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カラクリオデット、人間を模した人型を考える

アニメ化した『神様はじめました』は有名だが、個人的には同作者のデビュー作『カラクリオデット』を推している。
10年以上前、地元のTSUTAYA的なレンタルショップで1巻のみ借りて読み、4話がーー正確に言うと4話に登場するアーシアというキャラクターが強く印象に残った。
このキャラがもう一度出てくるかと期待して、つい最近、電子書籍で全巻まとめて買って読んだほどだ。
しかし結果から言うと、彼女は最後まで再登場しなかった。
あの時代にこの切り口は珍しかったのに見られず残念だと思い、正直たいへん出しにくそうなキャラなのでやむを得なかったか、とも思った。

以下、『カラクリオデット』一巻のざっくりした概要とともにアーシアのストーリーについて思い出しながら書いていく。

『カラクリオデット』の主人公オデットはドクター吉沢に造られた人型アンドロイドで、ある日自分と人間の差異はなんなのかという根底的疑問をもち、正体を伏せ人間の女子として高校に入学する。
機械油的な液体燃料しか摂れないことを同級生に指摘され、消化できないながらも食べ物を経口摂取できるよう改造してもらう。
腕力、脚力ともに人間のそれを凌駕していたのを、人間の16歳の少女並みまで落として「皆とお揃い」になろうとする。それが良いか悪いかは周囲が決めるのではなく、オデット自身の判断に委ねられている。

穏やかな雰囲気の話が続く中、別のドクターによって造られた最新型アンドロイド・アーシアがテストデータを取るために来日する。
アーシアは一週間、オデットと同じ条件で高校に体験入学すると決まった。

目を三日月のように細めて口を開ける、顔文字めいた典型的な笑顔が特徴のアーシア。
ほとんど表情を変えず、人との会話もぎこちないオデットは同じアンドロイドでありながら表情豊かな彼女を羨ましく思う。
アーシアはまるで人間同然ではないか。オデットはそう考え、彼女のようになりたいと博士に相談までしていた。

けれど、オデットの友人の一人である朝生はアーシアへの違和感から「作り物ってカンジ」と評する。
事実、アーシアの笑顔が大きく描かれているコマに貼られているトーンは不穏な空気を漂わせるもので、決して良いものではないという暗示にもなっていた。

朝生が憎まれ口を叩きながら世話を焼いていた野良猫・ネロが自動車に轢かれて死んでいるのを二人が見た場面。
アーシアは死を理解せず「もう動かないのだから朝生に教えなければ」と笑顔で告げ、猫の死体を撫でて「かわいいね、私ネコ大好き」と“定型文”を喋った。
オデットは怖気が走り、自分に触れようとしたアーシアを突き飛ばして損傷させてしまう。
ドクター吉沢はアーシアを傷つけたオデットを責めるが、オデットのメモリーチップから何が起きたかを察すると同じように恐怖する。

その後、いなくなった猫を探す朝生にオデットは「ネロは隣町に行った」という嘘をついた。
それは「ネロが死んだと分かったら朝生が悲しむ」とオデットが理解しているからこその心ある行動だった。


話中でアーシアは終始、心を得ていない人形として描写されていた。
何を見ても誰と会っても態度は一律、決まった反応しか返せない『人工無脳』、BOTめいた人真似の機械。
怪我をしている人間に対して「痛いの痛いの飛んでいけ〜」と言いつつお菓子を差し出すなど、一般常識を身につけているかも怪しかった。
彼女がもし人格を得ることができたら、その過程が描写されるなら、ぜひ読んでみたかった。
1話にこれほど情報を濃縮できる作者ならよほど上手く描きあげるに違いないとも思っていた。

しかし、最初にも述べたがアーシアは再登場しなかった。
『カラクリオデット』はオデットが主人公であり、端役であるアーシアのストーリーを掘り下げるのは主軸から外れてしまうからかもしれない。
アンドロイドとは何か、人間らしさとは何か、何をもって人格とみなすか。
そういった疑問を物語に落とし込んだ作品に興味が湧いたのは、おそらく『カラクリオデット』がきっかけだろうと自覚する。
今回紹介しなかったが一巻以降のストーリーも王道少女漫画とアンドロイド要素が織り混ざっていて面白いため、ぜひ読んでみてほしい。

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