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化学と数学③ 対数(log)

以下のシリーズの続きです。

テーマは対数になります。通常だと高校2年生でやるものですが、化学では当たり前のように使います。
「aを何回かければbになるのか」を$${{\rm log}_{a}{b}}$$で表します。例えば10を何回かければ1000になるのかというと1000=10×10×10=10^3なので$${{\rm log}_{10}{1000}=3}$$となります。
計算の上で必要なのは, $${{\rm log}_{10}{10^{x}}=x}$$ …①
$${{\rm log}_{10}{xy}={\rm log}_{10}{x}+{\rm log}_{10}{y}}$$ …②
$${{\rm log}_{10}{\frac{x}{y}}={\rm log}_{10}{x}-{\rm log}_{10}{y}}$$ …③
$${{\rm log}_{10}{x^a}=a{\rm log}_{10}{x}}$$ …④
です。


pH計算

ここではこの問題をやりましょう。

一価の酸HA(電離定数$${K_a}$$)の水溶液中におけるHA, A-の存在割合をそれぞれ$${\alpha_{HA}}$$, $${\alpha_{A-}}$$とする(すなわち, $${\alpha_{HA}=\rm{\frac{[HA]}{[HA]+[A^{-}]}}}$$)。
(1) $${\alpha_{HA}}$$を$${K_a}$$, $${\rm [H^{+}]}$$を用いて表せ。
(2) $${K_a=1.00 \times 10^{-7}}$$, pH=6.40のときのHAの存在割合を求めよ。
(3) 酸HAとそのA−を混ぜて緩衝液を調製する。次の中でpH 6.80 の緩衝液を調製するのに最もふさわしい酸HAのKaはどれか。ただし, HAとA−の濃度([HA]と[A−])を足した濃度は同じとする。また, HAとA−は水に溶解するものとする。
  a. 2.1×10^(-2) b. 3.6×10^(-3) c. 1.8×10^(-4) d. 3.1×10^(-7) e. 1.0×10^(−10)   f. 1.4×10^(−11)

東邦大(医)2020 改題

<解答>
(1) $${K_a=\rm{\frac{[H^{+}][A^{-}]}{[HA]}}}$$…①, すなわち[\rm{A^{-}}]=\rm{\frac{[HA]}{[H^{+}]}}K_a}$$を$${\alpha_{HA}=\rm{\frac{[HA]}{[HA]+[A^{-}]}}}$$…②に代入すると,$${\alpha_{HA}=\frac{[\rm{H^{+}}]}{[\rm{H^{+}}]+K_a}}$$
(2) 上式に, $${[\rm{H^{+}}]=10^{-6.4}}$$, $${K_a=10^{-7}}$$を代入すると, $${\alpha_{HA}=\frac{10^{-6.4}}{10^{-6.4}+10^{-7}}=\frac{10^{0.6}}{10^{0.6}+1}=\frac{4}{4+1}=0.80}$$を得る。ただし, ここで, $${0.6=2×0.30=2\rm{log_{10}{2}}=\rm{log_{10}{4}}}$$より, $${10^{0.6}=10^{\rm{log_{10}{4}}}=4}$$を利用している。
(3) ①に$${\rm{[A^{−}]=[HA]}}$$を代入すると$${K_a=\rm{[H^{+}]}}$$になる。選択肢の中だと近いのはdくらいしかない(他は桁が全然違う)。

ところで, $${{\rm log}_{10}{2}=0.30, {\rm log}_{10}{3}=0.48}$$さえ分かっていればそこまで厳密ではない計算では割と事足ります。
 $${{\rm log}_{10}{4}={\rm log}_{10}{2^{2}}={\rm 2log}_{10}{2}=0.60}$$, 
$${{\rm log}_{10}{5}={\rm log}_{10}{\frac{10}{2}}={\rm log}_{10}{10}-{\rm log}_{10}{2}=0.70}$$, 
$${{\rm log}_{10}{6}={\rm log}_{10}{2 \times 3}={\rm log}_{10}{2}+{\rm log}_{10}{3}=0.78}$$,
$${{\rm log}_{10}{7}={\rm log}_{10}{\sqrt{49}}≒{\rm log}_{10}{\sqrt{50}}={\rm log}_{10}{({\frac{10^2}{2}})^{\frac{1}{2}}}=\frac{1}{2}({\rm log}_{10}{10^2}-{\rm log}_{10}{2})=\frac{1}{2}(2-0.30)=0.85}$$あるいは$${\sqrt{2}=1.414≒1.4}$$を利用すると, $${{\rm log}_{10}{7}≒{\rm log}_{10}{\frac{10\sqrt{2}}{2}}={\rm log}_{10}{\frac{10}{2^{\frac{1}{2}}}}=1-\frac{1}{2}\times0.30=0.85}$$, 
$${{\rm log}_{10}{8}={\rm log}_{10}{2^{3}}={\rm 3log}_{10}{2}=0.90}$$,
$${{\rm log}_{10}{9}={\rm log}_{10}{3^{2}}={\rm 2log}_{10}{3}=0.96}$$となります。

対数グラフの利用

吸光度測定

直近(2023年)の共通テスト化学の吸光度の問題は対数のグラフを意識します。

グラフを使うとき, 普通のグラフ, 片対数グラフ, 両対数グラフというのがあります。
以下のサイトに詳しく載っているのでご参照ください。

(方眼紙だけでも拒否感があるのに)対数グラフのための方眼紙を載せるのは気がひけるので, 形式的には初めからTそのものではなくlogTの値を表に載せています。

反応速度論

上の記事の「微分方程式と反応速度」1次反応について, どうなるか見てみましょう。
~~~
$${-\frac{d[A]}{dt}=k[A]}$$ と表される。この微分方程式を解く。 $${\int \frac{d[A]}{[A]}=\int (-k)dt}$$より, $${\log_{e}{[A]}=-kt+C}$$(Cは積分定数)を得る。初期条件よりt=0のとき$${[A]=[A]_0}$$であるから, $${C=\log_{e}{[A]_0}}$$である。よって, $${\log_{e}{[A]}=-kt+\log_{e}{[A]_0}}$$となる。$${t=\frac{\log_{e}{[A]_{0}}-\log_{e}{[A]}}{k}}$$が得られ, t=τ,$${[A]=\frac{[A]_0}{2}}$$を代入すると,1次反応の半減期は, $${\tau=\frac{\log_{e}{[A]_{0}}-\log_{e}{\frac{[A]_0}{2}}}{k}=\frac{\log_{e}{2}}{k}}$$で表される。つまり,1次反応の半減期は,(式に$${[A]_0}$$が入っていないので)反応物の初濃度に依存しない。

1次反応の半減期については比較的ポピュラーな話だと思いますが, log計算が必要になっています。

錯イオン生成

今年2023年の東大の問題が興味深いです。大問2のキです。錯イオンとしては高校化学では[Al(OH)4]-が有名ですが, Alは6配位でOH-の他にH2Oも配位しています。

横軸・縦軸に注目すると, 両対数グラフになっています(細かい目盛りを書いていませんし, [H+]ではpH自体logを使っていますのでそのようには見えませんが)。
それぞれの錯イオンにおいて直線の式になっていますが, この直線の式を導いてみましょう。

錯平衡定数に関しては以下の通りです(なお, 以下底を10とし, −logKをpKと表し, H2Oをいちいち書くのは面倒なので割愛しています。配位数は6なので残りの分だけ水が配位):
$${\rm{Al}^{3+} }$$+ $${\rm{H_{2}O}}$$ $${\rightleftharpoons}$$ $${\rm{[Al(OH)]^{2+}}}$$ + $${\rm{H^{+}}}$$: pK = 4.97  …①
$${\rm{Al}^{3+} }$$+ $${\rm{2H_{2}O}}$$ $${\rightleftharpoons}$$ $${\rm{[Al(OH)_{2}]^{+}}}$$ + $${\rm{2H^{+}}}$$: pK = 9.3  …②
$${\rm{Al}^{3+} }$$+ $${\rm{3H_{2}O}}$$ $${\rightleftharpoons}$$ $${\rm{Al(OH)_{3}}}$$ + $${\rm{3H^{+}}}$$: pK = 15.0  …③
$${\rm{Al}^{3+} }$$+ $${\rm{4H_{2}O}}$$ $${\rightleftharpoons}$$ $${\rm{[Al(OH)_{4}]^{-}}}$$ + $${\rm{4H^{+}}}$$: pK = 23.0 …④
$${\rm{Al}^{3+} }$$+ $${\rm{3H_{2}O}}$$ $${\rightleftharpoons}$$ $${\rm{Al(OH)_{3}(沈殿)}}$$ + $${\rm{3H^{+}}}$$: pK = 10.8 …⑤

⑤より, $${\rm{log[Al^{3+}]}}$$ = -3pH+10.8  …(a)となる(水溶液中のH2Oと沈殿の部分は平衡定数に含めないことに注意)
(a)および①より, $${\rm{log[Al(OH)]^{2+}}}$$= (-3pH+10.8)−4.97+pH =–2pH+5.83 …(b)
同様にして, (a)と②, ③, ④より$${\rm{log[Al(OH)_{2}]^{+}}}$$= (-3pH+10.8)−9.3+2pH =–pH+1.5…(c), $${\rm{log[Al(OH)_{3}]}}$$= (-3pH+10.8)−15+3pH =-4.2…(d),  $${\rm{log[Al(OH)_{4}]^{-}}}$$= (-3pH+10.8)−23+4pH =pH−12.2…(e)

このようにして, 上図を得ることができます。横軸をpH, 縦軸をlog濃度とすると, (a)〜(c)は傾き負の直線, (d)はpHに依存しない横一直線, (e)は傾き正の直線だとわかります。 

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