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エコロジカル・アプローチ@バレーボール実践例 ①アンダーハンドパスの感覚をつかむ

先日、2023年10月14日に某中学男子チームに行き、そこで「制約主導アプローチ」を試してみてなかなかの手ごたえだったので、「エコロジカル・アプローチ@バレーボール実践例」として紹介したいと思います。

「エコロジカル・アプローチ@バレーボール」シリーズではその考え方について説明してきましたが、SSG(スモールサイドゲーム)など具
体的な練習方法を共有していくことも重要ですね
。ただし、「こんなやり方をすればいい」にはならないように、「なぜそのやり方を選んだのか」という考察を大事にしていきたいと思います。

アンダーハンドパスの感覚をつかむための制約主導アプローチ

対象者:中学生男子1、2年生 7名(うち2名は初心者)
サイズ:バレーボールコート一面
ネット:中学生男子正規の高さ(2m30㎝)
人数:3対3(外に1人)、ミスしたら外の人と交代
その他の環境:3校の練習試合(1セットマッチ)で、抜ける順番の時に隣の空いたコートで
制約アンダーハンドのみで、2タッチで返す → 3タッチ、スパイクで返す
ねらい:アンダーハンドパスにおいて「両腕でヒット面を作り、その面の方向・動き・安定性を認識し、様々な方向にボールコントロールができる」ようになる

ねらい:なぜこのやり方を選んだのか

対象者の実態

部員が少なく、故障や地域の活動のために数名が不在で、5名のみの参加であり、そのうちの2名が中学から始めた初心者の1年生でした。3校で練習試合をするために、最初から他校の2名を借りて、ゲームだけでなくゲームが空いたときの練習にもすべて参加してもらいました。

初心者2名はアンダーパスがおぼつかなく、特に1名は「ボールをヒットする腕の形」も「手から肘までのどこでヒットするか」もバラバラで、体の横にボールが来たときは何をやっているか良く分からない状態だったので、「ボールをクリーンヒットしてコントロールする感覚」をつかんでもらいたいと思いました。

「ボールをクリーンヒットしてコントロールする感覚」をつかむには

日本のバレーボールの教科書「コーチングバレーボール」では、レセプション(アンダーハンドパス)の「動作原理」について次のように書かれています。

正確にボールをヒットするために、腕でできる限り安定した平面を作る必要がある。

「コーチングバレーボール基礎編」(公財)日本バレーボール協会編(p.134).大修館書店

相手コートから飛んでくるボールを味方にパスするとき、ほとんどの場合に方向転換をともなう。方向転換するには、膝の外側でとらえた方がやりやすいという面もあるが、その場合も「ヒット面の向き」「ヒット面が動く方向」「ボールを飛ばす方向」が一致していなければならない。

「コーチングバレーボール基礎編」(公財)日本バレーボール協会編(p.135).大修館書店

つまり、自分の「ヒット面の向き」「ヒット面が動く方向」「ボールを飛ばす方向」を認識できるようにしたいわけですが、そのために必要な環境として
・方向転換が必ずある
・腕をしっかり動かしてボールを飛ばさなければならない

ということを考えました。様々な方向転換があり、しっかり腕を動かすことが、これらの方向を認識し思い通りの方向にボールを飛ばせることに役立つだろうというねらいです。

オールコートを3人で守るので、3人が横に並ぶことになります。そして、ネットを挟んで2タッチで返すということになると、ボールが飛んできた方向とは違う方向にボールを飛ばすという「方向転換」が必要になります。また、相手コートの奥を狙ってボールをしっかり飛ばそうとするし、あえて前の方を狙うために飛ばす力を加減するということを「自分の意図を持って」やることになります。

フォームやパスのやり方については、一切指導しませんでした。

結果と考察

初心者2名のアンダーパスは、ボールをヒットする腕の面もヒットする位置も安定し、体の横にボールが来たボールも上手くヒットしてコントロールできるようになっていました。人数が7人だったことで、1人がコート外で待ち、両チームのミスした人と代わることになり、結果としてチームやポジションがシャッフルされたことも良かったと思います。

これまで私は、よく「必ず方向転換のあるアンダーハンドパスのスキルドリル」として「三角パス」をやっていました。3人が正三角形の位置に配置し、1方向にパスを回すというもので、意識するところを絞って自分のやっていることを認識しやすくすることができ、難易度の調節がしやすいというメリットがありますが、逆に難易度(変動性)を意図的に上手く調節することが求められます。それに対して今回の方法は、飛んでくるボールに変化が大きく、ボールを出すターゲットも選択の幅がとても大きいという特徴があります。ゲーム性が高いので、遊べてさえいればいいと思います。精度が求められず「自分がねらいたい的」を目指せば良いということも重要なメリットと考えられます。三角パスでは変動性を上手く調節するためにかなり頻繁に声掛けをしていましたが、この制約主導アプローチでは「やり方」について声掛けをほとんどしなくて済みました。

今回の方法では、プレイヤーの意識が「相手や味方の状態とボールの動き」という「自分の外」に向かいやすいということも重要です。植田氏は著書の中で、制約主導アプローチのプリンシプルの一つとして「注意のフォーカス」を上げていて、意識が身体の外部に向けられことの重要性を述べていますが、これについては別の記事にしたいと思います。

午前中はローテーションごとのレセプションフォーメーションの確認がチームの主な課題であり、初心者の2人ともボールに触る機会が少なかったとは言え、午前午後と常にコートに立っていたので、午後に行ったこの練習のみで変わったわけではありません。また、この練習がちゃんと練習になっていたのも、回りのプレイヤーが上手くつないでくれる状況だったことが大きく、この練習をやればいいというわけではないと思います。

設定した環境で、やってほしい試行錯誤が有効に高頻度で起きているか観察し、制約(ルール)を調節していくことが重要ですが、今回は上手くいったと思います。プレイヤーが飽きる前に、3タッチにしてバックアタックで返すようにしたり、オーバーパスもありにして普通のバックアタックゲームにしたりして、1セット分の空き時間を動き回ってもらえました。

「制約主導アプローチ」の工夫は、プレイヤーの状況を見て、つかんでもらいたい要素から環境設定を考えるというライブ感覚が重要だと考えているので、なかなか実践例を紹介する機会がないと思いますが、何かあれば続けてアップしていきたいと思います。

「実践例」シリーズ、次回は エコロジカル・アプローチ@バレーボール実践例②セッター練習1 

▶︎布村忠弘のプロフィール

バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。