物語のタネ その八『ツッパリハイスクールRR #16』

俺の名前は北田勝。62歳。職業俳優。
コワモテの演技派として主にヤクザ、クライムものの作品に出演している。
今、俺とその役者仲間たちは、一粒で8時間「高校時代の自分の姿」に戻れる薬を使って「現役のツッパリ高校生」になり、文化祭に向けて「お化け屋敷部」に入部。
文化祭初日、俺たちの「目隠しお化け屋敷」は大人気に。

文化祭2日目にして最終日。
楽しい宴は同時に儚い。
その儚さがいいのかもしれないな。

さて、本日も晴天。
予想最高気温24度。

最高だな。

役者にとって「天気運」は大切だ。
単純に言えば「晴れ男・晴れ女」であることが。
天下の大俳優・三船敏郎や役者ではないが大監督・黒澤明までなると、晴れだけではなく、必要に応じて雨はおろか嵐まで呼んだり出来るのだろうが、我々一般?役者であれば、まずは「晴れ運」を求められる。
なんと言っても、晴れの日に雨のシーンは撮れるけど逆は無理だから。
屋内セットでの撮影の日だって同じ。
気分が違うからね、気分が。

因みに、俺、松林、村井は晴れ男。
滝内は、、、残念ながら。
昔、4月下旬のロケで雪を降らしたこともあるからな。
あいつがメインの雨男だったのか、は定かでは無いが。
とにかく、晴れ男3vs雨男疑い1のパワーバランスで文化祭は両日晴天。
何より何より。

本番スタート10分前、「目隠しお化け屋敷」をやっている教室に行く。
既に全員揃っていた。

「おはよう、北田くん」

村内さんが、爽やかな声で挨拶を。
これがあのデスボイスを発している人と同じ女性とはいまだに信じられん。声優志望おそるべし、だ。
内村くんが椅子から立ち上がった。
「では、文化祭2日目、本日もよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
俺たちは声を揃えて応える。
「あ、じゃあ、私受付の準備して来ます」
村内さんが廊下に出ていく。
「よろしくー」
その姿を見送る内村くん、、、そして、村井。

「内村くん、そう言えば、今日はオバワンGPの審査員が来るって」
昨日のLINEのことを思い出したのか松林が聞く。
「そうなんだ」
「それ、オバワンの本部から連絡があったとか」
「いや、オバワンは覆面調査なんだよ。ミシュランとかと同じで」
「じゃあ、それどこからの情報?」
「全国のお化け屋敷部、同好会、マニアのネットワークがあるんだ」
内村くん、なんか誇らしげだ。
しかし、そんなものがあるのか⁈

「でも、覆面だと、どの人がオバワンの審査員かわからないんじゃない?」村井が当然の質問をする。
内村くんの目がキラリンと光った。
「ふっ、何の為のお化け屋敷ネットワークだと?なめないで欲しいね」
前髪をかき上げる、、、マネだな、内村くん。
何故なら君めちゃショートだから。
「どんな審査員なのか、その情報が既に寄せられているんだよ」
「え、そうなの⁈何なの?」
「えーとね。黒縁メガネで花柄のアロハ、頭には赤いバンダナを巻いている、と」
「そんな奴、今時いる?」
村井、当然の反応だ。
「審査員でしょ?そんな目立つ格好するかね?」
松林、至極ごもっともな考えだ。
「もしやトラップ?」
滝内、何となく言いたいことのニュアンスは感じるが、意味がわからんな。
にわかには信じられない俺たち。
LINEの画面を見つめて、自信なさげに首を傾げる内村くん。

キンコーンカンコーン

その時、文化祭2日目スタートのチャイムが鳴った。
「よし、まあ、とにかく本日も頑張りましょ」
俺は皆に声をかけた。
「うん、最終チェックお願いします」
と、内村くん。
血糊、こんにゃく、マジックハンド、それぞれの担当演出小道具のチェック。
OK、準備万端だ。
その時、村内さんが戻って来た。
「ねえ、ねえ、なんか廊下の角からじっとこっちを見ている人がいるのよ」
「何⁈」
村井の目が鋭くなる。
「どんな奴だ⁈」
「えーとね、黒縁メガネで、花柄のアロハ着てるのよ。でね、頭には赤いバンダナ!あり得なくな〜い?」
思わず顔を見合わせる男子たち。
いや〜、それって、さっきの話、本当じゃーん!

「村内さん、村内さん」
何故か小声になる内村くん。
「それって、そそそそそ、それってタタタ多分、オバワンの審査員」
「うそっ⁈審査員、あんなに目立つ格好する⁈」
「で、で、でも、お化け屋敷ネットワークの情報によると」
内村くんに渡されたライン画面を読む村内さん。
「あら、ホントだ」
「で、で、で、でしょ」
すると、村内さん、すっくと立ち上がると、これまた目がキラリン!
「ふ、ついに来たわね、望むところよ。私の七色のデスボイスで縮み上がらせてやるわ」
村内さん、なんかギアが入ったようだ。
「内村くん!ビビるのは向こうの仕事、私たちの仕事はビビらせることよ!」
というと、村内さん、内村くんの両肩を掴んで立ち上がらせると、

バチーン!

思いっきりビンタ!

「気合い入れなさい!」
「はいーっ!!」
一瞬で内村くんがシャキーッとなった。
うーむ、やはり、いいコンビなんだなこの二人。
村井、羨ましそうな目で見てるんじゃないよ。

スッと教室の入り口に移動する村内さん。
そおっと顔の上半分だけど廊下に顔を出すと

「来たわよ」

小声で、しかし鋭く呟いた。
大きく頷く男子たち。

さあ、役者の腕の⁈いや、裏方の腕の見せ所だ!


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