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物語のタネ その六 『BEST天国 #40』

様々な地獄があるように、実は天国にも様々な種類がある。
現世での行いや悪行により問答無用に地獄行きかが決められてしまうのに対して、天国は自分で選べるのだ。
ここにまた、ある1人の男が死んでやって来た。
名前は、宅見卓朗。享年37歳。
前回は「人の役に立ってる天国」を訪れた宅見氏。
さて、今回はどんな天国に?

あらすじ

ミヒャエルのオフィス―――
宅見氏がじっと目を瞑って座っている。
その様子に気付いたミヒャエル。

「宅見さん、どうしました?なんか深刻な顔してますけど」
ゆっくりを目開ける宅見氏。
ふう〜と一つ大きなため息。

「この前連れて行って頂いた人の役立ってる天国、あれと自分の人生を照らし合わせると、なんともな、という気持ちになってしまいまして」
「なんともな、な気持ちですか」
「折角天国に来たので、ここはやはり清らかなココロで過ごして行くべきかと・・・」
「あー、天使病ですね、宅見さん」
「天使病?」
「ええ、大体誰もが一回はなるんですよ、天国に来ると。症状は違いますけど、ま、五月病みたいなものですね。天国を見てまわっているうちに自分の人生に対する反省の気持ちが湧き上がってしまい、いわゆる清らかな正しい人生を送る“べき“なんじゃないかって思い始めちゃうんですよ」
「まさにそんな感じです、私」
「ちょっと穏やかなところ続いちゃったからかもしれませんね。わかりました。ちょっと気分転換しに行きましょ!」
「ありがとうございます。でも、そんな気分転換などしている場合でしょうか。私、もっと真剣にこれからの天国人生を考えねばならないのでは・・」「はいはいはい。ごちゃごちゃ言わずに行きましょ!」
「でも・・・」
「行きますよー!」

いつものごとく白い空間―――
ミヒャエルの横で、まだじっと考えている宅見氏。
すると、その鼻がひくひく。

「ふん、ふん?ん、ミヒャエルさん、なんかいい匂いがして来てませんか?」
「ええ、しますね」
「これは、肉!焼肉の匂いですね!」
「はい。そろそろ、、、あ、来た!ジョジョさーん」
「ジョジョさん?」

宅見氏の目に映ったのは、まさにジョジョ立ちをしている男性。
その姿勢のままこちらに近寄って来ている。
その手にはちょっと長めの箸。
さらに、その先に・・・肉⁈

「ミヒャエルさん、お久しぶり。まずは、ちょっと食べて食べて!はい、あーん」
「あーん、バクッ。うむ⁈美味い!」
「そう⁈良かった、結構自信作だったのよ、これ」

満面の笑みで美味しさを表すミヒャエルを見て宅見氏。
ゴクリと唾を飲み込む。

「ミヒャエルさん、お、美味しそうですね」
「脂の具合がサイコー!美味しいです。あ、宅見さん、こちらここの天国マネージャーのジョジョさん」
「はじめまして、ジョジョさん。いい匂いですね、ここはやはり焼き肉天国ですか?」
「はじめまして、宅見さん。勿論肉は焼いているんだけど、ここは焼肉天国じゃないの」
「え?じゃ、何天国なんですか?」
「ここはね、“中カルビ“天国
「中カルビ?」
「宅見さん、カルビ好き?」
「まあ、普通に好きです」
「焼肉屋さんのメニューってカルビ、上カルビ、特上カルビってあるでしょ」
「はい」
「なぜ、普通の次がいきなり“上”なんでしょうね?」
「え⁈」
「物事のランク付けする時、上中下とか松竹梅とか3段階にするじゃない。とすると、普通、上、特上ってなんかバランス悪くない?」
「まあ、そう言われれば、そうかもですが・・・」
「普通のカルビと上カルビ、その中間のちょうどいいカルビ、それが中カルビよ」
「その中カルビの定義は何なんですか?」
「分からない」
「分からない?」
「それを追い求めるロマン、それがこの中カルビ天国の醍醐味なのよ。宅見さん、あなたもどう?あ、焼けた。はい、あーん」
「あーん」

焼肉を頬張る宅見氏。
“美味しい!“と目を見開き、ミヒャエルの方を見る。
そんな宅見氏に笑みを返すミヒャエル。

「宅見さん、天国は、“べき“をやるところではなく、“たい“をやるところなんです。そして、“たい“の中身は何だっていいんです。それが天国が天国たる所以です」

肉を飲み込みながら頷く宅見氏。

「ありがとうございます、ミヒャエルさん。なんかスッキリしました」
「良かったです」
「じゃあ、あの1つ“たい“を言っていいですか?」
「あら、どうぞ」
「中カルビ、もう一枚!」

さて、次はどんな天国に?




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