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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#3』

僕の名前は勇利タケル。
血液商社「ブラキュラ商事」の新人吸血鬼社員である。

出社初日ー

バディとなった先輩の尾神さんに連れられて彼の吸血現場に。
そこで彼は役者志望のキャバクラ嬢アケミさんから無事吸血完了。
だが、その血が変な味がするということで、我々は急遽会社に戻り、研究所に。

「この血なんだが、今までに味わったことの無い嫌な味がするんだ」

尾神さんは吸った血をビーカーに吐き出した。

「尾神さんが言うんならタダごとじゃないね」

ビーカーを目の前に掲げ、それを凝視しているのは橘ハールマン。
道すがら尾神さんから聞いた話によると、ハールマンさんは血液医学の専門家にしてブラキュラ商事の研究部門の責任者。
その実力は人間界でも一目置かれていて、人間界のトップクラスの医学者との交流も深いのだそうだ。

「最優先で調べるからちょっと待ってて」

ハールマンさんはビーカーの血を何やら見るからに最新!という感じを醸し出す機械にかけた。

すると・・・

「これは、なんだ?」

「どうした?ハールマン」

「うーん、ウィルスかと思うのだが、こんなウイルス見たことが無い」
「お前が見たことの無いウイルスなんてこの世にあるのか?」
「勿論あると思うが、ただ、私はこれまでに発見されたウイルスは全て一眼でわかるから、これがウイルスだとしたら、全く新しいウイルスであることは確かだ。まさか・・・」
「どうした?」
「そんなことが・・・」

そう言うと、ハールマンさんは黙ってしまい、ジッと考えこんでしまった。

ハールマンさんの考えがまとまるまで、俺も尾神さんもただ待つしかなかった。
沈黙のまま15分ほどが経った。

「会長に話そう」

ポツリとハールマンさんが言った。

「会長に⁈」
「ああ、もし私の想像が正しかったら、これは会長にご判断頂くしかない」
「そんなに大事なのか⁈」
「すみません、会長さんがいらっしゃるんですかこの会社?」

え⁈と言う顔で2人が俺の顔を見た。

「そうか、新人君だと知らないよね。この会社の創設者にして今は会長。人間と最も親密な吸血鬼『ドラキュラ伯爵』だよ」
「ドラキュラ伯爵⁈伝説の方なんじゃないんですか⁈」

ふっと尾神さんは笑うと
「若い奴は歴史を知らないね。勿論実在の吸血鬼だよ。が、あまりに偉大過ぎて今ではほとんど表に出て来ないから知らないのも無理はないか」
「あの方が、人間と吸血鬼の共存共栄の為に、この会社を創られたんだよ。そして尾神さんも私もその創業期からのメンバーなんだ」
「本当にいたんですね、そうだったんだ・・・」

「歴史の授業はそれくらいにして、ハールマン、会長に」
「そうだな」
ハールマンさんはケータイを取り出し電話をかけた。

「もしもし、ハールマンです。会長、ご無沙汰しておりましてすみません。はい、あ、いえ、最近は研究ばかりで美女との出会いは全く、え、会長は?お盛んですね、羨ましい。ルーマニアがやはりいい?東欧は会長の故郷ですものね」
「随分と軽い感じでお話されていますけど、お相手は会長ドラキュラ伯爵ですよね⁈」
「創業時代からのメンバーだからな、俺達」
「ええ、会長、さすがです。で、すみません、緊急にお伝えしたいことがありまして、はい?今から?勿論大丈夫です。すぐに伺います。では」

ハールマンさんは電話を切った。

「今から大丈夫だって」
「よし、行こう」
「あの、会長さんってどこにいらっしゃるんですか?」
「このビルの最上階」

近っ!

俺達3人は会長フロアに繋がる特別エレベーターに乗っている。
今や巨大企業となったブラキュラ商事で会長のドラキュラ伯爵の存在を知っている人はあまり居らず、ましては会える人などはほとんどいないそうだ。

入社初日からまさかの展開だ。

やがてエレベーターが最上階に到着した。
エレベーターの扉が開く。
その先に重厚な木の扉が。
扉を開ける2人について俺もその部屋に足を踏み入れた。

「会長、到着致しました!」
ハールマンさんが声をかける。
ドラキュラ伯爵。
伯爵だからな、俺も本で読んだことしかないからな。
どんなに恐い人なんだろうか?
でも、さっきの電話だと・・・

そんなことを考えていると、部屋の奥のドアがギィーッと開いた。

「お待ちお待ち!お待たせー」

とてもノリの良い声。

姿はまさに、ドラキュラ伯爵だ!

「ハールマン、最近顔出さないから寂しかったよー。あら、尾神じゃない!お前も冷たいねー、最近全然一緒に遊んでくれないじゃない。で、君は?」
「会長、新人の勇利です」
俺は頭をぺこりと下げた。
「新人ちゃん!会社が大きくなって新人に会うなんて久しぶりよ。よろしくねー。若い力がこれからの会社を支えていくからね、うん」

見た目は100%俺が知っているドラキュラ伯爵なのだが、喋り方が、なんともイメージと違うな。
でも、尾神さんもハールマンさんも全く違和感なく楽しそうに話している。さすが創業期からの絆だな。
ひとしきり昔話で盛り上がり、スッと会話が途切れると
「それで、ハールマン。あなたが緊急というのならただ事じゃないってことよね」

伯爵、いや会長が打って変わって静かな声で言った。

「はい、ウイルスらしきものが人間の血液の中から見つかりました」

ウイルスらしきものが映っている写真を会長に手渡すハールマンさん。
その写真をジッと見つめる会長。
その目がカッと開き、更に強く写真を見つめる。
そして目を瞑る。
沈黙が流れる。
会長を見つめる俺達。

すると会長が目を開いた。
そして、

「目覚めたのか、あいつらが」

「会長、それはやはり・・」

「そうだ、ゾンビだ」

ゾンビ⁈




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