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「みたて」というクリエイティブ

星を結んで物語を描く

さまざまなクリエイターの言葉を追っていくと「クリエイティブとは?」との問いに対して「みたて」と答えている方が多いように感じています。

「みたて」とは、他のものになぞらえて表現する手法。「たとえ」「比喩」「メタファー」。

「まるで~のようだ」と、ある物事を類似または関係する他の物事を借りて表現することが「比喩」であり、比喩でありながら比喩であることを明示する形式ではないことは「隠喩」であるなど、概念の線引きは難しいですが、大雑把にまとめると「何かに“たとえ”てコミュニケーションすること」。相手が持つイメージを利用していくので、直感的にわかりやすく、強い説得力を生むことに繋がります。

色や形から思いを馳せる

暮らしの至る所に「みたて」があります。

メロンパン、これも「みたて」です。
表面形状から果物のメロンにみたてたネーミングのパンです。メロン入りパンではありません。

太陽のような人、これも「みたて」です。
性格が明るく集団の軸になるような存在感をみたてている。顔が太陽に似ている訳ではありません。

クリエイティブのコアをアピールするときに「みたて」は効果します。メロンパンを開発したこのクリエイションのコアは「メロンに似せた形状の面白み」ですよね。栄養や季節を訴求するものではない。形状を例えることで、みんなが大好きな果実のメロンのように、その見た目から受ける「幸福感」の提供を目指したのではないでしょうか。メロンの希少で高級であることにあやかって、「人気が出るように」との願掛けもあったのかもしれません。または、偶然の誕生であり、カンパーニュのように表面に溝を入れて焼いたら「あ、これって、メロンに似てるかもね?」と着想したのかもしれません。

近い言葉に「アナロジー」もありますが、こちらは「知っている知識や経験」から「知らないこと」を推論する感じ。要は「この事象は何かに似ていないか」「何かと共通性はないか」と考えること。
※言葉の定義については僕も自信はありませんので、詳しくは調べてください。

共感する言葉で繋ぐ仕事

広告であれば、やはり生活者にとって寄り添うコミュニケーションであるべきですから、わかりにくいことを想像しやすいように見立てていくことは重要なアクションになっていきます。「話している事が見える」「情景が浮かぶ」人を動かすには、これが大事。

滑らしい広告のコピーライティングには、「みたて」を活用した表現が数多くあります。

京王電鉄の2022年の広告
「夏の高尾山は、音楽だ。」

これ、いいですよね。夏の高尾山では山の中で生き物や自然の音が聞こえるという魅力を「音楽」というものに見立ててます。

ボディコピーを読むと、いっそう「みたて」の世界観が膨らみます。
「鳥のさえずり、虫の声。沢のせせらぎ、木々のざわめき。あらゆる自然が、音を響かせ、音楽会を開いている。その最前列で、いのちの音をお楽しみください。」

自然との距離感を「最前列」という言葉が引き立ててます。素敵ですね。

こちらの広告は春夏秋冬シリーズがあり、
「春の高尾山は、花の都だ。」
「夏の高尾山は、音楽だ。」
「秋の高尾山は、絵画だ。」
「冬の高尾山は、富士山だ。」
こんな感じ。

海の財宝は箱に収まらない

「まるで~のようだ」とみたてるためには、子どものように澄んだ目で直感を楽しむことが大事。完全にイコールではないですから、「本当にそうなのか?」と、粗を探しては想像の蓋が閉まってしまいます。分析して見えてくるものでもなく、感覚を素直に受け入れる。そこから比喩表現につながってくると思います。柔らかい状態で「これって、〇〇っぽいなぁ〜」という変換をトレーニングしていかないと、ここぞと言うときに「みたて」の効いたキャッチコピーは出てこない。

「海の宝石箱や~」

この言葉も、海の幸を宝石にみたてたもの。海の幸が宝石同様の金銭価値があるという意味ではない。「海の宝石箱」という言葉でアピールしたいコアは「キラキラ輝いている素材の美しさ」や「その輝きがいくつも詰まっている」こと。

仮に「海の宝石や〜」では、マグロ丼、いくら丼、そのような単品盛りを印象付けてしまう。お宝に出会ったぞー!といった派手さにも欠ける。さまざまな海の幸が盛り付けられた丼の魅力を訴求したい課題をに対して「宝石箱」というメタファーを選んでいるところが言葉選びのセンス。海のお宝ですから、頭には「海賊のお宝」のような情景が言葉から浮かびます。きっと多くの方が想像する絵は、箱から宝石もこぼれ落ちていて、世界中から集められた金銀財宝が眩しいほどに輝いているイメージ。「海の宝石や〜」は、誰もが思い描く情景を活用した上級テクニックです。

スーツと漫画をマッチさせる

それぞれの少しづつ異なる理解も抽象化された「みたて」は超越した納得を生む。コンセプトから「みたて」を入れていくことで、言葉だけじゃなく、造形や関連するアクションにも「みたて」の世界観で表現を一貫できると言えます。

「今、一番売れてる、ビジネス書。」
ビジネスパーソンがこの言葉を聞いたら、中身を覗きたくなるはず。

これは、中国戦国時代を舞台に描いた漫画「キングダム」を「ビジネス書」と見立てたキャンペーンのコピー。書店で目にしたことがある方も多いと思います。ビジネス本を堂々と名乗ったことで、本屋での扱われ方も変化。「漫画だが、大人も読んでいいものなんだ」「ビジネスに生かすべき教養なんだ」という感覚をビジネスパーソンに醸成し、大きな潜在層にリーチできた。

これらの「みたて」は、「強みにフォーカスしている」ことがポイント。何かを見たとき、考えたときに、「ここが素敵だね」とか「ここが面白いな」とか、素直な心で魅力の部分に光を当てているといえます。

マグロ、ウニ、エビ

もう一つ、名作紹介。

空港の手荷物レーンを回転寿司にみたて、地域の特産品アピールにつなげた大分空港の事例。

土地の海産物を握った巨大寿司が、到着口で手荷物を待っていると回ってくるのです。自分の手荷物を今か今かと待っているわけですから、視線もロックされている。そんななかで、大分のおすすめグルメ情報を強制的に認知させるという凄技。もちろんこの時点では到着したタイミングですから、メッセージングするにも最高のタイミング。それでいて、手荷物が流れてくるまでの待機時間も気が紛れる。なんとも素晴らしいアイデアです。

千利休の超整理術

茶道を作った千利休も「みたて」の人。最近では日本最初のクリエイティブディレクターとして紹介されていますが、漁師の使っていた籠(カゴ)を花入として用いる、塩入れを香炉(コウロ)として用いるなど、本来異なる道具であった品々を茶の湯の道具として取り入れることも「みたて」。「目利き」とも言われています。やはり彼もまた、コアを抽象化している。何が大事で、何は切り捨てても良いとするか、その意思決定のために「強みの把握」をしっかり意識している。

正解がないから面白い

日常のあちこちに「みたて」が溢れています。日本人は「みたて」が得意なのかもしれません。

例えば、
「今日1日を例えるなら〇〇である」という問いで
「みたて」をしてみましょう。

「ジェットコースターのようである」?
「ピクニックのようである」?

考えすぎず、直感で。
まずは恥ずかしがらず、言葉に出すことから。

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