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物語のタネ その六 『BEST天国 #39』

様々な地獄があるように、実は天国にも様々な種類がある。
現世での行いや悪行により問答無用に地獄行きかが決められてしまうのに対して、天国は自分で選べるのだ。
ここにまた、ある1人の男が死んでやって来た。
名前は、宅見卓朗。享年37歳。
前回は「好きな年齢になれる天国」を訪れた宅見氏。
さて、今回はどんな天国に?

あらすじ

ミヒャエルのオフィスにて新聞を読んでいる宅見氏。
そこへ帰ってきたミヒャエル。

「おはようございます、宅見さん」
「おはようございます。ミヒャエルさん、朝からお出かけだったんですね」「ええ。今日は天国公園のお掃除デーで」
「お掃除。コンシェルジュさん達がされているんですか」
「いつもは専門の方がやってくれるんですけど、月に一度ボランティア活動の日があるんですよ」
「ボランティアで公園掃除!そう言えば、生きている時ありました、私も」「宅見さんもやられていたんですか?」
「そんなに積極的にというわけではなかったですけど。でも、あれはあれで、いいですよね。なんかいいことしたなーって気になって」
「そういうお気持ちになられたんですね。と、なると、あそこいいかも・・・」

いつものごとく真っ白な空間―――
しばらく待っていると現れたのは丸い眼鏡をかけたシルバーグレイヘアの女性。

「あ、ティアナさん、お久しぶりです」
「ミヒャエルさん、お元気?あ、そうだ。あなた、前からこれ欲しがっていたでしょ?」
「え?あ!“ラッシャー木村あやふや自伝“じゃないですか!どこでこれを?」
「知り合いの古本好きに探して貰ったら出てきたのよ」
「うわー、とても嬉しいです。ありがとうございます!」
「いえいえ、お役に立てて嬉しいわ。こちらこそありがとう」

ミヒャエルの手元の本を覗き込む宅見氏。

「これ、そんなに貴重な本なんですか?」
「本人の話があまりにあやふやなんで出版が危ぶまれた上に、出版したけどあまりに売れなくて出版史上最速で絶版決定になった幻の自伝なんですよ、これ。あ、ご紹介遅れましたが、ティアナさん。こちら、私が天国選びをお手伝いさせて頂いている宅見さんです」
「はじめまして、宅見です。ティアナさん、こちらはどんな天国なんですか?」
「はじめまして、宅見さん。ここはですね、“人の役に立ってる“天国です」「人の役立ってる天国!なんかいい人だらけなんでしょうね、きっと」
「いい人、まあ、そう思いますよね」
「え?違うんですか?」
「宅見さん、“情けは人のためならず“って言葉ご存じでしょ?」
「ええ。人に情けをかけることはその人のためにならないって誤解している人が多いですが、本当の意味は、人に情けをかけると巡り巡って自分のためになるって意味ですよね」
「はい。国語辞典的にはそうですね」
「国語辞典的には?」
「情けをかける、人の役に立つ、ということは、その時点でとても幸せな気持ちになれるんですよ。ここは、そんな気持ちに常になりたい、という人の天国。だから、ここの人達には、辞典にあるような、巡り巡ってという意図は無いのよ」
「・・・なるほど」
「だから、ここでは、役に立った方が御礼を言うの。幸せな気持ちになれる機会をくれてありがとうって」
「そうなんですか⁈」
「ええ」
「すごい。ちなみに、その役に立つお相手はどうしているんですか?ティアナさんが見つけて来るんですか?」
「いいえ。みんな、ありがとうのお礼に自分の困っていることを1つ、“助けてバンク“に登録するんです」
「助けてバンク?」
「ええ。人はお互い助け合って生きていくものじゃない」
「確かに、そうですね」
「助け合う上で、一番の基礎になるものはなんだと思う?それは、助けて、が言えること、さらけ出せることなのよ」
「・・・」
「人の役に立ちたいって思っている人は、別にすごい人や完璧な人じゃないし、そうである必要も無いの。ここは実は、自分の弱さをさらけ出せる場。自分の心を解放しながら満足していくサイクルがまわる天国。宅見さんもいかが?」

なるほどという表情をしながら、考え込む宅見氏。
やがて・・・

「あの、すみません。感銘を受け過ぎちゃって、逆に考えがまとまりません・・・」
「あら」
「なので、一度ゆっくりと考えてみていいですか?」
「勿論よ」
「今日受けた感銘、天国選びにも影響するような気がするんです。色々な意味で」
「そう。それは良かった。お役に立てさせて貰えてありがとう」
「いや、こちらこそです!」

そんな宅見氏を見てニッコリするミヒャエル。

さて、次回はどんな天国に?




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