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悪霊殺しのマリアベル

 余命一ヶ月と診断されてから二十四日。残りの人生あと七日。


 そうやって書いてみても実感なんて全然湧かないから、私はその時のことをシミュレーションしておくことにした。
 まず、一緒にいる家族の手を握ってあげる。そして感謝を伝えてあげるの。今までありがとう。悔いなんてないよって。
 でもママは少しキライだから、できればパパに居てほしい。そうしたら私は妥協せずに済んで、パパも自信がつくだろうから一石二鳥だ。
 それから遺言を残すの。大好きなマリアベルちゃんに。あの子とはいつも一緒で、喜びも悲しみも分かち合った最高の友達。ただ、時折みせる物憂げな顔がいつも心配だったからこの機に何とかしてあげたい。親友の人生最期の言葉には、きっとそれだけの力があるはずだから。
 後は痛みに耐えて一生を終えるだけ。死に際は一度きりの大舞台だから、しくじりたくはないわ。


――だから、夜はいつも怖かったの。


 暗い病室で一人、心臓を握りつぶすような激痛に叩き起こされ、リズは胸を抑えて蹲る。汗が吹き出し喰いしばった歯は今にも折れそうだ。
 当然看護師を呼ぶ事などできない。縮こまるのに必死だ。悲鳴を上げたがか細い呻きになって消えた。視界はぐしゃぐしゃで、聞こえてくるのは自分の荒い息だけ。
(お願い、あと少しだけでいいの、もう最後だから)
 死を悟るとリズは激しい焦燥に駆られた。このまま何も遺せずに独りで死ぬ。美しく積み上げた人生の結末が凡庸なものに終わる。それが堪らなく怖かった。
(お願い誰でもいいの。誰か、誰か一緒に居て!)


 消えゆく意識の中、リズは満月を背に窓際に立つ髑髏の男を見た。
「君は選ばれたんだ」
 そう、聞こえた気がした。



 六年後。町外れの廃屋にて。
「教会の犬が、死ねェー!」
 青い肌の悪漢は自動拳銃を構え、マリアベルを殺しにかかる。
 BLAM! 眉間に一発。先んじたのはマリアベルだ。男は血のアーチを描き仰向けに倒れた。

【続く】

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