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7月チェロレッスン2回目:肉じゃがと、天上に捧げる音

職場から歩いて数分のところに、昭和の香りがする精肉店がある。

お弁当やお惣菜も充実しているので、私はお昼はモチロン、仕事が長丁場になりそうな時の腹ごしらえ、職員への差し入れなんかにもちょくちょく利用する。
うちの職員もよく買いに来る。

「こんにちはー。」
「あら先生いらっしゃい!今日は早めの仕事上がり?」

何食べても美味しいし、なんといっても、奥さんの元気さが人気のお店。
夕食の買い物客がいっぱいいる中、大きな声で先生と呼ばれるのは恥ずかしいし、未だに慣れない。

「はい、たまには。肉じゃが作るお肉が欲しいです。」

「じゃあ、豚肩ロースの細切れがいいよ。300gね?」

お肉屋さんのお肉は間違いなくおいしいと思う。

「先生、ちゃんと食べてるの?また痩せたんじゃない?」

奥さんは私の新米時代も知っている。あの頃は学生時の名残の栄養不足でずいぶん痩せていた。

「そんなことないです、たくさん食べてます。」

ほかにも、お惣菜をいくつか。
「お会計お願いします、」と言うと、お惣菜パックが倍の量になって出てくる。「オマケね。」と奥さん。

「オマケ、多すぎです。これじゃ商売にならないじゃないですか。」

「いいの、いいの。賞味期限ギリギリであと捨てることになっちゃうから。先生は仕事もタイヘンなんだし、音楽だって体力勝負なんだから、いっぱい食べなきゃダメよ!」

お店には、うちのオケのチラシを置いてもらっている。私にとって、いろいろとありがたいお店。

お肉はおいしい肉じゃがになりました!

翌日はチェロレッスン。
カギをもらったので、午前中いっばい先生宅のレッスン室で練習してから音楽教室のレッスン会場へ向かう。

「こんにちは。午前中レッスン室借りました。
それから、義母から自家製のジャガイモたくさんもらったので、肉じゃがとジャガイモ、台所に置いてきました。肉じゃがは冷蔵庫です。食べてください。」

「おー、ありがとう。」と先生。

かなり久しぶりに入った先生の家。

私の旅行土産のレッスン室プレートも、おもしろがってたくさん貼り付けた冷蔵庫のマグネットも、私が使いやすいように配置を変えたお鍋やお皿も、昨日私が出て行ったばかりみたいに、なんにも変わっていなかった。

あの頃は先の見えない未来が不安だったけど、毎日が精一杯で楽しかったなぁ。
切なくなってしまった。

さて、演奏会勧誘に来たTさんの話になった。

やはり、先生の話していた人と同一人物のようだ。
「出演を力説された?ほら、僕が言ったとおりだろう?目を付けられるって。だから、なんで夜がトップサイドにいるかなー。」

ですよね…。

「え、プロのM君とかY君とか来るって?客寄せパンダ的な?はー。でもさぁ、ホントに出演するかはわからないものだよ。」

そうなんですか…。

「大先生、自身の出身地開催だから、仕方なく出ることにしたそうだよ。だからって夜は出ないほうがいい。大先生も忙しい人だから、実際出る出ないは直前にならないとわからないから。」

そうですか…。

そして、レッスン。
3番プレリュードの仕上げ。

重箱の隅をつつくような指摘ばかりに感じる…
先週の指摘は直ったのに…昔だったら、これくらい弾ければよし、だったのに。

ラストの重音、開放弦ドソは腹の底から重く、ミドは軽やかに。
「天上に捧げる音だよ。天に昇るように余韻を残しなさい。」と、先生は天井を指差す。
わたしも思わず天井を見上げる。

そして、8月からはサラバンドに入るから、次回でこの曲は終わりとのこと。

「次回までに仕上がらなかったら、発表会終わったらまたやる」とのこと。
えーーー!練習時間が確保できない今、次回で合格もらえそうもないじゃない!
もう飽きたよう。
消化不良の中、サラバンド習うのもイヤだよう!

それにしても、なんで発表会が冬の定演本番の1週間前になっちゃったの?!
オケと同時進行がかなり辛いんですけども!!

嘆いたところで変わりませんね…

先生の話では、サラバンドはあのホールで弾くのに良い曲だという理由のほかに、弓の使い方のテクニックを学んでほしいという意図があるとのこと。

サラバンドは重音だらけだ。

「弓、キチンと使えないと、この重音の積み重ねは上手く美しく弾けないよ?今日しつこくやったプレリュードのラストと同じだね。」と先生。

先生の楽譜を写メさせてもらう。
ボウイングの変更が書いてあるためだ。
忙しい中でも、譜読みくらいはしておきたい。

先生の楽譜。余白に書いてあるのは何だろう??

レッスン終了。じゃあ先生、私はこれからサロコンへ行きますね。

「ああ、そっか。今日か。頑張っておいで。」

はーい。

私はそのままサロコンの会場へ向かった。

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