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トータルオフェンスを実現するためのオフェンスシステムについて考察する【1/8】

「トータルディフェンス」と聞くことは増えたが「トータルオフェンス」と聞くことはない。なぜだろう。

こんな素朴な疑問から本記事の執筆はスタートした。

トータルディフェンスとは、端的に言うならば相手チームのオフェンスに対して、ディフェンスの先鋒であるフロントディフェンスと後衛プレーヤーを主体とするフロアディフェンスが連携して行うディフェンスを指す。

世界、そして日本のトップカテゴリ、特に男子ではこうしたディフェンスシステムが当たり前のように構築され、運用されるようになってきたように感じている。そして、高校カテゴリのトップレベルでも男子についてはトータルディフェンスを実践するチームがかなり増えてきたように思う。

しかし、トータルオフェンスを実践しているチームとはどんなチームなのかと言われると、うまく言語化するのが難しく感じるのが今の私の感覚である。

トータルオフェンスを定義する

では、ここで私が考えるトータルオフェンスとは何かを言語化、定義してみたい。冒頭にも書いた通り、トータルオフェンスという表現が一般的ではないがゆえに、自分自身でやってみるしか仕方がない。

トータルオフェンス:セッター(ポジションとしてのセッターだけを指すのではなく、セットプレーを行うプレーヤーを総じて指す)以外のプレーヤー(リベロを除く)が攻撃する意志を持ってアプローチをしかけ、最終的にボールをヒットするプレーヤーが個人技術と個人戦術を駆使してアタックプレーを行うこと。

まとめると上記の通りであるが、もう少し理解を深めていくために3つに分けて詳しく説明しよう。

1.セッター=ポジション名称ではなくセットするプレーヤー

まず、セッターの定義に注釈として「(ポジションとしてのセッターだけを指すのではなく、セットプレーを行うプレーヤーを総じて指す)」と入れたのは、現代バレーボールにおいてオフェンスがディフェンスに対し優位性を担保するためには、相手ブロッカーに対してアタッカーが数的優位と質的優位を確保することが極めて重要になってくるからである。

"ポジション名称としてのセッター"がセットプレーすることが理想ではあるが、実際ゲームの中では、それ以外のプレーヤーがセットプレーをしなければならない状況は多々ある。そして、こうした状況の発生頻度はレベルが拮抗した相手チームとの対戦では自然と高くなる傾向にある。オフェンスにとっては、こうした不利な状況下においてもディフェンスに対し数的優位と質的優位を確保する努力を尽くすことはとても重要なのだ。

実際、トップレベルでは、ポジション名称としてのセッターが1本目にヒットしたボールを後衛センター位置にいるアウトサイドヒッターがスパイクを打つと見せかけて、前衛の両サイドいずれかにジャンプセットするというトリッキーなプレー(フェイクセット)が最近ではよく見られるようになった。

まさにこのプレーはブロッカーに対する数的優位と質的優位を確保するため、ポジション名称としてのセッター以外のプレーヤーが創り出したクリエイティブなプレーの一例だと言える。

2.セッター以外のプレーヤーは攻撃参加意志を持ち、行動する

次に「セッター(略)以外のプレーヤー(リベロを除く)が攻撃する意志を持ってアプローチをしかけ」について言及していきたい。

トータルオフェンスに関して言えば、大前提として自分以外のプレーヤーの誰かがセットプレーを遂行しようとしている場合、リベロを除くすべてのプレーヤーは常に攻撃の意志を持たなければならない。そして、その意志はアプローチ(助走)として行動化(可視化)される。アタッカーの行うアプローチは相手ブロッカーの意識を奪い、惑わすためにあり、同時に高い地点から攻撃するための時間的猶予を確保し、自身の攻撃力を最大化するためのものでもある。リベロについてはアタッカーのアプローチコースを妨げないように適切かつ迅速なポジションングを心がける必要がある。

また、アタッカーがレセプションやディグをする際も、常に攻撃に参加する意志を持っておくことが肝要である。そこで、まずはできる限り体勢を崩さないディフェンスプレーを志向する必要がある。そして、ヒットするボールには自チームのセッターが余裕をもってセットアップでき、かつ、各アタッカーが十分なアプローチを確保できるだけの時間的猶予を生み出すことができる高さを出すよう、最大限の配慮が必要だ。

1本目のボールを処理するプレーヤー全員が、こうした意志を持って常に行動し、それを実現するだけの技術を身につけることができれば、トータルオフェンスの完成度は格段に高まると言える。

3.ボールヒッターは個人技術と個人戦術を駆使する

最後に「最終的にボールをヒットするプレーヤーが自身の有する個人技術と個人戦術を駆使してアタックプレーを行うこと」について言及しておきたい。

ボールヒッターにはボールが最終的にセットされた以上、そのセットの質がどうあれチームが繋いできたボールをアタックプレーで完遂する責任が与えられる。そして、アタックプレー、つまり”攻撃”である以上は得点を獲得する、もしくは少しでも相手のディフェンスを崩すために最大限の努力が求められる。その際、ボールヒッターがすべきことは相手チームのブロッカーとディガーとの駆け引きを行い、自身が持ち合わせているすべての個人技術と個人戦術を駆使して最善の手を繰り出すことである。

より良い結果を得るためには、各々のアタッカーは個人としての攻撃オプション、つまり個人技術と個人戦術をできるだけ多く身につけておくことが重要なのである。以下、個人技術と個人戦術についての具体例をいくつか示しておく。また、ここでは個人技術と個人戦術は要素還元的に分割して考えることが難しいものであるとの認識である。個人技術と個人戦術は相互作用し合う関係にあり、両者の掛け算によって最終的な個人技能、つまりここでは効果的なアタックプレーが遂行されるかどうかの結果に結びつくのである。

【アタックプレーにおける個人技術と個人戦術の具体例】

コースの打ち分け
セットされたボールと相手ブロッカー、ディガーの状況から総合的に判断し、最適なコースにヒットする

ブロックアウト
セットされたボールと相手ブロッカーの状況から総合的に判断し、相手ブロッカーの腕に「敢えて」ボールをヒットさせ、コート外にボールを弾く

リバウンド(リサイクル)
セットされたボールと相手ブロッカーの状況から判断し「敢えて」ボールをブロッカーの腕にソフトヒットさせ、自コートにソフトボールが返球されるようし、再度自チームにオフェンス局面をもたらす

ティップ/オフスピードショット/プッシュなどの軟攻
相手のディフェンス全体の状況を見て、ティップやオフスピードショット、プッシュなどのいわゆる軟攻をする。スパイクによる強打があるからこそ効果がある

ヒットタイミングの調整
空中浮遊中に、セットされたボールを「敢えて」早いタイミングでヒットしたり、「敢えて」遅くしたりすることによって相手ブロッカーのタイミングをずらす

ドリフトジャンプ
ジャンプ時に「敢えて」左右のいずれかに流れながらジャンプすることによって、相手ブロッカーと自身のヒットポイントを相対的にずらす

ブロードジャンプ
ジャンプする際に「敢えて」前方に流れながらジャンプすることによって、ヒットするボールにより強い衝撃をあたえる

いくつかの具体例を上げてみたが、こうして改めて思うのはやはり個のオフェンス技能を高めることの重要性である。

上記で挙げたような個人技術や個人戦術を各プレーヤーが身につけることで個のオフェンス技能を最大化することは、究極のトータルオフェンスを完成させるための最後のピースとなり得るのかもしれない。

トータルオフェンスを実現するためのオフェンスシステムについて考察する【2/8】に続きます。

バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。