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2019年7月①:片野ゆか『北里大学獣医学部 犬部!』

読んでも何からどうしていいのかわからず、ぼんやりしていた。

◆片野ゆか『北里大学獣医学部 犬部!』(ポプラ文庫、2012年)

私は動物を飼ったことがない。子供の頃に親に向かって「動物を飼いたい」と言ったこともない。ただ「死んでしまうとかわいそうだから動物は飼わない」と母親が言っていたことだけは強烈に覚えている。「犬を飼いたい」「ペットがほしい」と言ったり考えたりした記憶はないから、「死んでしまう」「かわいそう」という言葉がよほど衝撃的だったのだろうと思う。幼い頃、なぜか漠然と「死」を恐れていて、よく一人で「死んでしまったらどうしよう」と考えて不安になったり悲しくなったりしていたのにも関係があるのかもしれない。

私が生まれ育った町には、気軽に行ける範囲に動物園なんてなくて、身近な人にペットを飼っている人もいなくて、大人になるまで関わったことのある動物といえば学校で飼っているチャボくらいだった。それすらもどうも苦手で、今までで仲良くなった動物といったら一人暮らしをしていたアパートの近くをよく歩いていた一匹の飼い猫だった。急いでいるときに限って目の前に現れておなかをゴロンと出すので、よく悶絶したものだ。帰り道に遭遇すると、話しかけたり手を振ってみたりして癒されていた。

で、『犬部!』だ。

この著者の作品は動物関係(という言い方でいいのか)のノンフィクションが主で、これまでも『ゼロ! 熊本市動物愛護センター10年の闘い』と『動物翻訳家 心の声をキャッチする、飼育員のリアルストーリー』を読んだことがあるが、日々命と向き合う人々の目に浮かぶようなリアルな描写がいつも胸を打つ。

青森にある北里大学獣医学部。犬部(のちに北里しっぽの会)とはそこの学生たちが始めた動物保護活動団体だ。迷子になった犬や野良犬、多頭飼育の末に世話が難しくなってしまった犬や捨て猫などを保護し、譲渡会を開いたりホームページなどで引き取ってくれる人を探す。人間のわがままや勝手な都合で生活が一変してしまう動物たち。彼らに寄り添うことで心の傷を癒し、再び人間との信頼関係を築けるようにと奮闘する学生の姿はどこまでもひたむきだ。

人間同士でもそうだけれど、強く信じていた人に裏切られたときほど、深く悲しみ絶望し、次に誰かを信じることを諦めるようになる。あるいは「もう誰も信じない」と心に決める。だって同じ苦しみを味わいたくないから。もう二度とあんな思いをしたくないから。

「ペットは家族」という考え方に疑問は持たないし、動物飼っているほとんどの人がたくさんの愛情を注いでいると思うし、そうだと思いたい。だけれど、この本に書いてある悲しい現実は実際に起きていることだし、しかもきっとごく一部だ。

ついでに言うと私はペットショップも苦手で、元気で愛らしい姿の下ついている値札をどんな気持ちで見ればいいのかわからない。それゆえペットショップに入ることが出来ないし、ペットショップの前を通り過ぎるときにそこに「ディスカウント」という文字を見つける度に少し心が痛む。

月並みな言い方だけれど、動物を飼いたいと思っている人、飼っている人、飼ったことのある人、飼ったことのない人、つまりは全員に読んでほしい。で、読むなら一緒に『ゼロ!』も読んでほしい。きっと、命と向き合うということや、人間の身勝手さによって失われていく命をギリギリのところで救う闘いを目の当たりにするだろう。辛いかもしれないが、それでも読んでほしい。

自分にはどうにもできないことがこの世にはたくさんあって、これもその一つかもしれない。でも、この本にあるような世界があるということを知っているだけでも、少しだけ優しくいられる気がするのだ。


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