生物学を高校化学で理解する〜核酸
核酸の単元は新課程ではあまり強調してやらないみたいです。確かに現在の高校化学でやる内容は非常に多く核酸の単元まで充分に消化できないので, 多少扱う内容を間引きすべきであり, それなら核酸は化学ではやらなくて良いかと考えても良いと思います。しかし, 核酸も化学的な視点で面白いことが詰まっています。それを紹介していきます。
「構造」によって「性質・反応」を説明
何かを学ぶとき, まずは構造から入ることが多いです。例えば, 化学であればまずは原子の構造から, 生物であればまずは細胞の中に何の細胞小器官があるかです(両方の科目とも最近は必ずしもそういうわけではなく, 物質の分離(化学)や進化(生物)など構造とは関係なく大切なコンセプトをはじめに学ぶことも増えてきました)。なぜ構造から入っていたかというとタイトルにもあるように「構造」が分かれば性質・反応もわかるようになると信じられてきたからです。
Q. 液体の水が凍って氷になると体積が増えるのはなぜ?
A. 水が固体になる際に分子同士が水素結合を多く形成し分子の配置が規則的な正四面体構造をとり, その構造において水分子同士の間に空隙ができるから(水素結合が突っ張り棒みたいな役目を果たしている)。
この問からも分かるように, 構造を学ぶのはそういった性質・反応を説明できるようになるからです。
(詳しくは以下も参照してください)。
なお理由説明をするうえで、併せて「ティンバーゲンの4つのなぜ」を押さえておくと良いです。
このあとの内容は以下の生物学を前提としています。
生物学の疑問を化学で解決
DNAはなぜ通常は二重らせん構造として存在しているのか?
塩基が水素結合によって特異的に対を作りやすい(AはTと2本の水素結合, GはCと3本の水素結合で結びつく; 塩基の相補性)
→ 遺伝情報の正確な伝達を保証する二重らせん構造では水素結合の他にも, 塩基対の持つ芳香環どうしの相互作用(π-πスタッキング)や電荷-電荷相互作用など他の結合もある
→ 安定性が増すDNAを複製する酵素DNAポリメラーゼは鋳型とプライマーを必要とし, 生体内でDNAが作られるときは既存のDNA鎖を鋳型として二本鎖として合成される
→DNAの複製を可能にする二重らせん構造に溝があるおかげで転写因子が結合することができ, 遺伝情報の読み出しができる → DNAの転写を可能にする
なぜ通常はDNAとして身体内に存在し, RNAはタンパク質合成のための一時的なものに過ぎないのか?
糖の構造を見てみると, DNAは安定な構造をしており, RNAは不安定な構造をしていることがわかるからです。
ちなみに炭素は慣習的に図の一番右の炭素から時計回りに1', 2', 3', 4', 5'と番号をつけて言うことが多いです。2つを見比べると2'位の炭素のところについているものがDNAは-HでRNAでは-OHとなっています(青い四角)。そもそもデオキシリボース(deoxyribose)という名前自体, de(抜ける, 離れる)+oxy(酸素)+ribose(リボース)なのでリボースと比べてOが一個少ないことを表したネーミングです。
見た目としては些細な違いのように思えますが, 実は安定性はかなり違います。
リボースが不安定である大きな原因はリボースの2'の-OHのもつ非共有電子対が若干正に帯電した近くのP原子に結合しようとして, 代わりにリン酸エステル結合(ホスホジエステル結合)が切断されてしまいやすいということです(塩基触媒下で求核攻撃)。
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