24.5月第50回定期演奏会(前編)
半年前から練習を始め、いよいよ定期演奏会本番当日を迎えた。
ベートーヴェン ピアノ協奏曲『皇帝』
ブラームス 交響曲第3番
ブラ3は特に難しく、本当に人様に聴かせられる演奏が出来るようになるのか不安だった。
私個人としては、とてもキツイ日程だった。
前々日まで、半月ほど関東へ出向していた。
出向中は、3時間まとまって寝られれば良いほうで、ほぼ寝られない忙しさだった。
疲労はとっくにピークを超えていて、昨日のゲネプロは強めの栄養ドリンクで乗り切ったが、今朝はもうそれも効かなかった。
気力がどこまで持つかが勝負。
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そうして始まった、開演前のリハーサル。
「チェロ。ブラ3の3楽章、冒頭のソロを始めに聴かせてください。」と指揮のH先生。
13小節分弾くと、H先生のストップが。
「そんな不安そうに弾かないで。」
とマエストロ。
すかさず、トレーナーのM先生が
「チェロにとっては、とても難しいのよ。」とフォローくださる。
「皆さん、ここは音程取りにくいからつい遠慮がちになってしまうけれど、そうすると返って悪目立ちになるの。外してもいいから堂々と弾いたほうが様になります。」
M先生の指導どおりに弾くと、マエストロからOKが出た。
「皆さんすみません、リハの時間が押します。プロオケでこんなことしたら殺されるんですけれど。」
言いながらH先生苦笑する。皆もつられて笑う。
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そして、リハ時間が10分オーバーした。
20分後にはロビーコンサートに出演しなければならない。
急いで着替えて、おにぎりを頬張った。
楽器を調律して、早足にロビーへ。
ロビーにはたくさんのお客さん。
ゴルターマン『ノクターン』
アザラシヴィリ『無言歌』
を演奏。
演奏前に、私と同じ3rdのKさんに耳打ちされる。
「メガネ忘れちゃって、楽譜見えない!ゴメン!」
げー。私ががんばるしかない。
自分だけ走らないよう、周りの音をよく聴くように気を付けた。何とかやり切った。
見に来ていたトレーナーM先生に
「昨日聴いた時にはどうなるかと心配したけれど、良かったわよ。特にノクターン、美しくて良い曲ね!」
と評価をいただき、心底ホッとした。
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さあ、いよいよ本番。
舞台袖へ向かうと、ステージではH先生の前振りトークが始まっていた。
袖ではホルンが音出しをしていて、H先生の話が全く聞こえず。
お客さんの笑い声が聞こえるから、きっと楽団のことをディスってるんだろう。
「チェロのみんな、集まって!円陣組むよ!」
とパートリーダー。
「今までの練習の成果を存分に発揮しましょう!えいえいおー!」
みんなで右手の弓を振り上げた。楽しい。
「皆さん、出番です。」
ステマネさんの合図で金管木管が先に出ていく。弦は奥から順番に。
暗い舞台袖から、眩しいステージへ出る。
席に着いて改めて客席を見た。
ほぼ満員だった。座席が1列目しか空いていない。
驚いた。
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師匠も昨日のブルックナーでここら辺に穴開けたかな?などと考えつつ、床に慎重にエンドピンを刺す。
チューニング後、マエストロが拍手と共に登場。
1曲目 ベートーヴェン ピアノ協奏曲『皇帝』
H先生、指揮台に立つと、緊張感に満ちた静寂をたっぷりと味わったようだった。
次の瞬間、力強くタクトが振り下ろされた。
我々、ピアノを迎え入れるための1音をffで出す。
大ホールが一気に迫力のサウンドで満たされた。
華やかな舞台の幕開けに相応しい。
ベートーヴェン、やっぱりすごいな。
ソリストIさんのピアノが更に洗練されているのが、私にもわかった。
聞き惚れすぎて落ちないよう、集中力を要した。
ソリストアンコールは、リスト。
ソリストの演奏を同じステージ上で聴けるなんて、とても贅沢だ。
皇帝の後に相応しい曲を、ご自身の得意分野から選んでくださったそうだ。
皇帝の濃厚なステーキの後の、ドルチェのような美しい調べだった。
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幕間後の後半は ブラームス『交響曲第3番』
半年間苦しんだ曲。
H先生、指揮台の上から「覚悟は良いか?」というように全体を見渡した。
私、冒頭の左手の位置をチラリと目視した。
金管木管の咆哮の後、弦全員で重い足踏みのような重音を刻む。
私、何だか調子がいい。
ゲネプロで失敗したと思った部分も難なくクリアした。
例の3楽章のソロもビブラートをたっぷり効かせて弾き切った。
難しい跳躍7ポジションのBが決まったときには、心の中でガッツポーズ、脳内でファンファーレ!
ところが。
4楽章に入ってから、荒れた。
(『24.5月第50回定期演奏会後編』へ続く。)