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トータルオフェンスを実現するためのオフェンスシステムについて考察する【6/8】

トータルオフェンスを実現するためのオフェンスシステムについて考察する【5  /8】からの続きです。

トータルオフェンスシステムを構築するための視点

5.テンポという概念

テンポの概念について一から詳しく解説を加えていくと、それだけで一つの記事になってしまう。詳細については下記の記事に譲りたい。本記事では不朽の名著であるセリンジャーのパワーバレーボールを参考に簡潔に解説するに留めたいと思う。

テンポとは
セットのタイミングやスピードを示すために用いられる術語。大きくは下記の4つに分類されるのが一般的である。

マイナステンポ
ボール最高到達点はファーストテンポ(下記にて説明)のボールよりも低くなる傾向にある。アタッカーがセットアップよりも先に跳んで、ボールヒットする

ファーストテンポ
一つの目安として、ボール最高到達点は30〜60cmネットの上にある。アタッカーがセットアップとほぼ同時に跳んで、ボールヒットする

セカンドテンポ
一つの目安として、ボール最高到達点は60〜120cmネットの上にある。アタッカーがセットアップされた後に跳んで、ボールヒットする

サードテンポ
一つの目安として、ボール最高到達点は150cm以上ネットの上にある。アタッカーがセットアップされた後(セカンドテンポよりもより遅い)に跳んで、ボールヒットする

テンポに関する解釈・理解は国や地域によってもかなり多様であると言わざるを得ない。また、同じ国内であってもその解釈・理解にはかなり幅があると言わざるをえないのが現状ではないかと私は思っている。

例えば、あるオフェンスの一場面を切り取った動画を見て、ある人はファーストテンポの攻撃であると解釈し、また別の人はマイナステンポの攻撃だと解釈するということも起こり得るかもしれない。

こうした状況に対して、私は広くコンセンサスが得られるテンポの定義が必要であるという立場をとりつつも、最も肝心なことはチームの中でテンポに対する定義がなされ、それがチーム全体で共有されて”言語システムとしてのテンポ”がチーム内で機能していることだと思っている。

また、先の章である『「数的優位」と「質的優位」の確保』の中でも述べている相対的な「早さ」について理解を深めていく上でも、テンポという概念は欠かすことができない重要な視点となることも強調しておきたい。

6.ダイレクトデリバリーとインダイレクトデリバリー

 テンポの概念について触れたところで、次にダイレクトデリバリーとインダイレクトデリバリーという2種類のセット方法についても考えていきたい。

まずは、それぞれのセット方法について簡潔に解説しておく。

ダイレクトデリバリー:
アタッカーのヒットポイントに向かって、直線的な軌道(直接的に)でボールをセットする方法。 セットされるボールは最高到達点に到達する手前でボールヒットされることとなり、アタッカーの打点を最大限活かすことが難しい。

インダイレクトデリバリー:
アタッカーのヒットポイントに向かって、放物線状の軌道(非直接的に)でボールをセットする方法。セットされるボールは最高到達点に到達した後でボールヒットされることになり、アタッカーの打点を最大限活かしやすい。

チームとしてどちらのセット方法を主に採用するかがオフェンスシステム全体に、さらにはゲームモデルにまでも大きな影響を与えることになる。

それではここからは、具体的にそれぞれのセット方法を採用した場合、どのようなメリットとデメリットがあるのか見てみよう。

まず、ダイレクトデリバリーをチームとして採用した場合について考えてみたい。

ダイレクトデリバリーを採用するメリットは、セットからボールヒットまでの時間を短縮することによって、相手ディフェンス(特にブロック)が完成するより先にアタックを遂行できる可能性が高まるという点である。

また、デメリットとしてはセッターとアタッカーとのタイミングを合わせることが難しいという点だ。タイミングがズレれば、アタッカーは適切なヒットポイント、そして高い打点からヒットすることが難しくなり、ボールを相手コートへ返球するだけで精一杯になることもあるだろう。アタッカーの能力を活かし切れないリスクを負うのである。さらには最悪の場合、相手コートに返球することすらできず即失点となることもある。

このように、ダイレクトデリバリーを採用するのであれば、精緻なボールコントロールができるセッターがいることが前提条件となるだろう。ダイレクトデリバリーはインダイレクトデリバリーに比べてリスクの高いセット方法であることを重々承知した上で採用する必要性がある。


次に、インダイレクトデリバリーをチームとして採用した場合についても考えてみたい。基本的にはダイレクトデリバリーのメリットとデメリットを逆転させた形になる。

インダイレクトデリバリーを採用するメリットは、アタッカーの能力を最大限引き出すことが可能になるという点である。アタッカーは十分なアプローチとジャンプをした上で、セットされたボールがその頂上付近で浮遊する時間と最高到達点付近で自身が漂う時間を重ね合わせ、その時間的な「間」の中で自身が併せ持つ技術と戦術を駆使してアタックすることができる。

ダイレクトデリバリーのように「セッターと(アタッカーと)タイミングをぴったり合わせる」ことに意識を向けるよりもアタックの最終目的である「得点をとる」ことに意識を集中することができるのだ。

また、デメリットとしてはダイレクトデリバリーと比較してセットからボールヒットまでの時間は「相対的に」長くなるため、相手ディフェンス(特にブロック)の準備が整ってしまった状態、もしくは準備がほぼ整いつつある状態でアタックしなければならない可能性が高まるという点が挙げられるだろう。


さて、ここまで2つのセット方法のメリットとデメリットを見てきたが、この点においてどちらが正解というものはないのだろう。

結局のところ「ゲームモデルの違い」だと言えるのではないだろうか。チームの文化やプレーヤーの特性(チームのディグ・レセプションの精度は高いのか、セッターの技術レベルは高いのか、アタッカーの状況判断能力や俊敏性は高いのか等々…)、カテゴリーなど様々なことを考慮した上で、いずれのセット方法を採用するかを決める必要があるだろう。

また、ここではそれぞれのセット方法について分かりやすくするために”ダイレクトデリバリーか?インダイレクトデリバリーか?”といった二元論的表現をしているが、実際のゲームではこれら両方のセット方法が特定の局面やプレーヤーの特性等に合わせてミックスして使われることも当然あるということにも言及しておく。

トータルオフェンスを実現するためのオフェンスシステムについて考察する【7/8】に続きます。

バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。