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【小説】 亮介さんとあおいさんとぼくと  23/30

ぼくには夢がなかった。じぶんでじぶんが何をしたいのかがよくわからなかった。世界を変えたいとおもっていたが、世界を知れば知るほど、勉強すればするほど、そんな簡単にいかないことがわかってきた。なので、じぶんの人生をしっかり生きようとおもった。

じぶんの人生を生きるということにしてから、これまでちゃんとじぶんと向き合ったことがないのに気づいた。夢がほしかった。そういうわけで、夢がたくさん詰まってそうな自己啓発本をよく読むようになり、感化されるようになった。

まずやったことは、十年後どうなりたいか、という目標を書いた。その目標を達成するために、五年後、三年後、来年、半年後、三ヶ月後、来月、来週、明日からの目標を書いた。実行してみると、明日や来週の目標くらいは達成できたけど、三週間くらい経ってくると、気分がかわってしまった。

じぶんの夢に飽きてしまうのだ。そんなことを三回くらい繰り返しているうちに、じぶんは夢を実現する力がないと失望したものだった。

あるいは、死ぬまでにしたいことをたくさん挙げて、リストをつくった。ヨーロッパにいきたい。アラビア語を話せるようになりたい。起業をしたい。年収3億ほしい。そして四十歳でビジネスからは引退。不動産収入で悠々自適な生活。などなど、いろいろ並べてみた。

でも、気づいたのは、死というものを直面させてみても、じぶんがどうしてもやりたいことなんてなかった。リストを並べたものを、どうしても叶えたいとも思えなかった。達成できたらいいな、うれしいな、その程度のものだった。

ほかにも、生き急いでいる人たちというか、意識が高い人たちに感化されて、起業家のセミナーにもいったし、発展途上国にもいったし、被災地のボランティアにもいったし、民間企業のインターンにもいった。

どれもいい経験ではあったけれど、ぼくの人生に決定的ななにかを与えることはなかった。そういう人たちとは、生き方の主義が違うのだという結論に達した。


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