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【選挙徘徊記】2023年 大阪府・東大阪市議選 感想

 9月17日告示、9月24日投開票で東大阪市議会議員選挙が行われた。
 今回は自民党、大阪維新の会(日本維新の会)、共産党が現有議席を上回る候補者を擁立した上に、立憲民主党、れいわ新選組、参政党等も議席獲得を狙って候補を立てた。そして諸派や無所属の現職、新人らも次々と出馬した結果、定数38を57名で争う大激戦となった

 本稿では、私が実際に各候補者の選挙運動を見に行き、その時に抱いた感想を述べる。
 なお57名もの候補者が立候補する選挙であったにもかかわらず、私のスケジュール上の問題からあまり踏み込んだ見物ができなかった。そのため中途半端な感想文となっている点についてはご容赦いただきたい(1) 。

1. 参政党候補が上位当選

 今回私が半ば強引に見物に行った最大の理由は、参政党の公認候補として新人の吉村太貴氏が出馬していたからである。
 チラシによれば、彼は日本の歴史や社会問題に関するセミナーをきっかけに政治家を志したという、いかにも🟠な人物である。そのことは声をかけた通行人を相手に歴史の講釈を必死でしていたことからも納得できるであろう。

 吉村氏の選挙運動で興味深く思ったのは、街頭演説をあまり積極的に行っていなかった点である。陣営関係者によれば彼は演説があまり得意でないため、それよりも有権者との触れ合いをメインに行う戦術を取っているとのことであった。
 確かに彼は事務所が置かれている商店街や、大きな駅の周辺にて積極的に通行人に話しかけ、「参政党って知っていますか?」等と、自らと党のアピールを行っていた。

 吹田市議選の維新候補について拙稿で指摘した通り、街頭にて有権者と直接コミュニケーションを取ることは、選挙において時に絶大な効果を発揮する
多くの買い物客が訪れる商店街を本拠地とできたことも相まって、この戦術が吉村氏を6位当選に導いたのではないだろうか。

 また他の参政党員も活発な活動を繰り広げていた。
 例えばある日の駅前では、吉村氏が有権者に声をかける一方で国政改革委員(衆院選候補予定者)2~3名が入れ代わり立ち代わり応援演説を行い、党の宣伝を行っていた。無論「次期衆院選に向けた顔見せ」といった狙いがあっただろうが、これは演説が苦手だという吉村氏をよくカバーしたであろう。
 また平党員と思しき男女4名が周辺に分散して懸命にチラシを配っている様子も確認でき、参政党が相変わらず組織的な選挙活動を強力に展開していることが良く分かった。これも吉村氏の当選に大いに貢献したことであろう。

 だが残念ながら、選挙で上位当選することは、その候補者の政策が素晴らしいということを必ずしも保証しない
 例えば「⼈⼝減少」は東大阪市の喫緊の課題であるが(2) 、吉村氏が解決策として提示したのは「東大阪の歴史を学校で積極的に教える。そうすれば愛郷心が芽生え市への定着率が上がるだろう」というものである。
 私としてはこの即効性が著しく欠け、また「愛郷心が定着率を上げる」という根拠のない発想を前提とする政策が人口減少の解決につながるとは到底思えず、それどころか「『自分の関心のある分野』と『市の課題』を無理矢理結び付けただけなのではないか」という疑念すら持ってしまった。
 果たして吉村氏が議会で本当にこの不思議な政策を実行しようとするのか、東大阪市民には是非監視をお願いしたい。

 なお参政党の候補者によくあることだが、吉村氏もまた31歳という「若さ」を大きくアピールしていた。
 だが今回は、25歳とまごうことなき最年少である児玉有生氏(無所属新人)が立候補しており、また30代前半の候補も吉村氏以外に2名いた(3) 。それ故、今回はこの「若さアピール」ではあまり大きな効果は見込めなかったのではないだろうか。

2. 「宇宙産業を身近にする党」、その正体とは

 吉村氏についで私が会いたかった候補が、「宇宙産業を身近にする党」新人の浜田智氏である。

 穏やかな中年男性である浜田氏の主な主張は「宇宙産業による地元経済の活性化」。具体的には宇宙産業に携わるベンチャー企業のスタートアップを、市として支援するというものである。
 「何故宇宙産業なのか」という点が疑問ではあるが、彼は①収益性が高い②東大阪にはノウハウを持った仲間がいる③国家プロジェクトであるため民生品よりも国からの支援を得やすい、という3つの理由からこれを説明していた。
 恥ずかしながら私は経済や産業政策に疎く、宇宙産業にこれほどの効果が見込めるかは判断不能であった。だが少なくとも私にはこの政策はある程度筋道が通っているのではないか、と感じられた。
 とはいえ、候補者の政策など断片的にしか調べないであろう大半の有権者からすれば、この政策は突飛なものにしか映らないだろう

 そして浜田氏には無視できない問題がある。それは彼が旧「NHKから国民を守る党」(現「みんなでつくる党」)系列の人物であるということである。
 そもそも彼は2022年の参院選にN国党公認候補として出馬していた(4) 。また今回の市議選でも同党所属の浜田聡(5) 、齊藤健一郎(6)の両参院議員が応援演説を行っている。何よりも彼自身が「宇宙産業を身近にする党」を旧N国党の「諸派党構想」 (7)の一部だと認めているのである。
 旧N国党のこれまでの行いについては周知の通りである。したがってこの党の系列に属することは、浜田氏にとってあまりプラスに働かなかったのではないだろうか。

 以上の通り、浜田氏は「一見奇天烈な政策」「旧N国党の系列候補」という、有権者からの支持を得ずらい要素を兼ねそろえた人物であった。したがって彼が57名中53位という悲惨な結果に終わったことは、全くもって当然のことであろう。

3. 「維新系無所属」の候補者達

 今回の選挙で特徴的だったのは、維新の系列に属する人物が数名、無所属で出馬していた点である。
 例えば前述の児玉氏は2021年に片山大介参院議員の秘書として勤務していた(8) 。また元職の大坪和弥氏は2015年と2019年の市議選に維新公認で出馬していた人物である(9) 。
 私としては、維新が今回多数の候補を擁立した状況から、「これら維新系の無所属候補達は、維新からの公認を得ようとして失敗した者なのではないか」と推測していた。

 そして新人の上山博史氏も維新に関係する候補者である。
 彼は維新の青柳仁士衆院議員の元秘書であるが、「全国的活動をしたい」という理由から無所属で出馬したと言い、チラシでも「政党などのしがらみのない立場」を売りにしていた。
 私は上山氏の話を現地で聞くことができたが、結局彼が維新に公認を申請したことがあるかは確認できなかった。したがって彼が説明通りあえて無所属で出馬したのか、はたまた維新からの公認を得られないまま無所属での出馬を強行したのかは不明のままである。

近鉄東花園駅の周辺で
街頭演説を行う上山氏(筆者撮影)

 とはいえ上山氏は、選挙期間中は公園の再開発等を訴えていたが、演説は終始下を向いてボソボソと話をするスタイルであり、「有権者に話を聴いてもらいたい」という意思が全く感じられなかった。私はその様子を見て、「仮に公認申請を出していたとしても、これで維新の候補になるのは無理だ」と納得できたのである。
 因みに、彼の陣営を見ても何かしらの組織が支援している様子は感じられなかった。したがって上山氏は維新の系列候補にもかかわらず、その実「独立候補(俗に言う「泡沫候補」)」でしかなかったと評価せざるを得ないだろう。

4. その他印象に残った場面

 ここでは、上記以外に印象に残った場面を箇条書きでまとめる。

・14名の維新の候補者とその陣営は様々な選挙運動を展開していた。例えば現職の高橋正子氏は、有権者から求められて気軽にその場で街頭演説を実施したこともあった。また新人の横山幹祐氏の陣営は街頭で「よ~こ~や~ま!」共産党の選挙スタッフのようなシュプレヒコールを上げていた

・自民現職の谷口勝司氏は連日個人演説会を開催した。私も一度参加したが、彼がその場で語ったのは「地元との関わり」「4年間の実績」がメインであり、「今後何をするのか」という点はあまり語られなかった。また地元有力者や宗清皇一衆院議員らも、応援演説では主に「谷口氏が如何に素晴らしい人物か」「如何に地元に貢献してきたか」等を訴えていた。これは有権者が候補者を、政策よりも彼/彼女の人柄や地元活動から評価するという地方選挙の傾向(10)を、分かりやすく示したものであろう。

・無所属現職の中西進泰氏は個人演説会において、谷口氏と対照的に実績だけではなく「政治への基本姿勢」「地域の課題」等を分かりやすく語っており、彼がどのような候補者なのかがよく分かった。

・新人の兼光広基氏は唯一の立憲民主党公認候補であったが、菅直人元首相らが応援に来た(11)にもかかわらず落選した 。実際に会ったところ、彼からは「明るさ」「元気の良さ」が感じられ悪い候補とは思わなかったが、彼のツイート(12)を見たところ落選したことに何となく納得できてしまった

・無所属の樽本丞史氏は現職にしては珍しく、あまりにも奇抜なデザインのポスターを作成していた。彼は市の学校給食配送業務の入札情報を漏らし、見返りに現金を受け取ったとして収賄罪で在宅起訴された人物だが(13) 、それと関係があったのだろうか。

・無所属新人の宮本千恵氏は独立候補のようであったが、「消費者被害を防ぐ法律講座の開催」「子供が運営に関わる世代交流食堂の応援」等、非常に興味深い政策を訴えていた。直接会ってこれらの詳細を聞くことができなかったことが残念でならない。

5. 選挙結果と総括 ~「新興勢力の勝利」~

 今回の選挙において、投票率は前回を0.96ポイント上回る39.87%であった。そしてその結果は以下の通りである。

 維新は現職2名を含む3候補が落選しながらも11議席を獲得し、改選前から3議席伸ばしたことで最大会派の座を公明党から奪った。
 また公明党は現有の10議席の維持に成功。共産党も現職1名の落選と引き換えに5議席を守った。更にれいわ参政党も公認候補が当選し市議会への進出を見事果たした。

 一方自民党は改選前(9議席)を上回る11名の候補を擁立しながら、現職1名を含む3名が落選し、寧ろ改選前から1議席減らすという惨敗となった。
 また立憲民主党国民民主党はそれぞれ1名ずつ立てていた公認/推薦候補すら当選させられず、大阪における旧民主党系が如何に弱体化しているかを証明する結果に終わった。更に旧N国党も系列候補が悲惨な得票と共に落選した。
 諸派・無所属を見ると、現職では中西氏や保守系無所属の野田彰子氏が再選される一方で、新社会党の候補や樽本氏は落選し明暗が分かれた。その他の候補も、維新系無所属を含め皆落選した。

 ここで各政党・候補者の得票を前回の選挙でのそれと比較すると、今回の結果のことがより良く分かる。
 表の通り今回は前回よりも多くの票が投ぜられたにもかかわらず、維新を除く主要な政党・候補者は軒並み得票を減らしている。この数字は今回の選挙がほぼ「維新の一人勝ち」であったことを如実に表しているであろう。
 更にれいわ、参政党も少なくない票を獲得し当選した点も踏まえると、今回の選挙については「新興勢力の勝利、既存勢力の敗北」と結論付けたい(14) 。

 この選挙以降大阪万博をめぐる混乱が露わになり、維新は地方選挙で票が伸び悩む傾向が見られるようになっている(15) 。したがって仮に今市議選が行われた場合、大阪府内とはいえ維新がこれほど圧勝できるかは分からないだろう。
 しかしそれ以上に今回の選挙が示したものは、投票率の増加を全く活かせなかった既存の政党・候補者の惨状である。特に各党におかれては、次期衆院選の有無が取り沙汰される今、今回の選挙を踏まえ、早急に選挙戦略の見直しが必要であろう。


※註

(1) 今回の選挙の詳細なレポートとして、例えば「vistacar0924のブログ」 2023年10月2日「東大阪市議選2023・選挙レポート」
https://ameblo.jp/vistacar0924/entry-12822886915.html

(2) 「東大阪市第3次総合計画」でも、「人口減少」は市の現状として真っ先に取り上げられている。詳細は市のHPを参照。
https://www.city.higashiosaka.lg.jp/cmsfiles/contents/0000028/28226/honpen.pdf

(3) 自民新人の岩木崇氏(34)、及び維新新人の河村明氏(32)。

(4) NHK 「北海道 参議院選挙結果・開票速報 参院選2022」
https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/sangiin/01/

(5) X(旧Twitter) 「北口みひろ」(@mihiro0423) 2023年9月17日午後1時36分の投稿
https://twitter.com/mihiro0423/status/1703266548197240941

(6) 「ハヤミーch /速水はじめ」 2023年9月23日 「東大阪市議会議員選挙 in近鉄布施駅【NHK党】#齊藤健一郎 #浜田さとし」
https://www.youtube.com/watch?v=M-BLTIUD8tc

(7) 「諸派党構想」について、詳しくは選挙ウォッチャーちだい 『「NHKから国民を守る党」とは何だったのか?』(新評論、2022)

(8) 「児玉ゆうきのページ」
https://kodama-yuuki.com

(9) 選挙ドットコム 「大坪和弥(オオツボカズヤ)|政治家情報」
https://go2senkyo.com/seijika/162152

(10) これは杣が都道府県議選について指摘したものであるが、これと共通して選挙民が「候補者個人に重点を置いた選択」を行う市区町村議選においても、同様の傾向があると思われる。杣正夫 「都道府県議会議員選挙の保守支配」 『法政研究』第46巻1号(1979)。

(11) X 「兼光(かねみつ) ひろき」(@Kanemitsu0924) 2023年9月22日午後4時22分の投稿
https://twitter.com/Kanemitsu0924/status/1705120367839519035

(12) X、前掲アカウント 2023年9月9日午後5時19分の投稿
https://twitter.com/Kanemitsu0924/status/1700423565223629261

(13) 朝日新聞 2022年8月19日 「車内で業者側から現金100万円 東大阪市議を収賄罪で在宅起訴」

(14) なお、市議選と同日に市長選も実施され、自民、公明支援の無所属から維新公認に転じた現職が当選している。この結果から「市長選での投票先を失った自民党や公明党の支持者の一部が棄権し、逆に選択肢の生まれた維新支持者の票が掘り起こされ、それが市議選にも影響を与えた」との仮説を導出することは可能であろう。市議選の結果の市長選との関係の分析については今後の課題としたい。なお市長選について、詳しくは毎日新聞(地方版) 2023年9月26日 「東大阪市長選/東大阪市議選 維新転身「政策優先できた」 市長選5選、野田氏語る」

(15) 詳細は金城ガンジ 2023年12月14日 「「日本維新の会」の選挙結果をまとめてみた」https://note.com/mousouya/n/n86f07fd927af 但しこれが大阪府内の選挙を除いた調査であることは注意を要する。

※URLはいずれも2024年1月11日閲覧

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