物語のタネ その六 『BEST天国 #41』
中カルビ天国の内見に行った翌日。
朝のミヒャエルのオフィスに宅見氏がやって来る。
「おはようございます、ミヒャエルさん。いやー、昨日は食べましたね」
「食べましたね。まだ、腹パンな感じですよ。だって宅見さん、あと、一枚って言っておいて結局何枚お食べになりました?中カルビ」
「すみません、覚えていないです。だって食べる度に違いますからね。中カルビって一体どの具合のことなんだ?と。あれは、底なし沼ですね」
「本当にそうですね。いくら食べても答えが見つからないですね、きっと」「しかし、食べ過ぎました。ちょっとカロリー消費の為に外、歩いて来ます」
「宅見さん、ウォーキング、お好きなんですか?」
「ええ、そこそこ。食べ過ぎた時はひとつ前の駅で降りて歩いたりしてました」
「お!となると、あそこいいかも・・・」
「どこですか?」
「いいからいいから。まずは、行きましょ行きましょ!」
いつもの如く真っ白な空間―――
「話の流れ的に歩いて移動かと思ったら、いつものように瞬間移動なんですね」
「まま、その辺りは気にせず、効率良くで」
しばらくするとザッザッザッという足音が。
「お待たせしました。お二人さん、今日もビリーは絶景100%よ!」
「ビリーさん、今日もノリノリですね!」
「ミヒャエルちゃん、今日もワタシの周りを絶景がラウンドアンドアラウンドよ。で、今日はどうしたの?内見?」
「はい、こちら、私が今担当させて頂いている宅見さんです。宅見さん、こちら、ビリー・ザ・オネスキーさん」
「ビリーさん、はじめまして宅見です。随分絶景と仰っていましたが、ここはどんな天国なんでしょうか?」
「ここはね、“尾根ぶら“天国よ」
「尾根ぶら?」
「宅見さん、尾根、わかる?」
「あの、山の?」
「そう。自分の足元からずうーっと向こうの山まで続いている道の先に、大きな空と白い雲が両手を広げて待っていてくれるのよ。緑と白と青に包まれて、地上と空の間を歩いていく・・・。尾根、いいでしょ?」
「いいですね。山登り、気持ち良さそうです!」
「あ、違うの」
「違う?」
「登らないから」
「登らない?」
「尾根好きにとって一番の問題は、山は登らないといけない。そして登ったら降りなきゃいけない、ってことよ」
斜め下に視線を落としながらボソリと呟くビリー氏。
「いや、でも、苦労して登った先に景色が開けるのがいいんじゃないんですか?」
ビリー氏、視線を宅見氏に。
目をカッと開く。
「山登り楽しみ派は、そうなんだけど、ここは尾根に集中なの!登りと下りに使う時間と体力があったら、その分尾根を楽しみたい!のよ」
「なるほど・・」
「世界中の尾根という尾根を自由にぶらぶらと、ね」
「あ!だから“尾根ぶら“天国」
「その通り!」
「世界中の尾根をぶらぶらと・・・うわ、なんかすごく気持ち良さそう。開放感と自由度が半端なさそうですね」
「宅見さん、生きている時、人生頑張ったその先に幸せがある、みたいなこと良く言われたでしょ?」
「言われました」
「その一方で、人生は選択と集中だ、みたいなことも」
「はい」
「ここは、天国。頑張らなくていきなり幸せでいいの。自分の幸せを選択して集中よ!宅見さん、あなたもここで尾根ぶらライフをどう?」
うーむ、と考え込む宅見氏。
しばらくして目を開けて、
「天国って、そこまで選択と集中していいんですね」
「そうよ、わがままでいいのよ」
「尾根ぶら、とっても魅力的なんですけど・・・天国選び、もっとぶらぶらしたいなって思ってしまいました」
それを聞き、瞬時にニコリとするビリー氏。
「いいじゃない!そうよ、自分の心にオネスティよ」
「はい!」
清々しい顔になった宅見氏の背中をポンポンと叩くミヒャエル。
「帰り、歩きます?」
「いや、瞬間移動で」
さて、次はどんな天国に?
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