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発達段階に適した育成グルーピングの重要性#5

「バレーボーラーの一貫育成メソッド」 制作の第5回です。

発達段階に適した育成カテゴリーのグルーピングを考える上で『暦年齢』と『生物学的年齢』という二つの概念を念頭に入れておくことが重要だということはご理解いただけたかと思います。

では、本章ではこれらの概念のメリット・デメリットについて考えていきたいと思います。

暦年齢によるグルーピングのメリット&デメリット

では、まずは暦年齢によるグルーピングのメリットについて考えていきたいと思います。日本のバレーボール界における育成カテゴリーのグルーピングは、ほとんどが暦年齢によるものだと言えます。単一国家であるということ(人種による発達段階のギャップというものがない)や、スポーツ活動が学校教育の中で行われてきたという経緯などもあり、暦年齢によるグルーピングが支配的だと言えるでしょう。では、このグルーピングによるメリットは何でしょうか。考えてきたいと思います。

メリット:基準の明確さ

まず、挙げられるのがグルーピング基準の明確さだと言えるでしょう。プレーヤーの生年月日さえ分かれば、容易にそして、明確にグルーピングを行うことができます。それゆえ、公式試合などでのカテゴリー分けは基準の明確さゆえに暦年齢によるものがほとんどというのが現状です。日本人が平等性を好む傾向にあるというところとも相性が良いと言えるのかもしれません。また、誰がグルーピングを行なっても必ず同じ結果になるという点も、年間通じてかなり多くの試合を行う育成カテゴリーの日本においてはメリットと言えるかもしれません。

では、このグルーピングによるデメリットはあるのでしょうか。考えてきましょう。

デメリット:勝利至上主義の助長

先に述べた通り、グルーピングの基準が明確であり、ある種の平等性が担保された状態であるがゆえに、カテゴリー毎におけるチャンピオンシップで勝利するということがコーチ、保護者、そしてプレーヤーにとっての一種のステータスとなり、試合で勝利することが至上命題となりかねないという面は否定できないと思います。さらに春高バレーを代表とするチャンピオンシップでの試合結果がプレーヤーの進路にも大きく影響するというという点も見逃せません。
こうした背景があるため、コーチや保護者といったプレーヤーの長期的成長を見守り支えるべきアントラージュが「長期的な成長」よりも「目の前にある勝利」を優先する意識が強く働いてしまうといったことが起こっていると言えるのかもしれません。

生物学的年齢によるグルーピングのメリット&デメリット

では、次に生物学的年齢によるグルーピングのメリットについて考えていきたいと思います。

メリット:各プレーヤーへの最適環境の提供

生物学的年齢によるグルーピングの最大のメリットはプレーヤーの身体の発達段階に合わせた育成環境を提供することができるという点だと言えます。例えば、身体的な発達が非常に進んでいる小学6年生のプレーヤーがいたとしましょう。生物学的年齢を考慮したグルーピングが可能であれば、中学生カテゴリーのチームに参加してもらうことによって、高いモチベーションを持ってさらなる技術向上を目指せる環境を提供できるかもしれません。また、逆のケースとして中学1年生のプレーヤーで、身体的発達が遅れているようなプレーヤーがいたとしましょう。彼が納得した上で、小学生カテゴリーの中でプレー経験を積むことができれば、彼の成長にとってはより良い環境になり得ることも十分にあり得るでしょう。

このようにプレーヤーの成長に「最適」な環境を提供できることは、短期的にみても長期的にみてもプレーヤーにとってプラスとなるのではないでしょうか。

では、このグルーピングによるデメリットは何でしょうか。考えていきましょう。

デメリット:グルーピング判断の難しさ

厳密に生物学的年齢によるグルーピングを実施しようとすると実際の現場では難しいことも起こる可能性が高いと言えます。先述した通り、生物学的年齢を医学的に調べることはできますが、すべてのプレーヤーの生物学的年齢を医学的にチェックして運用するということは現場レベルでは現実的ではないかもしれません。

また、身体的な発達だけを見ると上位カテゴリーの環境が適切と思われる場合も競技経験の観点も考慮した場合、上位カテゴリーでの環境がベストではないというケースも多分に出てくると想像できます。このように、グルーピング判断には様々な要素が絡んでくるために本当に最適なグルーピングが何かを探り当てるのは非常に難しい作業であるとも言えるでしょう。

『暦年齢』と『生物学的年齢』の最適融合とは

本章では『暦年齢』と『生物学的年齢』のメリットとデメリットについて書いてきましたが、それぞれのメリットを活かしつつ、デメリットを消していくようは方法はないのでしょうか。次章では、具体的かつ現実的な方法論について考えていきたいと思います。

発達段階に適した育成グルーピングの重要性#6 へ続きます。

▶︎雑賀雄太のプロフィール

バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。