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22世紀の民主主義と教育の狭間

◆おはようございます。小学校教員のねこぜです。成田悠輔著『22世紀の民主主義』を読みました。ここ数年6年生の担任として、子どもたちに社会科を教える立場として様々なことを考えさせられたのでつらつらと述べていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

1.「大人になったら選挙に行きたいです」と言う子ども

 著書の冒頭の一文でまず衝撃を受けた。「若者が選挙に行って「政治参加」したくらいでは何も変わらない」成田氏はこう断言した上で、どうすれば今の日本の政治状況が変革できるか持論を展開する。

   教育について言うと、学習指導要領が改訂され、歴史の前に政治の働きを学習することになった。そこで僕は、社会科の授業開きで下図のように、世の中のことを自分事として考えていくことを目指そうとした。

社会科の学習スライド資料

 例えば、授業の導入でこんな質問を投げかける。

・税金のある国と、ない国、どちらに住みたいか。
・選挙と家族旅行、どちらを優先するべきか。

 できるだけ平易な、かつ極端な二択にするだけも子どもはうーんと真剣に悩む。税金という言葉も、選挙という制度があることも知ってはいる。聞いたことはある。でもそれが自分たちの実生活にどう役立てられているのか子どもたちは知らない。そこから子どもたち一人ひとりに「問い」が生まれ、学習がスタートする。「税金は何に使われているのか」「そもそも税金は必要なのか」「選挙はいつから行われているのか」「選挙はどのような仕組みなのか」…多様な「問い」から分かったことを共有し、学びが収束していく。学習の終わりには、「18歳になったら選挙に行こうと思います」「税金が私たちの暮らしを支えていることが分かりました」という子どもたちの声が聞かれる。これで良いのだと思っていた。『22世紀の民主主義』を読むまでは。
 いや、正確には、「これでいいのだろうか?」という漠然とした思いはあった。それが「やっぱダメなのか?」に変わった。

「人類最大の発明は複利だ。知っている人は複利で稼ぎ、知らない人は利息を払う」と言ったのはアインシュタインだと言われる。リボ払いの複利のように倍々ゲームでウィルスやフェイクニュースや誹謗中傷が社会を走り抜けるようになった。だが、先進国の人々が受ける義務教育は何十年もほとんど変化していない。結果、人類はどんどん「知らない人」になっている。
『22世紀の民主主義』

2.教え方、学び方だけが変わる教育

 主体的な学び、個別最適な学び、協働的な学び、GIGA…学校現場では、行政の教育改革の意のままに新しいことがなだれ込んでくる。課題解決的な学習とか、ほめて伸ばすとか、UDとか…これらは教え方や学び方、教育環境の変革である。学習内容はと言うと、算数の「速さ」の単元が5年生におりたり、体育で「投げる」運動が導入されたり、小さくはあるものの大きくは変わらない。それに加えて世の中の選挙制度が変わらないのだから、選挙とはこれこれこういうものだと学習する。「この選挙制度、おかしくない?」とはなかなか出てこない。「ネット投票ができたら投票率上がりそうなのにね」今年はこんなことを言う子がいたが、成田氏はさらにその上を行っていた。「得票”率”という何人が投票したかの定量的なことではなく、誰がどのように投票したかの得票”質”を測る」ことに注目していた。この視点だ。

3.教育現場が自ら変わろうとする体質変化を

 これまで、社会のニーズに応じて教育は変わってきた。教育が先に変わって社会が変わることはない。グローバルな人材育成のための外国語教科化、コロナ禍による急速なGIGA推進…教育現場は社会の反応を受けての、ある意味受け身の状態だった。学習指導要領には法的拘束力があるため、特定の内容を扱わない、逸脱するというようなことはできない。しかし、今ある諸制度を当たり前のことだと無意識に刷り込まず、おかしいものはおかしい、良いものは良いと忖度なく考えていけるようにしていきたい。「投票率が上がれば」「若者が投票に行けば」世の中が変わるなんてことはないと指摘されるように、「ああすれば、こうなる」の根本を疑わねばならない。社会とは、もうそこまできているのだ。


◆最後までお読みいただきありがとうございます。今の世の中、とりわけ政治面で希望に胸高鳴っている人はほとんどいないと思います。いたらすみません。我々教師は選挙活動はできません。しかし、選挙制度や政治の仕組、働きについて教えます。投票率が上がれば国はよくなるのか、若者が投票に行けば日本の未来は明るいのか。そうではないことが『22世紀の民主主義』を通して眼前と突き付けられたように思います。本気で日本をよくしようと思うなら、「ああすれば、こうなる」を疑い、もっと深度を掘り下げていかねばならないことを学びました。

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