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物語のタネ その伍『宇宙料理人 #1』

物語のタネ帖 シーズン1の最後となります連載第五弾は、『宇宙料理人』。



国際宇宙ステーションに派遣された世界初の料理人と宇宙飛行士達の日常?を描いた物語です。
いつか、誰もが宇宙旅行に気軽に行ける日が来ることを想像しながらお読みください。


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子供の頃、そう、それはもう40年くらい前。
地方都市のそれまた北の外れにあった俺の通っていた小学校は、外人さえも珍しい、そんなエリアにあった。
そのような地域でも裕福なお家はあるもので、そのもう名前も忘れてしまったクライスメイトが、夏休みにアメリカに(アメリカも広いが、アメリカのどこの地域に行ったのかはこれまた忘れてしまったが)に行ったとかで、そのお土産にNASA印?の宇宙食を買ってきた。
そこには小学生の俺でも読めるアルファベットで「ICECREAM」と書かれていた。

マジか。すごいな、アメリカ。

名前も忘れたクラスメイトに貰った(確か一人一つずつ配っていた。
大変だな金持ちは)NASA製?のアイスクリーム、銀色のパッケージに入ったその未来の食べ物を家に持ち帰った俺は、お袋にも一通りの講釈をたれた後、家族の見守る中、そのパッケージを開けた。

ん、落雁?

そこに現れたのは、普通の子供だったら貰って最も嬉しく無いお菓子ランキング上位に入るであろう、落雁、それにそっくりな白いキューブだった。

おや、冷たくないな、、、。
うん、手で持っていて全く冷たくない。
あ、そうか、これ口に入れると冷たくなるんだな!さすがNASA産。

キューブの角を口に入れて舐める俺。

あれ⁈全く冷たくならないぞ、、、。

それは、なんて言って良いだろう、パサパサした生クリーム、既に表現が矛盾しているが、そんなはっきり言って得体の知れない食感。
俺に次にその物体を口にしたおばさん(俺のお袋の妹)は、
「うーん、宇宙飛行士って大変だね」
と何様かわからない同情の言葉を一言呟いて、そっと、その物体をテーブルに置いた。

冷たくないアイスクリーム、、、
俺の心に、科学者の努力とともに、人間の食への執着心、欲望の存在が刻まれたのはその時だったと、思う。
そう、それが俺が料理人となる原体験だったと。。。

そして、今俺は、宇宙服を着てJAXAの仮想無重力状態を作り出す巨大な水槽の中にいる。
料理人の俺がなぜそんなことしているか?

それは、俺が、日本人宇宙料理人第一号となったからだ。

俺がNASAメイド?の宇宙アイスクリームを口にしてから40年。
宇宙食は劇的に進化してきた。
今では、ステーキも生野菜も、白いご飯に味噌汁だって飲める。
日清焼きそばUFOだって食べられる!
ほんと、人間の食への欲求が生み出すパワーは凄まじい。
3年前には宇宙ステーションでピザを焼いていた(これNASAの動画あるよ)。
こうやって発展と進化を遂げてきた宇宙食だけど、その結果行き着いたのは、

料理人が作った出来立ての料理が食べたい

ということで、募集、オーディションが行われて、晴れて俺が選ばれたというわけ。
俺の料理人としての腕前はどうかって?別に悪くはないと思うよ。
ただ、素敵なグルメ雑誌でインタビューとか受けたりしたことは無い。

今回の宇宙料理人のミッションは

飽きさせないこと 

なのだ。
期間にして1年間「飽きさせない食事タイムを提供出来る人」それが選考の最重要基準だったのだ。
また機会があれば話すけど、俺、一応一通り作れるんだよね。
フレンチっぽいのから街の食堂的なものまで。
多分そこが1番のポイントだったんじゃないかな。
宇宙食は、実は結構有名なシェフとかも作っていたり、プロデュースしたりはしているんだ。
有名なところでは、アラン・デュカスとかね。
でもね、宇宙に1年間行くわけにはいかないでしょ、大御所は。
そして、そこまでではなくても専門性の高い料理人はね、今回はダメなのよ。
まあ、そんなこんなでふるいを掛けていったら、俺が残った、ということだと思う。

オーディションを合格してから2年間。
普通の宇宙飛行士と同じような訓練も受ける一方、宇宙ステーション内での料理の仕方、どんな方法が使えるのか?食材は何が持ち込めるのか?これまでどんな食事を食べてきたのか?消化の具合や必要な栄養素のこととか、とにかく色々と学んだ。

そして、そう、ついに明日。
俺は宇宙に向かって飛び立つ。

1年間、毎日の食事を飽きさせない

ただ一点、このミッションを遂行するために。
宇宙料理人として。



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