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妄想短編②:「誰が為の夜に何者かは歌を口遊む。」


※もしも自分の作詞で短編小説が出来たらと妄想して書きました。
 拙い文章ですが見て頂ければ嬉しいです。



妄想短編:「誰が為の夜に何者かは歌を口遊む。」より

トラック2 あの夏を憶えている


僕は何者になりたいのか。

多分知っていた。

国語の先生が黒板に書いたのをノートにとっていた時、風の弱い暑さに嫌気が差してふと横を見た。
窓側の隣の席で、顔を手で扇ぐ君と目が合い、「暑いね」と笑いあったあの時間。
授業のわからない事、最近面白かったTVの事、お笑い芸人のギャグ。友達と一緒に君と話して、楽しかったあの日々。

何者になりたいかを知っていた。
知っていたけどそれを言うこともなく、この時間が続けばいいと望んでいた。

友達が告白をしたいと相談する。

それが誰であるか知った時、僕は何を言ったのだろうか。
お祭りの賑やかな音、行き交う楽し気な人々。少し歩いた先の神社に二人は行く。

後で友達から聞いた話、彼女には好きな人がいるのだとか。

暑い日々は変わらず、夏休みも例年のように過ぎていく。友達と一緒に行く潮まつりの花火大会に、浴衣姿の君もいた。

燃え上がる火花が夜空を彩る最中、立ち見の人だかりに少し流された時にふと横を見ると、見上げていた君と目が合った。
「綺麗だね」と言った僕に君が言った言葉が、轟音と共に夜に紛れていった。



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