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第3回:財務戦略や販売戦略に裏付けされた事業計画、資本政策こそが資金調達の生命線! ベンチャー企業経営~虎の巻~

こんにちは。
T&Aフィナンシャルマネジメントのさいとうです。
ベンチャー企業経営におけるよくある問題点や、課題についてご紹介している本連載。
今回は、資金調達における事業計画や資本政策策定の際の注意ポイントについてご説明します。

事業計画や資本政策は、得てして鉛筆ナメナメなものとなっているケースが散見されますが、計画は投資家や金融機関との「約束事」です。
客観的にみて確からしく、信頼性が高いと思われる計画を策定しないと投資家や金融機関からの信頼を得て、資金調達することはできません。
また、調達後、しっかりと「約束事」を遂行してゆかないと、次の資金調達にも支障がでてしまいます。

したがって、実現可能で、かつ計画として確からしい客観性をもったものでないと、資金調達前も後も、自分の首を絞めかねません。
その方法論のポイントについてご説明したいと思います。

≪T&Aフィナンシャルマネジメント≫
T&Aフィナンシャルマネジメントはベンチャー企業に特化した経営財務支援、クライアント目線に立った中小規模M&Aのご支援をしております。
また、上場企業をはじめとする大企業~中堅企業の経営企画をはじめとする経営管理部門のサポートなど、幅広なご支援をご提供しております。

事業計画を策定してみよう!

事業計画とは将来的な自社の成長のストーリーであり、先ほどお話した通り、対外的な「約束事」でもあります。
スタートアップにとって、自分たちのアイディアを広大な市場に向かって挑戦してゆくための羅針盤でもあります。

当然、将来のことは誰にも分りませんので、現時点で製品もサービスも企画段階だったりすると、なかなか確からしい計画を策定することは難しいと思われます。
しかし、誰しも製品やサービスが売れると思って起業するわけですから、「どのくらい」「どのように」売るのか?という点について客観的かつ定量的に分析してみる必要があります。

スタートアップの方とお話していると、「こんな素晴らしいサービスなので、3年後には10億円くらいの売り上げがたっていると思っています!」と自信たっぷりにお話される方がいます。
自分のアイディアに自身があるというのは素晴らしいことなのですが、その言葉だけで投資をしろと言われても、投資家の立場としては困ってしまいます。

なぜ10億円の売り上げが3年後に実現できるのか?
そして、その10億円の売り上げを作るには、いつ、いくらの投資を行い、何をすればその目標が達成されるのか?
また、10億円の売り上げを作るには、いくらのコストを要するのか?などについて、客観的、かつ定量的に説明してもらわないと、投資や融資を実行することはできません。

事業計画の策定方法については別の回にご説明しますが、基本的には今温めているアイディアを市場に投入する前に、マクロ的な環境とミクロ的な環境を分析する必要があります。
ガソリン車全盛の時代に電気自動車という素晴らしいアイディアで市場に挑戦しても、電力供給のインフラが未整備であった時代には普及することは難しかったと思います。

また、素晴らしいアイディアであっても、市場内に同じようなものを作っていたり、サービス提供している市場では、なかなかシェアを取ることは難しいですし、何らかの代替品が存在する市場環境においては、仮に一時的に売り上げが上がったとしても、すぐに別の商品にとってかわられてしまいます。

したがって、マクロ・ミクロ環境を分析し、自分たちのアイディアをどのように市場に送り込み、そして、どのように拡大させてゆくのか?という点についてしっかりと仮説を立ててゆかなくてはなりません。

一般的にはKPIと呼ばれる売上を構成する要素を分解した数字の積み上げで定量的かつ客観的に計画を説明することが多いです。
例えば、パソコンを作っているメーカーであれば、以下のようになります。

売上=販売台数×販売単価
販売台数=年間全メーカー出荷台数×市場シェア
販売単価=製造原価+利益

などといった具合です。

マクロ分析でパソコンの年間全メーカー出荷台数が増加しているのか?減少しているのか?については確認する必要がありますし、市場シェアは既存・新規のメーカーの動向といったミクロ分析で分析する必要があります。

これらKPIの推移を時系列で将来にわたって推測してゆき、それを積み上げることでおのずと計画が完成します。
それら分析に用いた定量的な数字に信頼性があれば、投資家や金融機関からの信頼を得ることができるといえます。

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事業計画にはサプライチェーン計画も織り込むべき!

スタートアップの経営計画をみていると、上でご説明した数値計画はしっかりと作っているケースは多いと思っています。
しかし、あくまでも数値計画は机上の空論であり、地に足ついた計画とは言い難い側面もあります。

数値計画には「どのように作り」「どのように売る」のか?といった、具体性が欠如しているケースが多く、加えて言えば、本当にそのプロダクトが個々の消費者に受け入れられるのか?価格設定は妥当なのか?といった論点が抜け落ちているケースも散見されます。

「どのように作り」「どのように売る」のか?とった論点はサプライチェーン計画と言い換えることもできると思われます。

とあるウェアラブルロボットの製造をしている企業がありました。
設計は素晴らしく、おそらく市場に浸透しそうなアイディアだと思ったのですが、あまりにニッチな商品で、今まで作ったこともないその製品を、どのように作るのか?という点について考えが及んでおらず、資金調達が頓挫したスタートアップがありました。

スタートアップが初期的に生産する商品は小ロットで、金型を作って大量生産するような製造過程を構築することができません。
ハンドメイドや昨今では3Dプリンターなどを使って生産することになりますが、それでは当初想定していた事業計画におけるコストと比べて非常に割高になってしまいます。

また、どのように売るのか?について考えが及んでいないケースもあります。
素晴らしい製品をしっかりと作ることまでは考えが及んでいても、果たしてそれを直販で売るのか?代理店経由で売るのか?など、販路についての考えが及んでいないと事業計画としては不十分と言わざるを得ません。

斬新でハイテクなものが売れる時代ではありません。
ハズキルーペなどに代表されるように、従来から存在していたローテクな商品であっても、マーケティングに優位性があり、サプライチェーンをしっかりと確保した商品であれば、大きく市場からの賛同を得ることができる時代です。

スタートアップ、特に前回連載でご説明したようなテック系ベンチャー企業に得てしてみられる技術への妄信的な信仰により、戦略が後回しになった結果、せっかくの素晴らしいアイディアが世に出されないまま消え去ったケースは多々あります。

したがって、事業計画、そしてサプライチェーン計画についてはありとあらゆるケースを想定し、ベストなプランを計画時点で考えうる最善のものを考えておかなくてはならないと思われます。

資本政策は資金調達の生命線

事業計画が策定されれば、おのずとその事業の「価値」が見出されます。
よくみられる資本政策は、「放出できる持分割合」と、「投資を受けたい金額」の逆算でバリュエーションと呼ばれる「価値」が算出されているケースです。

確かに「資本政策は後戻りできない!」といわれ、一度でも必要以上に放出してしまった株式は、事業によほどの後退(ダウンサイド)でもない限り、放出したときの金額では買い戻せません。
したがって、創業初期に大量の持分を放出するのは正しい選択肢とはいえません。

一方で、逆算された資本政策におけるバリュエーションは、投資家からみて非現実的であることが非常に多いです。
一時期のベンチャーバブルのような時であれば、アイディア段階でもバリュエーション10億、20億は当たり前だった時期はありますが、昨今のベンチャーに対する厳しい視線の中では、あまりのハイバリュエーションは投資家の同意を得られないことが多いです。

したがって、提示するバリュエーションが「確からしい」ことを定量的に説明するためにも、事業計画をしっかりと構築し、その信頼感のある事業計画から算出されたバリュエーションをもって投資家と対峙することが望まれます。

資本政策は資金調達における生命線です。
安易な妥協をすると後戻りできませんし、あまりに非現実的なバリュエーションを含む資本政策では資金調達できません。
市場における感覚を研ぎ澄ませて、自社における市場評価をつぶさに客観的な視点で認識することが最も重要です。

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まとめ

プロダクトイメージはなかなかよいのに、資金調達がうまくいかないといったご相談を受けることがよくあります。
そういったベンチャー企業経営者の方にお話しするのは、投資家であっても、金融機関の融資担当者であっても、そういったファイナンス系の方々は、定量的かつ客観的なエビデンスを要求する人種であることをご説明します。

当然、投資家と呼ばれる方々や、金融機関の融資担当者も独断で投資や融資を決めることはできません。
投資家であれば投資委員会での合意形成が必要ですし、融資担当者であれば金融機関内での稟議決裁が必要です。
そういった周りを巻き込んだプロセスが存在することをイメージし、それを「通りやすくできる」事業計画を策定しないと、なかなか資金調達はできません。

【ベンチャー企業経営~虎の巻~】
第1回:ベンチャー企業がスポット人材活用による管理組織充実を必要とするワケ
第2回:テック系ベンチャー企業が資金調達の際に陥る技術信仰のワナとは?
第3回:財務戦略や販売戦略に裏付けされた事業計画、資本政策こそが資金調達の生命線!

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