【戯曲】人思 i 念-ジンシアイネン‐


人思 i 念‐ジンシアイネン‐

作 サイトウナツキ

登場人物 (男女8人)

男1 カナドメ(男) 年齢不詳
謎の男。煙のような立ち姿をしている。

男2 九段下 巧巳クダンシタ タクミ(男) 23歳
浪人中のフリーター。

男3 市ヶ谷 拓海イチガヤ タクミ(男) 28歳
大手企業に勤める会社員。


猫1 神保 木ジンボ モン(性別不詳) 
穏やか。

猫2 小川 天オガワ テン(性別不詳)
気が強い。

猫3 馬喰 蓼バクロ リョウ(性別不詳)
真面目。

猫4 岩本 夏イワモト ナツ(性別不詳)
オカマっぽい話し方。

猫5 横山 梅ヨコヤマ メウ(性別不詳)
元気。

* ・上演時間 約60分
  ・『』の台詞は同時に発話する。
  ・「 」の台詞は上演しなくても良い。

 


シーン1 夜の公園

真夜中、具体的に何時なのかはわからないが少し寒々しい。
人気もない公園。近くを電車が通る。電車の轟音、光、風、
どれも邪魔されることなく身体にあたるような感覚を覚える。

男1、台詞を言いながら、折り紙で鶴を折っている。
舞台床一面には色とりどりの折り鶴。どれも形は不揃いの様子。


男1「夜は夜明けの前が一番暗い、
   結局それがいつかもどういう意味かも分からず、
   ここまできてしまった。いつかに聞いた。
   名前も知らない歌詞にあった。
   ちょうど今のことを言うのだろうか。」

男23、お互いを抱え込みながら現れる。


男3「げぷうううう、もうかんべんしてギブギブ、ギブ」
男2「あーあーあーほら、水飲んでください」
男3「ごくごく、う、うぷぷぷ」

男3、吐く。男2は顔や足先までゲロまみれになる。

男2「おいおいおいおい… これ洗濯だりいぞ… 」
男1「あらら… 」


男1、観客の視線に気付く
男1「あ、すみません。ご紹介が遅れました。みなさん初めまして
   私、京と申します。東京の京とかいてカナドメです。
   よく珍しいねと言われます。どうでもいいですね。
   さて、このお話が 一体全体どういうお話なのかとか
   その辺りは伏せといた方がいいような気がするのでまだ内緒です。 
   あ、そろそろ出番なのでここで失礼します。」


男1「すみません、これ使います?」
男1、胸ポケットからハンカチをだす。

男2「え(どこからともなく現れたことに驚く)、ああ、いいんですか。
   すみませんありがとうございます。」
男1「お知合いですか」
男2「あぁ、まあついさっき出会ったばっかなんですけど」
男1「ついさっき(男2の前掛けを見る)もしかしてそこの居酒屋ですか」

男2「なんでわかるんです」
男1「その前掛け。僕もたまに行くんで、もしかしたらと思って」
男2「ああ、そうだったんですね、自分、バイト終わりなもんで
   脱ぐの忘れてました。あはは」
男1「家、近くですか?」
男2「自分ですか?まあこっからだと一駅くらい先ですかね、」 

男1「僕、この辺なので、手伝いますよ途中まで。」
男2「いやいやそんな大丈夫ですよ」
男1「洋服、汚れちゃってることですし、あーなんて言うんでしたっけ、
   そうだ、袖振り合うも他生の縁です。」
男2「じゃあ、お言葉に甘えて」
男1「いきますよ」
12「せーの」

男12、3を肩で起こす

男3「うろろろろろ」
男3、ゲロを先ほどよりも多くまき散らす。

男1「あらら」
男2「あー、どうしよ、うーん。あ、すみませんちょっと近くの
   コンビニで色々買ってきます。水とか拭くものとか、」
男1「わかりました。ここで待ってますね」
男2「すみません、頼みます」

男2、コンビニまで足早に向かう。
男1、観客に向かって

男1「と、まあ、なんやかんやで僕はここで待つことにしました。
   せっかくの革靴にゲロはついてしまったけれども、
   これもウンがついたってことでよしとしておきます。」

どこからともなく猫1が現れる。男3をツンツンしながら。

猫1「ねえねえ」
猫1「ねえってば」
猫1「私、ちゃんとあなたのこと好きになれなかった、ごめんね」
男3「は!」
猫1「くちゃーい」

猫1、来た方とは別の方へ去っていく。
男3、目を覚ます。

男3「え、今、もんちゃんいたよね!いたよね!って、え、あんただれ!」 男1「うん?あんたとは失礼ですね、一応これでも介抱してたんですよ」
男3「え、ああ、え?」
男1「九段下さんと一緒に、ゲロまみれになりながら」
男3「それはすみません。え、あの人の知合い?」
男1「まあ、ついさっき出会ったばっかですけど」

男2「すみません、お待たせしま、あ、気が付いたんですね、
   お水飲みます?」
男3「ああ、ありがとう」

男1「市ヶ谷さんもしらふにもどりつつあり、終電もないので、
   次の駅までぶらぶらと三人で歩いていくことにしました。
   三人ともげろくさいですし、
   タクシー捕まえるよりはよかったかもしれません。」

男3「あれ、俺名前言いましたっけ」
男1「あれ、言いませんでしたっけ」
男2「あ、すみません。俺、九段下って言います。」
男1「もう知ってます」
男2「あれ、俺名前言いましたっけ」
男1、にっこり
男2「え」
男1「あ、そういえばお二人はどういう経緯でここに?」
男2「気になります?」
男1「気になります」
男3「話すと長くなりますよ」
男1「夜は長いですから」


シーン2 市ヶ谷君

場面は市ヶ谷が勤める会社に移る。
昼下がりのオフィス。いわゆる一流企業のような。
どんどんと人が集まり、暑さも緊張も次第に高まっていく様子。

猫2「それでは我が社の新商品開発プレゼンを、
   始めさせていただきたいと思います。市ヶ谷君」
男3「はい」

男3「みなさん、愛着をもって物に接していますでしょうか。
   ここ最近の風潮として使い捨 ての商品は増えてきていませんか。
   傘、マスク、カイロ、コンタクトにエトセトラ…
   今や自慰までもがインスタントなものとして昨今扱われています。
   そうなると避けて通れないのがゴミ問題。
   持続可能な社会を、地球温暖化を、サステナブルを、
   耳障りの良い言葉を聞いてるだけで、
   皆さん実際に取り組んでますか?
   私は、そんな今のジレンマを解決し、より良い未来へ向かうべく、
   こちらの商品を開発しました。」

猫「おお」

男3「その名もウルトラスーパーハイテクジーパン、
  『SD 自慰ンズ』でございます。
  こちらの商品ただのジーンズではございません。
  こちらにご注目ください。なんと股間部分にふくらみがございます。
  このふくらみを数回もみほぐすことで
  中に搭載している特殊な機器によりジーンズ全体に熱を伝え
  しっかりと身体を温めることができます。
  また、回数設定を行うことで繊維の繋がりを緩め、通気性を改善し
  オールシーズン着用することも可能にしております。
  そしてそしてさらに、商品名にもあるように」

男2「あの、(資料を見ながら)これほんとに必要ですか」
男1「誰も言わないなら必要なんじゃないですかね」
猫「(口に指を当て)しーィ!」

猫3「市ヶ谷君」
男3「はい」
猫3「その商品、ぜひうちと一緒に、」
男3「は、ありがとうございます!」

猫45、不服な顔をして顔を見合わせ、何かしら息の合った合図をする。
猫45「いえい」

拍手が会場内に沸き起こる。猫3、男3握手を交わす。

猫2「これにて新商品開発プレゼンを終了とさせていただきます。
   皆様、お集まりいただき、誠にありがとうございました。」
男2「え、これ本当に商品化できるんですか?」

電車到着音。場面はオフィスから通勤ラッシュのホームになる。
電車に乗り込み、しばらくしてから、もぞもぞと動きだす猫たち。

猫5「きゃー」
猫4「ちょっとあんた何やってんの」
猫4、男3の腕をつかむ。
猫5「だ、だれか駅員さんよんで!」
男3「え、え、ああ、ぼ、ぼくじゃない… ぼくじゃないです!ぅあああ」
男3、走ってその場から去る。

男2「痴漢って逃げるのが一番ダメなんじゃなかったでしたっけ。」
男1「うーん。それに。痴漢って冤罪にならないって聞きますしね、
   もしかしたらほんとにやったんじゃないですか」
男3「いやいやほんとに僕じゃないんですって、んで、その日から」

場面切り替わり、またオフィスに戻る。

猫2「痴漢したんでしょ、あの人」
猫4「逃げたんですって」
猫2「逃げるってことはやましいからよねえ」
猫24「ねえ」

猫3「市ヶ谷君、この前の新商品開発の件なんだが」
男3「はい」
猫3「あの話は無しにしてくれ」
男3「え、そんな」
猫3「いやあ本気にしてもらっちゃあこまるよ。
   君はまだ若いんだから、いくらでもチャンスはある。
   あんまり気負いせずに、な?」
男3「あ、はい」

場面切り替わり、中華料理店になる。
男12は別の席で料理を嗜む。猫2345は店員として立ち回る。
猫1「ねえ、」
男3「……」
猫1「噂で聞いたんだけど」
男3「あれは」

猫1「あれは本当なの」
男3「(怒りながら)あれは僕じゃない」

猫1「そっか」

男3「そうだ、京都にいこう。京都、この前、出張でいいとこ見つけたんだ
   三条の方なんだけどさ」
猫1「うーん」
男3「どうかした?」
猫1「やっぱりすごいねタクミ君は、普通無理だよ」
男3「どういう」
猫1「最初から普通じゃなかったか。
  でもそういうとこが好きだったんだよね、
  人が思いつかないこと率先して、まるで子供みたいな顔で、
  可愛かったナァ。」

猫1「あなたなんだよね、痴漢魔」
男3「いや、だから僕じゃないって」
猫1「火のない所に煙は立たないし。これまずいし」
男3「… 」
猫1「もういいや、てかダサいよ、言い訳、京都とか」
男3「え」
猫1「ごめん、今日帰るね… 」
猫3「お客様…. (男3に向かって)こちらお会計になります。」
男1「あらあ」
男2「今、心に来ました。」

男12、男3の方に椅子を寄せ、机に広がる飯を食べ始める。

男3「もうだめだ… 明日、クビになるかなあ… 」
男2「どうなんですかね、会社勤めじゃないからわかんないけど」
男1「まあでも会社のイメージとかもありますからねえ、
   えこれうんま(男2も食べる?と仕草)」
男2「あー、うま。結構好き。」
男3「はあ、え、てかなに勝手に食ってるんですか」
男1「だってもったいないじゃないー、
   うーん、ほら(男3にご飯を食べさせる)」
男3「……うまい」
男2「これもいいっすよ」
男1「ん?ほんとに?まじだ、うますぎ。
   あいや、違う違う。僕が聞いたのは
   君たちがなぜ知り合ったのかっていう話を聞いたつもりで」
男3「ああ、んで、そのあと(会計をみて驚く)ん!?
   すみません、ちょ、ちょっと席外しますね… 」
男2「あ、じゃあ僕からお話ししますね」


シーン3 九段下君

場面は九段下の高校時代に移る。
高校三年生、晩夏、放課後の教室。
外では野球部が金属バットで硬球を打つような音と部員の声が聞こえる。

猫2「よっしゃあこいやあ」
猫4「いくわよ、一発闘魂」
猫124、舞台端で野球をしている

猫5「(猫3に向かって)ねえ」
猫3男2、勉強している

猫5「受験終わったらどこいこっか」
猫3、反応がない

猫5「私はねえずっーと我慢してたからねえ」
猫3、反応がない

猫5「ねえ聞いてる?」
猫3「としまえんとか?」
猫5「そーそーとしまえん!ってもうしまってるから!
   もういけないから!」
猫3「しまっててもいけないわけじゃないよ」
猫5「んーんーそういうことじゃなんい。」

猫3「なあ」
男2「ん」
猫3「俺は絶対受かるよ」
男2「そう」
猫3「だから、お前も」
男2「そういうの、今必要じゃないから」

猫2、ホームランを打つ。ボールを取りに行くように猫は出ていく。

場面は切り替わり、受験会場に
男3「あ、僕もここ受けましたよ、いやあ難しかったなあ」

男1「あ、どこ行ってたんです?」
男3「いやあ、ああいうとこでも、24 回払いできるんですね…
   一括だけだと思ってました」

他の猫たちは各々受験生や職員のような振る舞いを見せる。
猫3だけは合格した様子。

 猫3「どうだった」
男2「なんだよ」
猫3「あ、いや」

男2「見下す相手出来て良かったじゃん」
猫3「なにそれ」
男2「なんでも上手くいくっていいよな。
   そういうやつって大概何でも持ってんだよ。金も立場も才能も」
猫3「なあ」
猫3「水切りしようぜ」

場面切り替わり、河川敷になる。
夕焼けの河川敷。高校2年の頃に。

猫3「ほら(ちょうどいい石を投げ渡す)、んなんか目赤くね」
男2「え、いや」

猫3「yesterday is not today これどういう意味かわかる?」
男2「なにそれ」
猫3「リルピープ、昨日ラジオで流れてた。」

男2「昨日は今日ではない」
猫3「昨日とは違う今日にしようぜって意味らしいわ」
男2「ふーん」
猫3「そんなこと出来んのかな」

男2「わかんないけど、できんじゃない」
猫3「どうやって」
男2「わからん、」
猫3「お前らしいわ」

男2「あこの前の模試、どうだった。」
猫3「まあまあかな」
男2「まあまあって?」
猫3「まあまあはまあまあだよ。良くも悪くもないってこと」
男2「そっか、俺は」

男2「俺は受かるよ、だからお前も」
猫3「そういうの」

猫3「ドラマみたいでなんかかっこいいね」
男2「なにそれ」
猫3「わかんないけど」
男2「うわ恥ずかし」
猫3「恥ずかしいってなんだよ」
男2「恥ずかしいわーそういうの、しょっぺー」
猫3「なんだよ、しょっぺーって」
男2「しょっぺーもんはしょっぺーの」
猫3「わかんねーその思考」
男2「なんでもかんでも頭で理解しなきゃいけないわけじゃない。
   自分が変わろうと思えれば、いつだって変われる。
   だってそうじゃね、ほら、あの時だってさ、」
男2「なあ」

男2「なに黙ってんだよ。黙ってんなよ。
   そうか、そうやっていつも見下してたんだろ。
   ほかのやつらもそうだろ。自分よりも無様なやつ見て
   愉悦に浸ってたんだろ。馬鹿らしいって思ってたんだろ。
   なんなんだよ。きめえんだよ。見てんじゃねえよ見てんじゃねえよ」

男13、二人を諌める。猫3、その場を離れるように去る。

男1「持ってますよ。傘。」
男3「あれ?(いつ出してきたんだろうというような顔)」
男1「はいりませんか?」
男2「僕はいいです。日陰者に光はまぶしすぎるんで、
   これくらいが丁度いいです。それから、僕は
   腐ったように引きこもりました。」

場面は男3の部屋になる。
薄暗く、じめじめとした雰囲気。
テレビにはRPGゲームの画面が。

男3「あ、なつかしい。僕もこれやってましたよ」
男2「これ、隠しコマンドで秘密の島いけるのしってました?」
男3「えなにそれしらない」
男2「十字ボタンとセレクトボタンを5秒長押しで」

激しいノック音

猫4「九段下さん!いるんでしょ?」

先ほどよりも強くなるノック音

猫4「九段下さん!いるんでしょ!」

男1「大家さんですか」
男2「あちゃァ、あの家賃まだ払えてないんですよ。
   あ、とりあえず、こっちです。見つかるとめんどくさいので」
男3「ええちょ隠しコマンド教えてよ」

男たちは窓から逃げるように去る。

猫4「入りますよ!」

シーン4 可能性①

猫4、部屋をくまなく探す。
絶対にいないだろというところを重点的に。
観客に聞いたり、何をしてもいい。

猫4「(結局見つからず、部屋中央で座り込む)はあ」

他の猫たち、ため息をきっかけにぞろぞろと入ってくる。

猫3「あいつらどうするう」
猫3 、リモコンでテレビを切り替え、テレビを楽しむ。

 猫1「ちょっともう疲れたんだけど」
猫2「京さんいるし、なんとかなるっしょ」
猫4「肩コッター」
猫5「いや、そこじゃないっしょ」

猫1「ねねみてこれ」作りかけの折り紙をたくさん持ってくる。

猫2「え、じゃあどこよここ」
猫5「場所のはなしじゃない」
猫3「結構こき使い過ぎじゃない?」

猫4「すごいね」
猫1「溜めてんだー」(猫4と1で折り鶴を作り出す。)

猫5「お尻触られたし。」
猫2「それわたしね」
猫5「え、あんただったの」

猫3「そろそろ休憩してもいいとおもうんだけどにゃ」

猫1245「あ」
猫3「にゃ」

猫3「あ、いいもんみーっけ」
猫3、猫41の折り紙をぐちゃぐちゃにしだす。
猫1「ああああああ」

猫245、いじわるに加担し始める。

猫5「人の嫌がることってやっぱ最高」
猫1「せっかく折ったのに」
猫2「ま、またい折ればいんじゃん」
猫1「そんなあ」
猫4「へたっぴだったし、ちょうどいいじゃん」
猫1「ひん。え?」

サイレンの音が聞こえてくる。
猫3「お、次始まんだ」
猫5「そら、いくぞ」
猫1「でも、」
猫2「ほーら」
猫4「今度は一緒におろうね」

猫たち少しせわしない様子で去る。


シーン5 ゴミ捨て場で分別は必要か


男2「うわ、なんだよこれ」
男1「でもやりがいありますね」
男3「てかさっきのサイレン近かったですね」
男2「この辺、多いんですよ」

男23、掃除を始める。男1、観客の疲れてきた様子を感じ取る。

男1「あ、どうもお久しぶりです。名前、覚えてますか?京です。
   疲れた時は肩甲骨を寄せるように背伸びをすると
   上半身の凝りが取れるらしいです。ちなみに、今はというと、
   九段下さんのバイト先を転々としています。
   ティッシュ配り、コンビニ、ボディガード。
   そして今は居酒屋のゴミ捨て場で締め作業中です。
   これぐらいのポイ捨てやめてほしいですね。」

猫たちも続々と現れ、アルバイトのエチュードを始める。
しばらくして、居酒屋のゴミ捨て場になる。

男3「(男1に向かって)ちょっと、なにさぼってんですかー」

男1「ああすみません。それでは(観客に向かって)」

男2「あ、そういえばここですよね」
男3「ああ、そういえば」
男1「やっと聞きたいことがきけるんですね」
男2「ここで横たわってたんですよ。」

男2、猫2と戯れている。
男3、惨めに酔っぱらいながら倒れている。
男1、どこかへ姿を消す。

男3「もおおおむりだああああああんまりだああ」
男2「あのー」
男3「え?なに、邪魔だってか?」
男2「いや、」

猫2「にゃあ」
男2「あんまり大声出すと逃げちゃうんで、すみません」

男3「猫っていいですよね」

男3「怒られないし、食べるものには困らないし。
   褒められてバッカじゃん。ああいいなあ
   俺も猫になりてえーああなりてえよほんと」
男2「そういうやつ人間でもいるじゃん」

猫3「おーい、九段下ー、休憩終わったぞー」
男2「はい!今行きますすんません」
男2、バイトに戻る。

男3「ああ気持ちわりい」
猫2「意外とだりいよ」
男3「え」
猫2「いや、だりいよって」
男3「いや、よってんだな頭いてえし」
猫2「ほら、ちゃんとこっちみて」
男2、猫2目を合わせて止まる

男2「いやいやいや、そんなバカな」
男2、聞こえていないふりをする。
猫2「ちょっと?そこのおっさん!」
男3「え、あ、はい」
猫2「いい?猫だって常に遊び惚けてるわけじゃあないの。
   寒いし、臭いし、食べ物だって毎回ありつけるわけじゃないのよ。
   こうやって媚び売って食べ物乞うなんてことし たことある?
   ないでしょアンタみたいに驕ってるやつ、
   ホームレスとかなんとかぬかして 見下してんでしょ、
   どうせあんたがなりたいのは飼い猫の方、ご飯も寝床も愛情も
   全部与えられた人生の勝ち組の方!
   世の中そんなに甘くないってのこの青二才!」
男3「めっちゃしゃべるやん」
猫2「なに?」
男3「いや、なんていうかその」
男3、渋るようななんともいえない顔

猫2「うわ、いまきもいって思ったでしょ。
   うわー最悪これだから最近のにっぽんだんじは」
男3「いやいやいや、別にそんなこと」
猫2「え、じゃあなに思ってないのにそんな顔できんの、かあああ」
男3「えいやどんな顔」
猫2「なに、わたしが悪いって?」
男3「いや、なんか悪い悪くないの話ではなくてですね」

猫2「裁判長、私はこのようなことから彼を起訴致します。」
男3「ええ?」
男1「静粛に」
男3「いや、ちょっとまって異議あり!」
男1「被告人」
男3「この問答はあくまで原告側から行われたことであり、
   見知らぬ人から煽り文句を受けた上での会話となるため」
猫2「異議あり、話しかけたことはわたしで違いありませんが、
   私の容姿を侮蔑されたこと またそのような態度を取られたことに
   違いはありません」
男3「異議あり、原告側の供述を行った事実はありません。
   またその証拠もござ」
猫2「証拠ならあります」
男3の変な顔写真が投影される。
男3「なんでー!」
男1「静粛に。被告人、この写真はあなたですか」
男3「そ、そうですけど… 」

男1「うーん、そっかーじゃあ死刑」

男3「え」
男1「なんか人の心傷つけちゃった罪で死刑」
男3「え」
猫1「世知辛」
猫3「妥当だな」
猫4「じゃあにゃ」
猫5「ムカチャッカファイアー」
男3「は、は、は、あ、え、ああああ」


シーン6 可能性②

現実の世界ではないようなどこか。
無機質で、時間の流れや空気等、日常では感じていたことが、
何も感じられないような空間。 

男3眠るように倒れている
猫2と4ボール遊びをしている。

猫1「ねえ(つんつん)」
猫5「呼びかけても無駄だよ」
猫1「ねえってば」
猫3「だから無駄だって」
猫1「無駄なことないよ」
猫5「この時間軸だと起きないの、いい加減この生活にも慣れなよ」
猫1「起きるかもしれないじゃん」
猫3「起きたときにはこっち側」
猫1「それでもいいもん」
猫5「とりあえずあんたのそれは時間の無駄ってこと」
猫1「無駄でもいいもん。
   ねえ、私、あなたのことちゃんと好きになれなかった、ごめんね」
猫3「だから、好きになれっこないよ」

猫5「うちらでも珍しいのに」
猫1「でも」
猫5「好きになるって人間みたいでなんかきもいね」
猫1「可哀想じゃん」
猫3「かわいそうなのは僕たちの方でしょ」
猫1「むむう」
猫5「ねえ、としまえんじゃなくて違うところがいいー」
猫3「例えば?」
猫4「ぴーろランド?」
猫2「デイズニーランド!」
猫5「U ・F ・J 」
猫4「銀行かよ」
猫3「銀行行きたいの?」
猫5「そうじゃにゃいって…. ぷぷぷ」

サイレン音。先ほどよりも距離が近い。

猫3「やべ、あいつきた」
猫5「おっさきーにゃんにゃーん」
猫2「ちょボールもってて」
猫たち、そそくさとその場を去る。

猫1「やだー」
猫1、お腹にボール入れながら、去る。

しばらくしてから、バイト帰りの男2が現れる。

男2「あれちょっと、あの、大丈夫ですか?ハローハロー聞こえますか」
男3「は!」

男2「あのー大丈夫です?」
男3「え、ああえ?」
男2「大丈夫ですか?僕のこと見えてます?」
男3「へ」
男2「これ何本に見えます?」
男3「1?」
男2「あ、よかった、たてます?
   終電もうないから歩いて帰ることになるんですけど」
男3「え!もうそんな時間?ま、おろろろおろろろろろ」
男2「あわわわわ、ちょ、とりあえずそこの公園までいきますか」

男1「で、さっき公園で横たわってたんですね」
男3「あーまだきもちわるいわ。おえ。
   あれ、どっかで会いませんでしたっけ」
男1「人違いですよ多分」


シーン7 職務質問で説教は美徳か

居酒屋と公演の間、人気の少ない路地が多くある道路。
街灯も少ない。

サイレンの音が近い。どこかはわからないが、赤い光も差し込む。

男3「やっぱ近くないですか」
男2「さっきより近いですね、なんかあったのかな」

猫3「あちょっといいですかー」
 猫5「すみませんーこの辺りで最近殺人事件起きちゃいまして。」

男1、またふらっとその場から消える。

男2「はあ」
猫5「持ってるものぜーんぶ!みしてもらってもいいですか?」

猫たち二人の身体をベタベタと触る。

猫3「何されてるんですかあ」
男3「え、」
猫3「お仕事ですー」
男3「あ、サラリー… 」
猫3「へえええええええ」

男2の後ろポケットからナイフのようなものが出てくる。

猫5「あっれれーこれなんですかー」
男2「え」
猫3「おかしいねえおかしいねえ、こんな時間にー
   ー体何してたんですかー」
男2「あ、いや」
男3「すみません、多分なんかの間違いだと思うんですけど」
猫3「いやあ間違いも何もポケットから出てきたんだもんねええ」
猫5「これでなにするつもりだったんですかー」
男2「いや、違います僕のじゃないです」
猫5「でもーポケットから出てきましたよねー」
男2「か、仮に僕のものだったら、どうするんですか」
猫3「(早口で食い気味に)銃刀法違反で現行犯だねー」

男3「ちょ、いいですか」

猫5「はいー」
男3「いや、あの、もってただけですよね。仮にの話ですよ。
   彼の物だったとして。それで誰かを 傷つけたり、
   脅したりしたらそりゃ問題ですけど、
   でもそんなことしてませんよね、てか見 てないですよね」

猫3「あのね、もってることがいけないっていってんだよ。
   その気がなくても、持ってるこ とでそれは恐怖を与えるし、
   最悪の場合無意識のうちに傷つける可能性だってある。
   それが”持つ”ってことなんだよ。わかるかね」

猫5「お、かねええい」
猫3「君らにその責任を負えるの?
   もう無条件に何でもできる期間は過ぎてるよ」

男 1「ある日のいつか、どこかの人はいいました。
   可能性という言葉を無限定に使ってはい けない。
   あくまで我々という存在を規定するのは、
   我々がもつ可能性ではなく、不可能性である。と」

男1、マントをつけて出てくる

男1「素知らぬ誰かを助けるために
   愛と勇気を貪り尽くす正義のヒーロー「サイクロン」ただいま参上!
   ってあれそういう話じゃなかった?」

白けた空気

男1「これ、ただの折り紙ですよ」
猫3「ああーすみません。すみません。」
猫5「ご協力ありがとうございましたー」 

男2「こ、こわかったああああああ」
男3「いやあよかったあああああ」 

男1「なんだったんですかさっきの」
男3「めっちゃ怖かったんですから、ほんと、ほんとに」
男2「ほんと、ちびるかとおもいましたよー」
男23「ねえ」

男1「あ、えっと、じゃあなんでこんなもの、持ってたんですか?」
男2「え、ああ」
男3「確かに」
男2「なんでだろう、てか久しく折り紙さわるな」
男3「小さい時よく遊びましたよね、折り紙。てかなんですかそれ」

男1「(客にむかって)折り紙って今すごいですよね。
   これとかこれとかこれとかも折り紙で出来てるんですって。
   一枚の紙きれを折って開いて今や組み合わせる。
   単純な作業ですけど。」
男3「できないんですよねー」

男1「あ、おふたりの将来の夢ってなんでした?」
男3「なんですか急に」
男1「なんかふと思いまして」

シーン8 可能性③

このシーンでは二つのシーンが同時に行われる。
台詞同士の衝突が無いようで、阿吽の呼吸で。

猫1「あなた、お帰り」
男3「ただいま、なにしてんの」
猫1「千羽鶴。お腹の子が生まれてくる時に見せてあげたいの」
男3「それ、入院してる人に持ってくやつだよね」
猫1「千羽もおれば色がいっぱいになるでしょ。
   だから、あなたが見る景色は色であふれてるのよって、
   ほらーモノクロの世界なんかよりずっといいでしょーこっちの方が」

猫1「あ、だからこの子の名前は」


猫3「ここでーキノコがしこりつかってー」
男2「あー!おい、ずりいよそれ」
猫3「はいー俺の勝ちー3150」
男2「ちょ、もういっかい!もっかい!」
猫3「何度やっても同じだぞー」
猫5「私もやりたいー」

男2「お前、これからどうすんの」
猫3「あ、そうやって気をそらす作戦にはのらないぞ」
男2「いやこれ割とマジ」
猫3「うーん、どうしようかなあ、お前は」
男2「俺は」

猫1「(何かに気づいて)あ!忘れてた」
男3「ああ、俺が行くよ」
猫1「ねえ、この子、どんな子になるかな」
男3「俺に似て背は高くなるんじゃないかな」
猫1「じゃあ将来はモデルさんとか」

猫3「まじ?」
猫5「いいじゃん」
男2「ま、別に深い理由ないんだけどね」
猫3「俺もなんだけど」
男2「まじ?」
猫3「じゃあまた競争だな」
男2「受験の時みたいにはならんぞー」

猫5「なんか、変わったね」
男2「ん?どこが」
猫3「あ、ここのショートカット知らないでしょ」
男2「え」
猫3「はい、ゴール!3150」
男2「まじかよー」
猫3「じゃ、続きは」
猫5「みんな夢がかなった時だねー」
男2「おう… 」

猫1「きっとあきらめないよ」
男3「え」
猫1「そこは絶対あたしに似てるから、にひひ」
男3「うん、そうだね」 

男23『夢ってなんだったっけ』

シーン9 それはやがて可塑性に

男1の部屋にある大きな窓を全開にしているような、風通しを感じる。
いうなればそこは夜と朝の境目。

猫1「夢ってなんなんだろうねえ」
男1「ガソリンみたいなものかな」

猫2「え、じゃあさも燃えるの?ぼうわーって」
男1「日本人はそういう比喩を使ったりもする」

猫5「可燃性なんだ」
男1「かなえんかもしれん」

猫4「食べれる?」
男1「食べられる」

猫3「たくさんあれば困らなそうだなあ」
男1「たくさんあるね。それはそれはたくさん。
   でもたくさんあるからすごく困る。
   かなえられることもあれば難しいものもある。
   元々決められているものもいるし、はみ出せないものもいる。
   さっきいった不可能性のお話ね」

猫1「もうおぼえてなーい」
猫2「あの人たち、ちょっと面白かったな」
猫3「ま、どうせ俺たちのことなんてきっと忘れるんだろうけど」
猫5「人間ミンナそうでしょ」
猫4「でも、案外そうじゃないかもね」
猫3「なんで」

猫4「オンナの感」

猫1「じゃあもう僕たちは必要ないかもね」
猫2「元から必要なかったさ」
猫3「元からいないようなもんだし」
猫5「人生を楽しくするのは千の真実よりひとつの噓ってね」
猫1「なにそれ」
猫4「変なの」
猫2「もう眠てえよ」
猫3「寝ますか」
男1「夜行性は辛いね。じゃあ、ありがとね」

猫「グッドラーック!」

シーン10 書斎にて

男1の書斎のような部屋。
日常的な雰囲気は感じるが、生活感はまるでない。
もしかしたら、ものすごく雑多な部屋なのかもしれない。

男1「9 月9 日、東京は晴れ。
   人類を根絶やしにせんと、夏の太陽は僕の肌をつんざく。
   僕は太陽の味方だというのに。
   仲間意識がもう少しあってもいいとは思わないのだろうか。
   このお話はちゃんと伝えられただろうか。僕の世迷言はそれだけだ。
  「世の中馬鹿なのよ」君はそれだけ教えてくれたね。
   でもあの曲は教えてくれなかった。遥か、彼方、どこかのだれか、
   あの歌詞の続きを教えてくれはしないだろうか。
   メーデーメーデー、こちら惑星の箱庭、
   目まぐるしく移ろうこの時に、この折り鶴を」 

男1「このお話もそろそろおしまいです。みなさんどうでしたか。
   どういうお話か、わかりましたか。分からなくても大変結構です。
   なぜならこれは大変くだらなくて薄汚れたものな のですから。
   それじゃあここから僕の出番はおしまいですのでこれにて。
   長らくお付き合い いただきありがとうございました。
   また会いましょう。グットラック」

 男1は姿を消す。

シーン11 朝の公園

始めの公園にもどっている。
朝、かなり早い。もうじき太陽が昇ってくるような。

男2「なんだかんだだいぶ歩いてきましたね」
男3「そうですねーそろそろ駅つくかな、あ、自販機ある。
   ちょっと水かっていい?゛あー 水うめ、
   クリスタルガイザーってうまいすね」
男2「水なんてどれも一緒でしょ」
男3「そうですか?あれ、あの人どこ行きました?」
男2「そういえば、あれ、何て名前の人でしたっけ」

男3「ま、まだ、暗いっすね」
男2「そうですね」

男2「どうするんですか、明日から」
男3「どうするって?」
男2「いや、会社の」
男3「ああ、もうどうしようもないし転職先探そうかなー」
男2「ああ」
男3「そっちはどうするんです?」
男2「俺もわかんないです。もっかい大学受けるかも知れないし
   このままかもしれないし、」
男3「え、歳いくつ」
男2「え、急ですね、23ですけど」
男3「え23?あ、年下なんだーうわー
   俺今までめっちゃ敬語つかってたー」
男2「いくつですか」
男3「え」
男2「いや、歳」
男3「28だけど」
男2「そうなんすね」
男3「なんだー歳下かよーちょ、もうちょい早くいってよー」
男2「なんか」
男3「ん」
男2「なんか、ここまで来たら歳関係なくないっすか、
  自分が言うのもなんですけど」
男3「あーんーまあ確かに」
男2「あ、いや別にため口聞きたいとかじゃないけど」
男3「もうきいてんじゃん」
男2「え、あ」

男3、笑う。つられて男2も。

男3「始発動いてるかな」

猫、ぞろぞろと表れ、ゆっくり二人の右手に折り紙を持たせる。
また一人にはヒーローマントを巻き付け、一人には傘を持たせる。
そして顔に赤リップで猫の髭。

男2「動いてるんじゃないですかね」
男3「敬語じゃん」
男2「あ」

男3「そうだ連絡先交換しない?」
男2「え」
男3「いや深い意味ないんだけど、なんか一期一会っていうか、
   なんか仲良くなれた証的な」
男2「なんすかそれ、28 歳ってそんなこというんすね。」
男3「ちょっとハズイ?」
男2「ちょっとハズイっす。はい」 

男2「始発来てますね」
男3「あ、じゃあ俺行くわ、あれ電車?」
男2「いや、僕この辺なんで」
男3「また連絡するわ、お互い余裕出来たら」
男2「行きましょう是非、連絡待ってますね。」


「ズザーッ…本日未明、千代田区立九段坂公園にて、九段下巧巳さん(23)、市ヶ谷拓海さん (28)と思われる二名の遺体が発見されました。ザザー……それぞれ遺体の右手、ザザーザザ……ズボン左ポケット には赤い折り鶴が確認され、周辺には……ガガガガガガガガガ……がおかれており、警察は愉快犯の犯行とみて捜索を続 けて……います。」 

カーテンコール


あとがき

こんにちは。サイトウナツキです。
今回も過去に上演させていただいた「人思 i 念-ジンシアイネン‐」という作品を再び書かせていただきました。
前回の「愛おしくてD◎nuts」のアナザーストーリーにあたる今作は、私の処女作といいますか、本当に人生で初めて書いた戯曲なので、今、猛烈に恥ずかしい気持ちになっています。
でも、今作を避けてしまうことは、これから少しずつ更新していこうと考えている作品に繋がらなくなってしまうので、恥じる気持ちを十二分に押し殺して、今私はデスクに向かっています。

テーマについて

 今作の主なテーマは「思う」ということです。
 私の中で「思う」には2パターンあると思っています。それは端的に言えば、「自分を思うこと」か「他人を思うこと」です。格好良くいえば「自己理解」と「他者理解」です。
 まず、「自己理解」について。これは純粋に自分のことだけを思うことを指します。自分が何をしたいのか、何を見たいのか、何を感じたいのか、これからどうなっていきたいのか、です。こうしたことを考える人は体感としてかなり少なくなってきていると思います。もれなく私もその一人です。なぜなら、自分のことに自信が持てないから。上手くいかないかもしれない、思ってたようにいかないかもしれないと否応なく考えてしまうから。でも時間だけは無情にも過ぎ去っていきます。だから、何回やっても上手くいかなかったかもしれないけど、その時自分がしたいことをしたいように生きて良いんだよって自分の心のどこかから振り絞って伝えたくて。
 次に、「他者理解」について。これは自分以外の全ての存在するものについて思うことを指します。友達や先輩、後輩、大人、子ども、家族、動物、服、ひいては地球のことまで。こうした対象を持った理解や考えは時に偽善だと呼ばれます。一足社会に出てみれば、周りは自分の利益や保身のことしか考えていません。なので今回男二人には少し可哀想な運命に遭わせ、見ていただいてる方には、終わった後、少しだけ考えてほしいのです。自分は同じようなことをしてないだろうか、と。意外としちゃってます。私もその一人です。だからこそ、今作を通じて、私は自分のこと以上にこの「他者理解」は大事なものだと考えています。他者なくして自分はないのですから。でもだからといって自分のことを蔑ろにしてしまっては本末転倒です。
 なので今回はこれら二つを包括した「思う」ということを主題として起用しました。ちなみに、タイトルの「ジンシアイネン」、これは本来「塵思埃念」と書きます。意味としてはどうしようもないことを思うこと、です。

登場人物について

 今作の主軸として登場するこの「京」という男。この男は、「愛おしくてD◎nuts」に登場する森下と同一人物です。本当の名前は京でも森下でもないのですが、それは今後更新していく予定の「花束ドロップアウト(仮)」という作品を読みながら、お楽しみいただければと思います。
 そして、今回登場する市ヶ谷と九段下。彼らについては、状況は違えど、周りからの劣等感を感じながら生きてきた人です。劣等感を感じるがゆえに、頑張るのか、自暴自棄になってしまうのか、どちらにしても周りは見えなくなってしまいます。もっと周りをみて、ほら、もう少しだけ生きやすくならないかな、ってエンディングの頃には、二人にそう思ってもらいたいと考え、書きました。
 さて、今回も登場した猫ですが、この猫たちが使える魔法は、対象の知りたい情報を実体験のように提示することです。もう少し端的にするなら、実体験を伴った幻覚をみせることでしょうか。対象は京とその周辺にいる人。ただ、この猫たち、ハムマヨみたいに1匹ではこの魔法が使えません。5匹揃ってやっと使える魔法なのです。1匹でも使える魔法は、目の前にいる人に少しだけ幻覚をみせることくらい。痴漢のシーンでは「本当に痴漢をしてしまった」という幻覚を市ヶ谷にみせたわけですが、あいにく市ヶ谷の両手は塞がっており、どうあがいても痴漢をしていないという認識になってしまったので、市ヶ谷の恐怖感や失望感が合わさり、裁判をかけられるという幻覚をみてしまうというわけです。その結果、ゲロも吐いてますしね、今作で一番の被害者は市ヶ谷かもしれません。

最後に

最後にはなりますが、
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
次回からは「花束ドロップアウト(仮)」という作品を更新させていただきます。(もしかしたら、タイトルは変更しているかもしれません。)
 これは「人思 i 念-ジンシアイネン‐」そして「愛おしくてD◎nuts」に繋がる”始まり”のお話になります。森下と京は一体誰なのか、どうして名前は都営新宿線の駅名なのか、なぜ猫は魔法が使えるのか、その辺りについて徐々に触れていきたいと思いますので、今後とも読んでみたいと思っていただければ幸いです。
 既に「花束ドロップアウト ①」を更新していますが、こちらはサイドストーリーとして書かせていただきました。戯曲としての形ではありませんが、もしよろしければ、合わせてお楽しみください。

それではまた。


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