを得なくなり、現在に至っています。
インクジェットプリントは「まがいもの」「安物」というイメージを自らつけてしまったので、そのイメージを払拭するのは、今更とても困難です。
皮肉にも、そのことが、現在、自らを苦しめているのです。
千利休が言った言葉の重みを感じて欲しいです。
「物の価値は使う人の心と使い方で決まる」
基本的に生地と形が決まっている染め着物を差別化するのは、加工方法ではなく、結局デザインなのです。
だから「インクジェットプリントだから、手描きより高価」と言う商品も、バリエーションの中にあっても良いと思います。
手描きや型友禅では絶対表現できない世界を表現できるのですから。
せっかく自社にインクジェットプリンターを導入したのなら、
「インクジェットプリントにしかできないことがある」を極めるべきだと思います。
そして、これからはデザイン力で勝負をして欲しいと思います。
それが手仕事の職人さんと共存共栄する唯一の道です。
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着物デザイナー
和装産業コンサルタント
#呉服繁盛店の作り方 アドバイザー
成願義
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