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ポーランド男子代表チームのゲームモデルとプレー原則について

面白すぎるぞ。ネーションズ・リーグ。

どのチームも個性的なプレーヤーが揃っていて、その国らしさというものを感じるのではあるが、特にポーランド男子代表チームにはゲームモデルとプレー原則の存在を強く意識させられる。

サッカー界では、チームとしてゲームモデル・プレー原則を設定して戦うというのが当たり前になっていて、ゲームモデルの作り方に関する書籍や雑誌が一般に出回っている。そして、トップチームのゲームモデルが図で表現されていたり、言語化されていたりする。いつかバレーボール界でもゲームモデルやプレー原則について議論がなされることが当たり前になる日がやってくることを祈ってはいるのだが、祈っているだけでは事は進まない。そこで、あることを思いついた。バレーボール・フリークの私の独断と偏見によってポーランド男子代表チームのゲームモデルとプレー原則を勝手に記述してみるという企画である。

ゲームモデルとは

さて、ゲームモデルと聞いてそれとなくイメージはできると思うが、もう少し掘り下げてみよう。ゲームモデルという言葉が最も当たり前に使われているスポーツは先述した通りサッカーである。その歴史は古く約40年前まで遡るそうだ。ゲームモデル発祥の地はポルトガルである。ポルト大学のビトール・フラーデ教授によって提唱されたものである。ゲームモデルは日本語訳すると「試合模型」「試合設計図」となるが、この先の細やかな言葉の定義については人によって微妙にズレが生じているというのが私の印象である。そのため、ここでは私なりの考察を少し。ゲームモデルをもし言い換えるのであれば、私はそれはプレー・システムと言える。バレーボールであれば、コート上に立つ6人のプレーヤーが勝利するために最も効率的かつ効果的にプレーできるようにするためのあらゆる仕組みのことである。

正直これでは、抽象的すぎる。私がとやかくゲームモデルについて長々語るよりもっとよい方法を思いついたので方向性を変えてみたい。以前YOUTUBE動画でバレーボール界のレジェンド、フリオ・ベラスコ氏が至極分かりやすい例えを用いてゲームモデルについて語っているのを思い出したのだ。正直、これほどわかりやすいゲームモデルの説明はないだろうと思う。まずはご一読いただきたい。

インタビュア:世界最高の選手がいたとしてもチームコンセプトを持っていないといけないものでしょうか。

フリオ・ベラスコ:間違いない。

インタビュア:それは絶対欠かせないものですか?

フリオ・ベラスコ:欠かせないという意味ではない。チームが持っているシステム(ゲームモデル)というのは選手によって適応するんだ。もし世界最高の選手を持っているなら、その選手が世界最高のプレーをするためのシステムが必要なんだ。そうゆう問題なんだよ。システムというのは絶対的なルールというような物ではないんだ。システムは試合で発生するノーマルなシチュエーションを解決するものだ。

インタビュア:状況を解決する為にシステムはあるということですか?

フリオ・ベラスコ:想定の範囲内の状況、スタンダードな状況を解決するものだ。もし相手がシステムを壊してきたらそれを解決する個人の能力が必要になる。これは交通ルールと一緒だ。道路交通はシステムのようなものだ。

インタビュア:道路交通はシステムですか?

フリオ・ベラスコ:そうだよ!どこで止まって、いつ止まるか又は止まらないかが決まっている。

インタビュア:そして?

フリオ・ベラスコ:もし交通ルールが無かったらとんでもないことになる。そして、もし自分の目の前の車が突然心臓発作を起こして車が急停車したらそれを避ければ助かるし避けられなければ終わりだ。

インタビュア:素晴らしいです。これ以上ない説明だと思います。つまり想定外の状況ではシステムが解決するのではなく個人の能力で解決しなければいけないということですね。

フリオ・ベラスコ:そうゆうことだよ!例えば守備でシステムがあるのに味方が突然プレッシャーに出たら…

インタビュア:ではあなたはどちらを好みますか?フリオさん本当に素晴らしいです。敬意を示したいと思います。システムが解決する事とタレントが解決するのとどちらを好みますか

フリオ・ベラスコ:誰が?

インタビュア:あなたです。チームのリーダーとして。

フリオ・ベラスコ:自分にとって?両方です。私はシステムで状況を解決できない時に選手に創造性を発揮することを強く求めます。ただチームとして試合でやることをトレーニングします。システムは道路交通と共通する部分があります。それは重要じゃない事に頭を使ってはいけないということです。そうすれば創造性を発揮する為の脳のエネルギーを残すことが出来る

彼のインタビューを参考にして、ゲームモデルを記述してみると以下のようになる。

・ゲームモデルとは、実際のプレーヤーを見て実際に適用されるシステムである
・ゲームモデルとは、コート上の6人のプレーヤーが最高のパフォーマンスを発揮するために必要なシステムである
・ゲームモデルとは、決してルールのようにプレーヤーを縛るものではなく、むしろ自由を与えるものである
・ゲームモデルとは、ゲームの想定内の状況を解決するためのシステムである
・ゲームモデルとは、プレーヤーの創造性を無駄に消費させないためのシステムである
・ゲームモデルが相手に破壊された際、つまり想定外の状況では個の自己解決能力でその問題に対処する必要がある
・ゲームモデルと個の自己解決能力。チームにとってどちらも必要不可欠なものである

プレー原則とは

続いてプレー原則についても考えていこう。プレー原則を一言で表すのであれば、ゲームモデルをさらに具体的に言語化(タスク化)したのものである。ゲームの各々の局面毎にプレー原則(主原則・準原則・準々原則)が設定される。そして、プレーヤーはこのプレー原則をタスク化したトレーニングを行うことで「無意識」にプレー原則に沿ってプレーできるようになるのである。そうして、コート上に立つプレーヤーがプレー原則に沿ったプレーができるようになった矢先には、そのチームのゲームモデルの存在が色濃く表出されるのである。

ポーランド男子代表チームのゲームモデルとプレー原則

ここからはポーランド男子代表チームのゲームモデルとプレー原則について記述してみたい。VNLでの試合を見て私なりに推測・創造したものであることはご了承いただきたい(試作品の試作品くらいで考えていただきたい)。また、ここでの記述については思考錯誤の真っ只中であるが故、様々なご意見もいただくことができれば幸いである。そこにまた新しい学びが生まれるのではないかと思っている。それでは、5つの局面に分けて各局面下でのゲームモデルとプレー原則について記述をしていこう。局面の設定方法についても思考錯誤中であるため、局面をどのように考えていくのがよいのかについても読者からのご意見をいただきたい。

【ゲームモデル】
いかなる状況においても、次の3つを目指してプレーする
・相手ブロッカーに対するアタッカーの数的優位(最低等位)の確保
・相手アタッカーに対するブロッカーの数的優位(最低等位)の確保
・オンアタッカーの最大パフォーマンス発揮

【プレー原則】
サービス局面
●主原則:
相手チームアタッカーの数的優位の破壊
●準原則:
サーバー:アウトサイドヒッターを狙った攻撃的かつコントローラブルなサービス
フロント:バンチ・リードからの準備
フロア:フロント・ディフェンスとの連動準備

デフェンス(レセプション)局面
●主原則:
・アタッカーの数的優位の確保
●準原則:
・レセプション:アタッカー全員のアプローチ空間と時間の確保
・セッター:アタッカーの「間(相手ブロック・ネット・ボールの浮遊)」確保
・アタッカー:最大パフォーマンスを発揮できるアプローチの確保

アタック(レセプション・アタック)局面

●主原則:
・オンアタッカーの最大パフォーマンス発揮
●準原則:
・オンアタッカー:「間(ブロック・ネット・ボール浮遊)」を生かした攻撃
・オフアタッカー:カウンターに対するフロアディフェンスへの切り替え
・セッター&リベロ:カウンターに対するフロアディフェンス

ディフェンス(ブロック&ディグ)局面

●主原則:
・ブロッカーの数的優位(最低等位)の確保/アタッカーの数的優位(最低等位)の確保
●準原則:
・ブロッカー:バンチ・リードからのブロッカーの数的優位(最低等位)以上の確保
・ディガー:ブロックに連動したポジショニングと全アタッカーのアプローチ空間と時間の確保
・セッター:アタッカーの「間(ブロック・ネット・ボール浮遊)」確保
・アタッカー:最大パフォーマンスを発揮できるアプローチの確保

アタック(トランジション・アタック)局面
●主原則:
・オンアタッカーの最大パフォーマンス発揮
●準原則:
・オンアタッカー:「間(ブロック・ネット・ボール浮遊)」を生かした攻撃
・オフアタッカー:カウンターに対するフロアディフェンスへの切り替え
・セッター&リベロ:カウンターに対するフロアディフェンス

ゲームモデルとプレー原則を記述して

ポーランド男子代表チームに明確に言語化されたゲームモデルとプレー原則が存在し、チーム内で共有化されているのかは定かではない。しかし、少なくとも私にはチームとしてゲームモデルとそれに伴いプレー原則に従ってプレーしているように見えた。だからこそ、ゲームモデルとプレー原則を記述しようと思ったわけである。また、今回の記述プロセスを通じて、ゲームモデルとプレー原則がプレーヤーの個性(創造性)を奪いとるようなものではなく、むしろプレーヤーの個性(創造性)を際立たせるために必要なものだということを理解できたように思う。

個性というのはただ自由にやらせておけば、勝手に発揮されるようなものではなく、ある一定の制限があったりするような環境下においても、尚も消し去られることのない『モノ』なのだろうと思う。

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バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。