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時計の契約:第3章13時

13時:命

じいちゃんは俺を静かに見つめていた。何も語らないけど、俺をすごく思っていてくれているいつもの穏やかで優しい笑顔だった。じいちゃんに、俺はこの世界の人間ではないこと、こっちの俺と入れ替わったことを説明した。じいちゃんは黙ったまんま俺を抱きしめてくれた。この時間がずっと続けばいいと願ってしまいそうだ。
そして俺は、悪魔に一番聞きたかったことをぶつけた。
「あの日なぜ、じいちゃんを喰らったんだ」悪魔はまた首をかしげながら答えた。
 
俺の5歳の誕生日は、家族で誕生日パーティーをしていた。ケーキも食べ終わり、プレゼントを開けていたその時、なぜか時の本がプレゼントに混ざっていた。俺は何も知らずにその本をひらき、なぜか知らないはずの呪文をと唱えたようだ。それは世界線を変えてしまう魔法で、俺が違う世界線へ飛ばされた。その際に悪魔が出てきた。悪魔もなぜ俺が呪文を知っていたのか分からなかったようだ。じいちゃんが本から出てきた悪魔と話して俺を元の世界に戻してもらったんだって。俺の世界線のじいちゃんは体があまり丈夫じゃなくて、じいちゃんは悪魔にこう言ったそうだ「わしの命はもう長くない、わしの命を喰らってあの子を助けてほしい」と。俺が消えたことでじいちゃんの体に負担が一気にかかったんだと思う。悪魔はそれを察して命を喰らったと涙ながらに語った。
 
夢で見た話と、今聞いた話で俺の中のパーツがどんどん繋がっていく。部屋の中には沈黙が広がり、俺は悪魔を受け入れることが出来ずに、どうすればよかったんだという思いで心が揺れ動いた。
 
そんな話を聞いても俺の怒りは収まらないし、全然信じたくなんかない。ただ、あんなに怖いと思っていた悪魔だけど、なんだかじいちゃんの優しくて穏やかな雰囲気が似ているように感じた。奇妙な共通点は不思議な安心感を与え、俺は深くため息を付きこの世界線に来れたことに対する複雑な思いを抱えながら、新たな現実と向き合っていく覚悟を決める。
 
ただ最後に重要なことを伝えられた。世界線が違う俺は針が進むたびに本に命を喰われているということだ。


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