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『夏休み!親子ボードゲームジャム2023』を開催しました(2023年8月26日、27日)

今年も様々な人のお力を借りて、夏休み親子ボードゲームジャムを開催することができました。
今年で3回目となりますが、このワークショップの背景にどのような学術的な仮説を持って取り組んでいるかは語ってこなかったと思いましたので、このnoteでは開催報告とともに、その背景を少しお話します。


ゲームジャムとは?

ゲームジャムは、ゲームクリエイターが集まり短時間でゲームを制作するイベントのことです。元々はデジタルゲームにおいて、開発者教育などの目的で実施されており、デジタルゲームが制作されることもありますが、ボードゲームが制作されることも多くなっています。

僕は普段「サイコロ塾」というボードゲームを遊んで学ぶ習い事を主催していますが、「ボードゲームを作る」ことの学びにも注目していて、その実践の場として、2021年からボードゲームジャムを開催しています。
過去の開催の様子はこちらのnoteをご覧ください。

ゲームジャムの教育的効果

先述したように、ゲームジャムではグラフィックやプログラム、サウンドといったデジタルゲームの専門性を持つ参加者を想定しているため、開発者教育や参加者の21世紀型スキルの涵養の可能性が指摘されています。
とはいえ、ゲームジャムの成果として「創造的産物」が報告されることはあっても、参加者に対する教育的効果を詳細に検討した研究はほとんどなされていません。

そこで、実は一昨年からこのゲームジャムの教育的効果について検討する、ということをワークショップの実践に合わせて行ってきたのです。
その内容については、途中経過ではありますが今年の3月に行われた日本デジタルゲーム学会の年次大会にて発表したので、興味がありましたらご覧ください。

ここで発表タイトルにあるように、特に「創造性」に着目しています。どのような「創造性」に着目しているかや、子どもを対象にする背景、測定方法などについてはご関心がありましたらぜひ発表資料をご覧ください。

ゲームジャムの特徴

ゲームジャムにはゲーム開発体験イベントやゲームコンテストなど、通常のゲーム作りのワークショップと異なる特徴があります。

  1. 短時間で完成させる
    通常のゲーム作りとは異なり、ごく短い時間でプロトタイプを作ることを目標としています。今回は約6時間程度でテストプレイができる形まで持っていくことを目指しました。

  2. 事前準備なしに異なる知識・スキル・経験を持ち寄って作る
    「テーマ」は、開催期間中に告知されます。そのため、その分野に関する知識やスキル・経験は参加者間で差異があります。
    あくまで、差異があることを前提にして即興でグループを作り、意思決定・合意形成をしていかねばなりません。

  3. グループワーク
    ゲームジャムは、グループワークでもあります。1人でゲーム作りをするのではなく、他者と意見の交換や調整を行ってチームとしてゲームを作っていくのが特徴です。

告知・募集用のバナー

参加者は、タイムプレッシャーの中で、初対面同士でチームビルディングをし、ロールテイキングをし、最後にはモノを生み出す必要性があり、かなりコミットメントが求められる、ある意味で「過酷」なワークショップです。

ゲームを「作る」という体験の意義

さて、ここからはやや僕の仮説が入ってきます。
なぜ他の何かを「作る」体験ではなく、わざわざゲームを「作る」体験に注目しているかを説明します。
以前「ボードゲームを作ること」で何をなんのために学ぶのかについて、

「日々の現実を自分に引き付けて身の回りのことに関与して、「作って」「変える」ことができるという自信を持つ」ため

「ボードゲームで学ぶ」ことと、「ボードゲームを学ぶ」ことの違い(note)より

であると書きました。これを「創造的自己効力感」(=創造することに対する自信)と呼んでいます。創造的自己効力感自体は、ものづくりなど創造的な活動全般を通して育てることができるのではないかと踏んでいます。
ここでは、さらに一歩進んで、ことさら「ゲーム」を作る対象としていることについて言及したいと思います。

1つ目は、「ゲーム」を作ることは、体験をデザインすることそのものだからです。ルールを通して、人々の体験をデザインします。ルールを作るということは、通常はなんでもない行為に意味を持たせることを意味します。他の対象をデザインするよりも「ゲーム」をデザインすることが、それを体験することに長けています。
また、ゲームを作ることは、プレイヤーの内発的動機付けを促し、創造性を発揮させる環境を構築する活動でもあるため、それを通して創造的思考(=創造性の発揮の仕方)を明示的に教えることができるとも考えられます。

2つ目は、「ゲーム」を作ることは、既存の「構造の理解」を進めやすいからです。構造には、因果や相関、包含、対立など様々あります。ゲームを作るとき、日常にある様々な構造を抽出してルールの中に組み込むことがあります。元となっている構造をより小さな要素に分解して、要素同士の関係を理解することが必要となり、その構造に関する学習が進みます。
ゲームジャムで制作されるのは、プレイすることによって何かの社会問題の解決につながったりするようないわゆる「シリアスゲーム」ではありませんが、社会問題そのものをテーマにしてゲームを「作る」ことを通して、その参加者が「構造の理解」を進め、ゆくゆくはその社会問題の解決につながる可能性もあるのではないかと考えています。
(実は、「構造の理解」からもう一段階、「対象の自分ごと化」みたいなステップがあるかもしれない、などぼんやり考えています)
↑この部分、ちょっと言いたいことが言えているか分からないので、よかったら以下のnoteを読んでみてください。

僕は「ゲーム」を作るという体験そのものに意義を見出し、可能性を見出しているのですが、それを凝縮して体験できる場として「ゲームジャム」がある、というわけです。

今回のゲームジャムの開催報告

前段がずいぶん長くなってしまいましたが、今年も無事に親子ボードゲームジャムを開催することができました。

1日目:いろんなボードゲームをプレイ!

ボードゲームをプレイする様子

1日目はこれまで同様、様々なボードゲームをプレイしてもらいました。1日目の目的は、次の2つです。

  • ボードゲームのメカニクスのインプット

  • 参加者同士の心理的安全性を高めること

1点目は、いわゆる「ボードゲーム」に関してアンラーン(Unlearn)してもらいつつ、新たに知ってもらうことを目的としています。
「すごろく」や「伝統ゲーム」以外のボードゲームにたくさん触れて、色々な構造を持ったゲームがあることを知ってもらいました。ここでどれだけインプットできるかが2日目のアイデア発想に影響を与えます。

2点目は、参加者同士お互いの顔を見て、知り合いになってもらうことです。2日目に即興でのグループを作ってもらうとはいえ、全く知らない人同士をグルーピングするのはあまりに配慮されていなさすぎるかなと考えてのことです(子どもも大人も年齢・性別もさまざまでした)。元々のゲームジャムでは、グルーピングの時に「初めまして」となるのですが、このワークショップでは一段階置くようにしています。
それでも、「1日目に仲良くなった人とグループにすれば、2日目にスムーズに制作に入れたのでは?」というご指摘を受けました。チームビルディングもゲームジャムの一部という考えを伝える機会を作ればよかったと思います。

「創造性」に関するレクチャー

ちなみに、今回も保護者向けに「創造性」に関するレクチャーを実施しました。と、同時に子どもたちを1人1人別の場所に呼んでチャレンジゲームに挑戦してもらったのですが、これについては今後研究が進み次第報告させてもらいます。

チャレンジゲームに取り組んでもらっている様子

2日目:ボードゲームを作る!

2日目は、プロのボードゲームデザイナーの方々に、2家族から構成されるグループに入ってもらい、ボードゲームを作ることにチャレンジしてもらいました。

ここからは写真中心で報告します。
今回は6グループでゲーム制作に取り組みました。
そして、今年のゲームジャムのテーマは「地球温暖化」としました。

ボードゲームジャムの制作テーマ

テーマについては今回かなり悩みました。昨年度まで「新しい家事」というテーマを設定していましたが、実はこのテーマでは「テーマに関するmini-cが起きにくい」という結果がこれまで出ていました。
これを踏まえて、「保護者、子どもともに身近」でありつつ「知識やスキル、経験に個人差がある」かつ、「社会的ジレンマ」があるテーマとして「地球温暖化」をテーマにすることとしました。

社会的ジレンマの説明資料

「地球温暖化」は、様々な切り口から語ることができるテーマであると思います。良し悪しといった価値観が入り乱れており、未だ正解不正解が明確に出ていない、『厄介な問題(wicked problem)』です。

◾️問題の種類は3つ
1.simple problem
→単純な問題 『〇〇のやり方がわからない』
2.complex problem
→複雑な問題 『〇〇を成し遂げるにはどうしたらいいんやろう?』
3.wicked problem
→厄介な問題 『うちの会社はこれからどうしたらいいのやろう?』

『ザ・ファーストペンギンス』より

また、地球温暖化は子どもにとっても日常生活のすぐ近くにあります。
これらのことから、ゲームのテーマに設定することで上に挙げてきたような「構造の理解」や「自分ごと化」が狙えるかなと思い設定した次第です。
といっても、それはあくまで副次的でこのゲームジャムの1番の目的は「創造的自己効力感を育む」ことです。
ともすると、「地球温暖化」というテーマは真面目なゲームを作ることが求められているように思う参加者の方もいるかもしれませんが、上記のような理由のため「シリアス」ゲームを作る必要はなく、「楽しい」ゲームを作ってください、というふうにゲームデザイナーの皆さんにはお伝えしました。

写真で見てみる2日目の様子

さて、いよいよここからは写真で様子をお伝えします!
雰囲気と創作物の様子をご覧ください。

ここまで示した写真は、いずれも話し合いの様子です。ゲームデザイナーを中心に活発に議論が行われました。

そして、ここまでの写真が各グループのほぼほぼ完成段階の写真です。アクションゲームあり、カードゲームあり、さまざまなアウトプットがなされました。
どんなゲームができあがったかについては、今後、施設のHPなどで公開させていただく予定です。
ひとまず、「夏休み親子ボードゲームジャム」の開催報告はここまでとしたいと思います。

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