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2023チェロ発表会本番(当日前編)
年に一度の、チェロの発表会を終えました。
振り返りをしたいと思います。
今回は、発表会当日の話です。
記事にしてみたら長くなったので、2回に分けます。
★
一日雨の日だった。
私は予定通り、11時少し前に会場入りした。
楽屋前の廊下で、ばったり師匠に会った。
「あ、夜。早速リハーサルするから、ステージに来て。」
楽屋に荷物を置き、チェロケースと楽譜を持ってステージに向かった。
★
リハーサルでの伴奏は、本番で伴奏してくださるW先生ではなく、師匠。
展開部の後半、師匠が伴奏でミスタッチをしたのをきっかけに、私がつまずいた。
そこから何とかしようとするものの、全然戻れない。
ピアノの先生だってミスすることはある。
ソリストは気にせず演奏を進めなければならない。
それができなかった。
ついに、師匠が演奏を止めた。
「回復の兆しが全く見えない。練習室でさらって来い。」
私は、7月のオーケストラ本番前のゲネプロで3楽章冒頭のソロが上手く出来ず、指揮者に「裏でさらって来なさい!」と言われたイヤ〜な出来事を思い出した。
あれから3か月。私は成長していないのか?
そのまま、練習室へ向かった。
★
開会式に出るため、10分前に、客席へ行った。
客席後列に、師匠が一人で座っていた。
私は、師匠の隣に座った。
「弾けたか?」
と師匠。
「はい。普通に弾けました。何なんでしょうかね。」
と私。
師匠、小さく笑う。
「昨日、キチンと弾けていたんだから大丈夫なんだよ。Wさんにはカバーしてもらえるよう、話しておいたから。」
「ありがとうございます。」
その後、どういった話の流れだか、弦を触る左手指の話になる。
「私、弦を触る左手指にマメやタコがないんですよ。逆に柔らかいです。でも、弦を触っても痛くないです。
どういうことでしょう?」
師匠、うなずく。
「ああ、そういうものだよ。永年やってるとそうなる。僕も同じだよ。ほら。」
師匠が左手を出してきた。
おお、プロ奏者の手!
「ホントだ、やわやわだー。」
「しつこく揉むなよ、くすぐったい!」
「こちょこちょ。」
「こらッ!」
ふざけていると、始まりのブザーが鳴った。
★
開会式の40分後には出番だ。
後楽屋に戻って着替えた。
その後、丁寧にチューニングをした。
この音楽教室の発表会は、楽器がバラエティに富む。
ピアノ、ヴァイオリン、フルート、リコーダー、声楽、チェロ、ハープ。
声楽とハープなんて、なかなか聴けない。
(私は教室の生徒ではないが、発表会だけ、混ぜてもらっている。)
チェロの一人目が始まったところで、私は楽屋を出た。
舞台袖で師匠と伴奏のW先生が待っていた。
私が二人の前に立って「よろしくお願いします。」と挨拶すると、師匠が何かボソっと呟いた。
私が聞き取れずに首を傾げると、W先生がクスクス笑った。
「Kさん、そういうことはキチンと日本語で言わないと。」
師匠、頭を掻くが、何も言わない。
私は意味が分からずW先生を見ると、W先生が説明してくださった。
「Kさんはドイツ語で『キレイだ』って言ったんですよ。」
私は、オーケストラ本番のステージで着る裾の長いドレスに、大きく開いた胸元にはパールのネックレスと、ピアスを合わせていた。
私が驚いて師匠を見ると、師匠は目を逸らした。
センセ、照れてるのか。
おもしろい。
「上手く弾けないから、衣装で盛り上げようという魂胆です。」
私はW先生にそう言った。
「衣装で気分を上げるのって、大事ですよ。
でも、夜さんちゃんと弾けるから大丈夫ですよ。」
どこまでも優しいW先生。素敵だ。
★
なんだかんだで、直ぐに出番となる。
「さぁ、行っておいで。」
師匠に軽く腰を叩かれて、リハーサルの時よりも更に明るくなったステージへ向かった。
演奏を始めて、私はあることに気付いた。
(後編へ続く)