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買ってよかったもの2022

 今年も買った。山ほど買った。歯ブラシ、ピーマン、シャープペンシルの芯、大好きな作家の新刊、アクセサリー、美術展のチケット…。この一年でお金を払ったモノを思い出してみるとあまりの量とバラエティに、私はこんなにも多くのものを手に入れ消費しているのかと慄く。なのに、買ったもの、使ったもの、食べたものを私は全て覚えていない。しかし、生きるとはそういうことなのかもしれない。自分がどれくらいのものを手に入れて、どれくらい消費しているのかという意識に鈍くなること。いちいち自覚していたらきっとその量に驚いて、生きていくのが苦しくなってしまう。
ただ、それでもいくつかは買ったことを鮮明に覚えていたり、いまだに感動を覚えるものもある。
 有難いことに、今年は良いものにたくさん出会えた気がする。どういった点が良かったのか、どういった点を私気に入ったのかを振り返ることで、この一年の自分がどういった人間だったかわかるような気がしたので、振り返っていきたい。

日用品編

TURN+ / Ambientec

 しばらく前から、間接照明が欲しいなと思っていた。新居に引っ越して一年が経ち、新しい部屋の雰囲気もだいぶ落ち着いてきた。黒白銀で統一した部屋は自分でも気に入ったものになったが、少し冷たい印象がある。なので、小さなもので良いので、部屋の一角がほわりとあたたかくなるような、火が灯っているような、そんな照明が欲しくなったのである。
 思い立ってからしばらくの間、何かピンとくるものはないかと色々なブランドを覗いてみた。購入条件としては、

  • 持ち運びが容易

  • コードレス、USB充電

  • 長時間点灯(何回も充電するのが面倒くさいから)

  • 防水加工(お風呂にも持っていきたいから)

  • 調光が何段階かあるもの

 正直そんなに急いで買うものでもなかったので、何となく時間があったら探してみる感じで2-3ヶ月過ごしていたのだが、ふと「そういえば、Ambientecっていう照明器具の会社があったな」と思い出した。
 Ambientecというブランドを、いつどのようにして知ったのかはもう覚えていない。ただ、デザイン性の高い優れた照明器具を生み出す会社だということは覚えていた。後から知った話だが、Ambientecは社外の優秀なデザイナーを起用することで、デザイン性の優れた製品を生み出し続けているのだという。事実、Ambientecの製品は、グッドデザイン賞をはじめ、様々なデザインアワードでいくつも入賞している。
 そうだったそうだった、そんなブランドあったなと、公式HPを見に行ったら、一発でノックアウトされた。

 TURN+ / Aluminum Black。黒焼付塗装された引き締まったケージに、クリスタルガラスが美しい。最大連続点灯時間 : 500時間、USB充電、持ち運び可能、防水性能:IP66、4段階の調光。そして2021年度のグッドデザイン賞を受賞している。

金属の削り出しや無垢なクリスタルガラスの上質なマテリアル使いが美しいライト。日没後に部屋の明かりを落としこのライトを使用すると、いつもの部屋が一層ゆっくり過ごしたくなるような、情緒ある上質な空間になる。
最大500時間もの長さの連続点灯ができるポータブル機能により、使う場所を選ばず、充電の煩わしさからも解放してくれる。繊細に切り替えられる調光機能もあり、使い手の欲しい場所に欲しい光を灯せる質の高い照明として評価が高かった。

2021年度グッドデザイン審査委員会公開コメント
https://www.g-mark.org/award/describe/51660

 もう文句のつけようがない。即購入。
 到着後は仕事机の端が定位置となった。塩田千春『祈り』が飾られたフォトフレームを毎日あたたかく照らしてくれている。

蝋燭のようなあたたかな光がほわりと灯る

 実際に点灯させてみて感動したのが、その光の柔らかさである。LEDが使われているにもかかわらず、のっぺりとならず、蝋燭のようにほわりと光る。なので、仕事から帰って点灯すると心からホッとする。たまに何も考えずにぼーっと光を眺めている時もある。それぐらい安心する光なのだ。TURN+は来て数日で、私の生活に欠かせないものになってしまった。

 実は、Ambientecには、この蝋燭のデザインをさらに進めたhymnという製品もある。もしかしたらそのうちこちらも購入するかもしれない。


ファッション編

ヒートテックウールブレンドタートルネックT / UNIQLO

 初めに言っておくと、私はタートルネックが大の苦手である。首がキュッと閉まる感じも得意ではないし、布が首にサワサワ触れるのも好きではない。小さな頃に母に着せられたタートルネックの生地が荒くザラザラしていて首が痒くなり、かきむしって血が出たこともある。そのため、そこから数十年タートルネックや首の詰まった服を避けてきた。面接の時も、シャツの一番上までボタンを止めるのが嫌でスキッパーカラーを貫き通したし、きちんと着ることが望ましいとされる着物ですら合わせを大きく開けて着ている。

 そんなわけで、きっと私は死ぬまでタートルネックを着ることはないだろう…と、半ば諦めの境地で生きてきた。それが、今年の秋ユニクロで手にしたタートルネックが最高すぎて、タートルネック再デビューを果たしたのだ。

 Mame Kurogouchi のデザインで話題になっていたので、「どんなものかなー」と店舗で何となく触ってみたのだが、生地が柔らかさと肌触りの良さに驚いた。しかも首がピッタリしていない!もう、狂喜乱舞である。その日はブラックを購入し、家で着てみた。ワンサイズ大きいものを購入したのだが、体のどこにも負担がかからず、首も苦しくなく、なにより肌触りがいいので着ていて気持ちがいいのである。ものすごく感動した私は次の日すぐにユニクロに走って色違い(ホワイト、グレー)を購入した。
 12月に入って寒さが厳しくなってきたので、最近ではほぼ毎日着ている。ただ生地自体はとても薄いので、このタートルネックの上にオーバーサイズのシャツを着て、重ね着のインナーとして使用している。


美容編

キュレル リップケアクリーム / 花王

 リップが苦手だ。何が苦手かというと、あの独特の香料の匂いとベタつき感である。匂いに関してはかなり辟易している。もちろん日頃から無香料のものを選んで使っているのだけれど、それでもやはり匂いが気になる。日常的にマスクをしているせいで、どうしても口に塗ったリップの匂いがマスク内にこもって、ひどいときは頭が痛くなってくる。ただそうはいっても冬場は乾燥で唇がバリバリになるし、何もケアをしなければひび割れて血が出るし、口紅を塗った時にも大変なことになる。なので、今まで渋々違和感を感じつつも無香料と謳ったリップを使ってきた。
 使っていたリップがそろそろ切れそうなので、何かいいリップはないかと探していたところ、ふと目に止まったのがこのキュレル リップケアクリームである。

どうせこれも無香料といっても匂いはあるんだろうな…と思いつつも買い、家で塗ってみると、驚いた。匂いが本当にしない。確かに、微かに匂いはあるのだが本当に気にならない程度である。また塗り心地も良くて、嫌なべとつきもない。舌で唇を少しなぞってみたが味もない。最高の出会いである。
 調べてみると発売は2010年らしい。もっと…もっと早く知りたかった…。これから長い付き合いになりそうだ。


食事編

 私はかなり保守的な人間なので、気に入ったお店ができると何度も同じお店に通ってしまう。自分が好きな味のお店に通っているので、当たり前だがそのお店に行けば毎回自分の好きな味をいただけるわけである。新しい物が好きな友人に言わせれば「冒険心がない」のだろうが、これはこれで間違いがない味に出会えるので、「安心感」はある。
 今年は前職での同僚と一緒にご飯を食べる機会が多かった。退職した後もこうしてお声がけして頂けるのは大変有難い。いつも一緒に食べに行くメンバーは私を含めて4人。その中でも神楽坂に住んでいる一人が美食家で、在職中も含め、美味しいお店に色々連れて行ってくれる。今年は特に2つのお店が印象に残った。

千(神楽坂)

 神楽坂の黒壁と石畳を楽しめるかくれんぼ横丁にある割烹料理「千」。お昼に訪れたのだが、お店がメイン通りから少し外れているからとても静かだ。

開店時間まで閉じられている入り口の黒壁が美しい

 通していただいたのは、木目の美しい一枚板のテーブルが置かれた個室。店内もとても静かで、食事に集中できるようになっている。その時いただいたのは美味しいお料理が少しずつ籠に盛られたランチコース。一品一品に滋味を感じられ、心がホッとする。

特に気に入ったのが、焼き胡麻豆腐。

外カリッ、中はとろりと美味しい。

 「千」の名物である焼き胡麻豆腐、外はカリカリ、中はとろりとした胡麻豆腐で最高に美味しい。胡麻豆腐といえば冷えたものしか知らなかったので、これは嬉しい発見だった。デザートのわらび餅も上品な美味しさ。本当にどの品の美味しくて、最高の時間だった。

坂の上レストラン(神楽坂)

 暦の上では秋だというのに、まだまだ暑さが厳しかった9月、神楽坂在住のメンバーから再度召集がかかった。
「美味しいものを食べに行こう」
「是非行きましょう!」
即答である。

 今回連れて行っていただいたのは、モダンイタリアン「坂の上レストラン」。美味しいお野菜をたくさん出していただけるという。
 お店到着すると、スタッフの方がスマートに2階の個室に案内してくれた。このお店も「千」と同じく、神楽坂のメインストリートから少し離れているので、とても静かだ。

どれを選んでも絶対美味しいランチのコースメニュー

 この日はランチのコース。パスタとメインが選べるのも嬉しいところ。メニューに書かれたもの全てが美味しそうで、なかなか決めかねていると、スタッフの方が一皿一皿丁寧に紹介してくださった。私は「小エビ、フレッシュトマト、アスパラ、バジリコクリームソース タリアテッレ」と、「福岡県産はかた地鶏の炭火焼きグリル蝦夷山葵と赤ワインのレディクション」を選択。

 タリアテッレはバジルの味が濃厚で、まるでバジルそのものを食べているよう。そのソースにからめられた野菜もとても美味しく、添えられたパンにソースをつけ、最後の最後まで一皿を楽しませていただいた。はかた地鶏は皮がパリパリに焼かれており、肉厚で食べ応えがある。また、添えられた野菜もとても美味しい。食事が終わる頃にはお腹も心もいっぱい。ゆっくりとした幸せなランチタイムを過ごすことができた。

 自分から新しい場所に飛び込むのは勇気がいるが、安心できる誰かと一緒なら、冒険も決して悪いものではない。


書籍編

 今は電子書籍もメジャーとなっているが、私はいまだに質感や重さや匂いが好きで、紙の本を買う。
 今年は本当にいい本にばかり出会えた気がする。私にとってのいい本とは、読み切った後もその本の一文を都度思い出したり、その時の気持ちを思い出せるような、私の「血肉」になった本である。そういった本に毎年何冊も出会う。それらの本は一冊一冊大切に本棚にしまってある。その並びに、今年はShaun Tanの『Dog』が加わった。

『Dog』 / Shaun Tan

 私の手元にある『Dog』は英語版である。元の言語で楽しみたいので、できる限り書籍は原著を手に入れることにしている。
 『Dog』は、人間と犬との間にある不思議な関係を、少ない文字で示す。

Once we were strangers,
legs bent the wrong way,
rough voices falling to the wind ,
every tooth and claw and stick a weapon,
every urge a ragged mystery.

But we always wanted more than this.
In our hearts we knew there was more.

Shaun Tan『Dog』より

 お互い違う生き方をしていたもの同士が出会い、共に生きていく。死が訪れても。何度も、何度も、それを繰り返す。
 この本は多くの絵で構成されている。一対の犬と人間が姿を変え、幾度も描かれる。一番多くページを割かれているのは、犬と人間が背中を向け、離れて座っている絵である。様々な人種の人間と様々な犬種の犬が丁寧なタッチで描かれている。読者は、一つのペアの犬と人間が何度も生まれ変わり、出会い、死によって別離することを読み取る。そして、別離の先には必ず救いがあるのだということをShaun Tanは示す。
 たった48ページの、しかも文字の極めて少ないこの本は、そのボリュームをはるかに超えたメッセージを届けてくれる。犬と人間はお互いが大切な存在なのだと。お互いが深い絆で繋がっていて、愛し合っているのだと。

 今、私の足元には一匹の犬をがいる。白と黒の。私が抱きしめると、くすぐったそうにスピスピと鼻を鳴らす。ずっと一緒にいようと私が言うと、犬は茶色の大きな目で私をじっと見る。何を考えているのだろう。私と同じことだったら、とても嬉しい。


 今年は本当に幸せな出会いでいっぱいだった。そんな出会いに満たされた私は幸せな人間なのかもしれない。そう気付けただけでも、「買ってよかったもの」を書いた意味は十分にあった。


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