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トータルオフェンスを実現するためのオフェンスシステムについて考察する【7/8】

トータルオフェンスを実現するためのオフェンスシステムについて考察する【6  /8】からの続きです。

トータルオフェンスシステムを構築するための視点

7.インシステムとアウトオブシステムの境界線設定

最後に、インシステムとアウトオブシステムの境界線設定という視点について書いていきたい。

まずは、インシステムとアウトオブシステムに関して、本記事における定義を確認しておきたい。次の通りである。

インシステム: 
当初チームとして予定していたオフェンスシステムを機能させることができる状態

アウトオブシステム:
当初チームとして予定していたオフェンスシステムを機能させることができない状態

もう少し具体的にこれらの状態についてイメージしてもらえるように例を挙げてみよう。

インシステムの一例:
アタッカーが計4名それぞれ決められたスロットとテンポによって攻撃参加する予定であり、4名全員のアタッカーが当初の予定通り、攻撃に参加することができた。

アウトオブシステムの一例:
アタッカーが計4名それぞれ決められたスロットとテンポによって攻撃参加する予定であったが、1球目の返球が乱れてしまい、ミドルブロッカーが当初の予定通り、攻撃に参加することができなかった。

具体例を見てもらうことで、各システムの定義をよりリアルに掴んでもらえたのではないだろうか。

そして、ここで重要となってくるのがチームとしてインシステムとアウトオブシステムの境界線がどこに引かれるかという問題である。無論、チームとしてのオフェンスシステムを機能させるためには、できる限りインシステムでチームオフェンスを遂行できることが望ましい。

セッターのセットスキルやアタッカーのアタックスキルにもよるだろうが、インシステムとアウトオブシステムの境界線がどこに引かれるのかに最も大きな影響を与えるのは間違いなく1本目の返球、つまりパス(レセプション&ディグ)の質である。

では、どの程度までどのような質が担保されたパスであればインシステムでチームオフェンスを機能させることができるだろう。ここからはパスの質という視点から考えを深めてみよう。

まず一般的にパスの質を評価する際に使われるのが、Aパス・Bパス・Cパスといった評価法である。そして多くの場合、日本では下記のような認識で判別されていると思われる。

赤色部分がAパス、濃い青色部分がBパス、そして薄い青色部分がCパスといった具合である。この評価コンセプトは、いわばセッターの定位置からセッターの移動距離が長くなればなるほど、パスの評価(質)は下がるという考え方である。

また、必ずしもこの評価方法が世界共通であるというわけではないことも知っていただきたい。下記の図をご覧いただきたい。

先に示したパス評価とは一線を画すものだと見た瞬間に分かっていただけるだろう。要は0スロットにボールが入れば基本的にOKといったシンプルなコンセプトの評価法だと言える。もう少しくだけた言い方をすると、セッターの頭上ぴったりに返球されても、アタックライン付近にボールが返球されても、基本的に0スロットに返球されていれば良いということだ。

このように、1本目の返球されるボールの質を評価する方法は大きく2つ存在していると言えるだろう(他にあればぜひとも教えていただきたい)。

しかし、これらの両者の評価コンセプトには決定的な欠陥があると言わざるを得ないことをここで告白しなければならない。なぜなら、いずれの評価方法も返球されるボールの質を「位置」という視点のみでしか捉えていないからである。

バレーボールは、チーム内での3回ヒット以内(連続ヒット不可)でボールを落とさず相手コートにボールを返球するという非常に厳しい制約が課されるスポーツである。それゆえ最初の1本目のヒット、つまりディフェンス(レセプション・ディグ)において、それに続くオフェンスへのトランジション準備をするための時間的余裕を生み出すということが極めて重要になってくるのだ。

何が言いたいかというと、1本目の返球されるボールの質を評価する際には、「位置」という視点のみならず、それぞれのアタッカーが十分なオフェンス準備ができるだけの時間的余裕、すなわちボールの「高さ」という視点が必要になるということだ。

少し長くなってしまったがまとめると、インシステムとアウトオブシステムの境界線の設定に大きな影響を与えるのは1本目の返球、つまりレセプションやディグの質であり、その質というものは主に返球されるボールの「位置」と「高さ」の2軸によって評価されるべきであるということである。

そして、その評価基準は各チームのゲームモデル、オフェンスのコンセプトによって詳細部分に違いは出るだろうが、ある程度明確に設定することは可能であるはずだ。

ここまでくれば、あとはチームとしてどの程度のレベルで1本目に返球されるボールの質が担保されていれば、インシステムでチームオフェンスを完遂できるかをチームで試行錯誤しながら探っていけばよい。ある程度の試行錯誤が積み重なっていくうちに自ずと、インシステムとアウトオブシステムの境界線がチームの総意として決定してくるだろう。

また、ここでの境界線は不動のものではなく、チームの成長とともに変動する可能性があることにも言及しておきたい。チームとしての成長が順調に進んでいけば、よりトータルオフェンスの遂行率は高まっていくはずである。

トータルオフェンスを実現するためのオフェンスシステムについて考察する【8/8】に続きます。


バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。