ザスパクサツ群馬の「草津節」にまつわる謎と、ある一つの得心
つけ汁は熱々なのに、麺はキリッと冷水で締められたつけ麺。
行列に並ぶ、スラッとしたモデル体型の女性と、うだつの上がらなそうな小太りの男のカップル。
この世の中にはアンバランスな塩梅で成り立っているモノ・ヒトがたくさん存在していて、それが世界の多様性を表してくれているような気がして、非常に尊いなとたまに思ったりするわけです。
さて、淡雪が浅間の山に残る、早春の正田醤油スタジアム群馬。群馬県へのサッカー旅に出かけた僕は初日にアンバランスな塩梅を目にするわけです。
J2リーグでしのぎを削るザスパクサツ群馬のサポーターは、地元に伝わる民謡「草津節」をウォークライよろしく試合前に歌っていました。というか、このご時世なので、スピーカーから流れていました。
オオオオオ〜くさあつううぅぅ〜〜。オオオオオォォォくさつううううぅぅぅ〜〜。
小節がきいた、ゆったりとしたリズムに乗せて、サポーターはクラブへの愛の花を咲かせます。尊い。
しかし、やけに耳に残る民謡の調べは、ややもすると試合前に歌うには不向きに思える超スローテンポになっています。
たとえばサッカーの古今東西、津々浦々には、リヴァプールやFC東京の「You'll Never Walk Alone」だったり、ベガルタ仙台の「カントリー・ロード」だったり、バラード調でスローテンポのウォークライは多々あります。
しかし、これらの歌詞には「一人じゃない」とか「懐かしきわが街」といった、チームを応援するメッセージが込められて、その箇所を歌うことでサポーターたちは盛り上がるんですが……。
ザスパクサツ群馬サポーターの歌う草津節は、「オオオオオ」と「くさつ」の2つで構成されているだけ!
もうちょっとメッセージ込められるのに大胆!!
そして、謎!!
愛着ある民謡っぽいけど、ゆったりスローテンポすぎやしないか!!
試合に勝ったあとも草津節歌うって!!
というわけで前篇にあたる群馬旅の記事では「旅の凡ミスについて書きます」と宣言しましたが、大胆にも前言撤回させてください。
前篇は上記になるんですが、後篇の当記事では「草津節」を巡ってザスパクサツ群馬発祥の地である草津温泉まで足を伸ばしたいと思います。僕の記事を何回か読んでくださっている方はもちろんご承知でしょうが、今回も飲酒してますので、お楽しみに!
あらためて、草津節ってなんぞや
民謡「草津節」とは何か。2日めの旅を始める前に、スマホで歌詞や由来を調べて、予習していくことにしました。
草津節は草津温泉で歌われている湯もみ唄の民謡です。ザスパクサツ群馬の草津節は「オオオオオ」と「くさつ」で構成されてますが、温泉郷の草津節はしっかりとした歌詞があるようです。
超高温となる源泉を冷ますため、六尺板で湯を揉む際に口ずさまれる歌なんですね。キンキンの冷水でも入れれば源泉の温度も下がるじゃねえか、と心のなかで情緒のないツッコミをしてみたのですが。
どうやら湯の効能を薄めないためにしっかり湯もみをして冷まして、温泉郷にある旅館の湯船に届ける様子。浅はかなツッコミをしてしまった僕を、どうか六尺板でぶん殴ってください。
草津よいとこ 一度はおいで
ア ドッコイショ
お湯の中にも コーリャ
花が咲くヨ
チョイナ チョイナ (「草津節」より)
「草津よいとこ一度はおいで」で始まる歌詞には、温泉郷を見下ろす白根山や浅間山といった風光明媚な山々、四季折々の草津の風景などがチョイナチョイナされて、いわゆる観光PRの役割をこの民謡が果たしているようでした。
ザスパクサツ群馬は、草津温泉を発祥の地とするクラブで、発足当初は「ザスパ草津」というクラブ名で活動しています。選手たちは温泉郷の旅館などでアルバイトをしながら練習をしていたそうです。
その後、群馬県全域をホームタウンとするなかで「草津」と「群馬」の要素を両立させるため、「ザスパクサツ群馬」というクラブ名になったことはサッカーフリークの間では有名な話です。
エンブレムは草津町・前口諏訪神社の伝統行事「前口の獅子舞」のモチーフが温泉マークを囲っていて、まさしく草津温泉リスペクトでドッコイショされている非常に趣深い仕様となっております。
上野の山間を抜け、草津温泉郷へ
前日に宿泊した前橋市の山奥にある旅館を出発し、赤城の山を仰ぎ見ながら、草津温泉へと向かいます。
春はうれしや 降る淡雪に
ア ドッコイショ
浮いた姿が コーリャ
目に残るヨ (「草津節」より)
ここ群馬の地を訪れたのは2月末という早春も早春でまだ寒かった時期ですが、山肌や陽光、草木は春の装いとなっており、ふと見る風景が目に残るヨ、チョイナチョイナと草津節を口ずさみながら、バスに揺られながら一路白根山麓の温泉郷へと到達します。
草津温泉のバス停留所を降りると、ザスパクサツのフラッグが商店街に飾られ、この地でクラブの歴史が動き出したんだナと、ザスパクサツ観戦後の今は感慨深く思ってしまうわけです。
もうもうと湯けむりが立つ湯畑はコーリャ見事な有様で、豊富な源泉が湯もみされ、この地の湯船に供給されることを考えると、まさしく心臓部のような迫力がドッコイショされているなと感じるわけです。
湯畑で老若男女が記念撮影をし、温泉で火照った表情をしている人々が行き交うのを見ると、ザスパクサツ群馬のサポーターがなぜ草津節を歌うのかがわかった気がしました。
ここからは、有料公開にさせていただきます。記事の後半は「地酒で酩酊」「本場の草津節」「ザスパクサツと湯治」などのお品書きでお送りします。OWL magazineでは毎月700円で個性あふれる執筆陣による記事を毎日読むことができます! 執筆陣は、OWL magzine代表の中村慎太郎、ノンフィクションライターの宇都宮徹壱さんの他に、日本各地のサポーターやサッカーフリークたちです。全国津々浦々の「サッカー」がわかる記事が盛りだくさんです。ぜひ購読よろしくお願いします!
ゆったりした草津節がもたらすもの
あたたかな硫黄の風に吹かれ、喉を乾かせた僕が一目散に向かったのは、数多くの日本酒を揃えるお蕎麦屋さんです。ここで地酒「草津節」で酔いながら、歌詞をじっくり眺めると、ザスパクサツ群馬と草津温泉のある結びつきが頭をよぎりました。
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サポーターはあくまでも応援者であり、言ってしまえばサッカー界の脇役といえます。しかしながら、スポーツツーリズムという文脈においては、サポー…
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