見出し画像

参政党が失った「追い風」とは 〜三春充希 『【特集】第26回参院選(2022年)参政党』前半部分と、それへの感想を基に〜

 2020年に結党された参政党は、2022年の参院選でいきなり1議席を獲得し政党要件を満たした、稀有な政治団体である。それ以来参政党はにわかに注目を集め、例えばSNSにおいては様々な論評が見られた。曰く「参政党は極右政党である」「参政党は今後躍進する」等々。
 しかしこれらはいずれも根拠に乏しく、結党及び国政進出から日が浅く資料に乏しいことも相まって、参政党に関する見解は現在有権者らの間で錯綜しているように見える。

 そのような中で発表されたのが、世論調査や選挙分析を手掛けてきた三春充希氏による『【特集】第26回参院選(2022年)参政党――それは「追い風」を失った』である。

 本稿では、まず本記事の概要とそれに対する感想を述べる。その上で本記事を基に、参政党についての更なる考察を行いたい。
 なお私の能力に限界があるため、本稿での考察の対象は差し当たり「本記事の前半部分の議論」に限定したい。そのため考察が甘いものとなってしまう点についてはご了承いただきたい。また後半部分については各人で適宜参照されたい。

●本記事の概要と感想

本記事で私が最も興味深く思った、
「第26回参院選(2022年)投票政党内保革構図の
加重平均」

 ここでは本記事の概要と感想について述べる。

 著者は本記事で

① 参政党やその支持者は極右的なのか
② 参政党の支持者とはどのような者なのか
③ 参政党は今後どうなるのか

という参政党に関する3つの問いを立て、これらを様々なデータをもって検証していく。
 多数のデータを用いて党の実態を暴かんとしている点で、本記事は参政党に関する複数の評論の中でも一線を画している。またこれまでも世論や政党を分析してきた著者による仮説は大きな説得力を持っており、一応は1年以上党を観察してきた私が読んでも、本記事は目から鱗の分析、そして納得できる考察に溢れている。

 特に私が感銘を受けたのは、「参政党に投票した人たちが、他の政党と比べてどれほど右派的といえるのか」という問いに関する考察である。
 本記事で著者は、参院選での全国意識調査で行われた「参政党に投票した有権者の投票政党内保革構図」をもとに、「参政党に投票した人のイデオロギーは右端に位置する自民党よりかなり中央に寄って」いると分析する。このことから、参政党支持者には自らを保守的だと思う者が必ずしも多くないということが示唆されるであろう。

 本記事が投稿される以前、文筆家の古谷経衡氏は参政党支持者について、「驚くほど政治的に無色」「「一般的にいうところの右なのか左なのか」という鑑別基準すら持っていない場合が多い」との評価を下していた(1) 。この見解は極めて興味深いが、根拠となるデータがないという問題があった。そこで著者が示したデータによって、古谷氏のこの評価にはある程度妥当性があったことが証明されたと言えるだろう。

 著者は冒頭で、「参政党の支持者は独特なメンタリティをもっており、その点を察知しなければ今の社会の一角を見誤ってしまう」と、巷にあふれる「参政党は極右政党である」といった評価に異議を唱えている。多くのデータと共に書かれた本記事は、党のその特異な性格を暴き出したという点で、参政党に関する議論に一石を投じた素晴らしい記事である。

●考察① ~指導者と支持者、そのイデオロギーの「ねじれ」~

自らを保守的だと紹介する神谷宗幣氏
(※出典

 ここからは本記事を基に、参政党についての私の考察を3点述べていきたい。

 まず前述の通り、本記事で著者は「参政党支持者は必ずしも保守的ではない」と分析している。
 だが参政党員の中には支持者のこの傾向から外れる重要な人物がいる。何を隠そう、党代表兼事務局長として党を強力に指導している神谷宗幣氏その人である

 神谷氏の思想が極めて保守的であることは言うまでもない。
 例えば彼は「保守的な考え方を持っている」と自認している(2)他、マスコミ各社が2022年参院選において実施した候補者アンケートから、彼が「選択的夫婦別姓の制度の導入に反対」「同性婚を法律で認めることに反対」 (3) 「日本の防衛費はGDP比3%超に増やすべきだ」「憲法9条全体を改正するべきだ」 (4)と、日本でいわゆる「右」の構成要件とみなされる考え(5)を持っていることが分かる。
 また彼は20代の頃、小林よしのり氏の『戦争論』など保守派の論客の本を読むようになり、そこから影響を受けたと回顧している(6) 。このエピソードも、神谷氏が保守的な思想を抱いていることを裏付けるものであろう。

 我々はここで、参政党とその支持者のある構図を見出すことができる。即ち、「保守的な指導者(=神谷氏)「必ずしも保守的でない支持者」が支えているという、指導者と支持者のイデオロギーが一致しない「ねじれた構図」である。
 実のところ、このような支持は指導者にとって不安定なものであると言える。なぜなら前述の通り「政治的に無色」な支持者が、「伝統的価値観に対する個人の自由の劣後」「他国に対する攻撃的な態度」等を内包する指導者の急進的・保守的な主張を、常に抵抗なく受け入れるとは限らないからである。

 神谷氏もこの構図を意識しているのか、自身は保守的であるにもかかわらず、党を「保守政党」等と位置付けられることには反発する(7) 。また前述の古谷氏は、参政党が「極右」とのレッテルをはられることを回避すべく、集会では新興の保守政党が必ず行う「国旗掲揚」「国歌斉唱」をやっていない、と指摘する(8) 。
 つまり参政党は現時点では、神谷氏が信ずる保守思想を前面には出さないことで、党内のこの「ねじれた構図」を表面化させていないだけなのである。

 神谷氏は実際のところは「『LGBT法案』への反対」といった保守的な主張をしばしば行っているが、私の観察する限りにおいて彼の保守思想を支持者が拒絶した、といった事例は現在のところ確認されていない。
 しかし神谷氏と支持者の間にこの「ねじれ」がある以上、支持者が彼の考えに常に賛同するという保証はどこにもないのである。

 このイデオロギーの差異が今後表面化した際、神谷氏は果たしてどのような対応を取るだろうか。支持者に譲歩して自らの保守的な姿勢を後退させるのか、あるいは彼らに自らの主張を押し付けるのか。だが前者の場合は神谷氏の不満が溜まり、後者なら支持者が神谷氏に反発しうる。いずれも最悪の場合、党の結束に綻びが生じるだろう。
 参政党がこの「ねじれた構図」を克服できるかは、今後の注目すべきポイントの1つである。

●考察② ~本当に若者からの支持が多いのか~

とある選挙における、参政党の街宣の聴衆
(筆者撮影)

 本記事で私が唯一賛同できなかったのが、「参政党が取り込んだのは、世代としては総じて若…い層だと考えられる」という主張である。

 第一に、私は出口調査の解釈によってこの主張に異議を唱えたい。

 著者は「NNNと朝日新聞が第26回参院選(2022年)でそれぞれ実施した出口調査」を基に参政党に投票した人の世代分布をグラフ化し、「参政党に投票した人には若い世代が多いことが示されます」と結論付ける。そしてその上で若者の性格から支持者の傾向の分析を試みている。
 だが注意すべきなのは、この調査が示す結果はあくまでも「若い世代は他の世代よりも参政党に投票した者の割合が高い」ということだという点である。

 そして我々は若者の投票率についても着目しなくてはならない。総務省の調査によれば、今回の参院選における年代別投票率は、10歳代が35.42%、20歳代が33.99%、30歳代が44.80%となっており(全年代を通じた投票率は52.05%)、他の年代と比べて、若年層の投票率は低い水準にとどまっている(9) 。そしてここで用いられた抽出調査を見ると、対象となった有権者全体に占める10~30代の割合も約19.1%に過ぎないことも分かる(10) 。
 これはあくまでも抽出調査であることは考慮しなくてはならないが、これらのデータから投票した者全体に占める若年層の割合は少ないことが予想できる。

 それ故、いくら「若年層に占める参政党に投票した者の割合」が多くても、そもそも投票に行った若年層の人数が投票者全体に対して相対的に少ないのなら、「参政党に投票した若年層」が「参政党に投票した者」全体に占める割合も同様に少ないのではないだろうか。
 したがって、このデータから「参政党に投票した人には若い世代が多い」と断定することはいささか言い過ぎなのではないか、と私は主張したい。

 第二に、私は参政党の街頭演説等への参加者の様子から、この仮説に疑問を投げかけたい。

 ウェブライターの黒猫ドラネコ氏はこれまで参政党の様々なイベントに潜入してきたが、その際しばしば「参加者は中高年が多い」と指摘している。
 例えば参院選最終日に芝公園で行われたマイク納めには1万人以上の聴衆がいたとのことだが、彼によれば「年齢層で言えばやはり中高年が多」かった模様である(11) 。また参院選後の2023年3月4日に行われた政治資金パーティーの参加者については、「単身で来たらしき方々の年齢層はやはり高い。…平均年齢50歳オーバーは確実」と評価している(12) 。
 無論これについては「支持者には若者が多いが、そのうち街頭演説等に参加するのは中高年がメインである」という可能性も考えられるだろう。だが少なくともこの取材結果は「参政党の支持者には若者が多い」との主張に異議を申し立てることが可能なものである。

 因みに、私は2023年3月以降、参政党の街頭演説や個人演説会に計9回参加し(2023年10月22日現在)、集まった聴衆を観察していた。その結果いずれの演説でも聴衆の大半は明らかに中年層であり、若者はあまり確認できなかった。観察対象となった街宣等の時期や地域、候補者が明らかに偏っているため有効なデータにはならないことは言うまでもないが、私のこの体験は黒猫ドラネコ氏のレポートと極めて近い観察結果を導いている。

 以上の通り、本記事で紹介されたデータは、著者が主張する「参政党は主に若い層を取り込んだ」との仮説を効果的に裏付けることはできておらず、一方では寧ろ逆の傾向を示唆する取材結果が示されている。
 もしも著者が「参政党の支持者は他党と比べると相対的に若者の割合が多い」と言いたいのであれば、この主張は正しいかもしれない。だが少なくとも、著者のように若者の政治的傾向を用いて参政党支持者全体の立ち位置を論じることは、彼らの実情を誤って解釈することにつながってしまうのではないだろうか
 著者のこの仮説に対しては、今後更なる検証が必要であろう。

●考察③ ~「追い風」なき参政党が持つ「活動能力」~

参政党のボランティア達(筆者撮影)

 最後に、「参政党の今後」について考察したい。 

 本記事で著者は、新型コロナウィルス対策が政治的争点でなくなったことを指摘した上で、「新型コロナを媒介にして一時的に大幅な票の搭載を得るチャンスを得た」参政党はそれ故「伸び悩んでいる」と評している。そして「参政党が今後も支持者をつなぎとめておくためには、コロナ以外の争点を作っていくことが不可欠になるでしょう」と述べている。
 私はこの主張に全面的に賛同するが、一方で、参政党にはたとえブームを起こせる政治的争点がなくとも、一定の支持を維持できる能力があると考えている。それは「地道な活動を行う能力」である。

 周知の通り、参政党は党員・ボランティアの組織化を重視している。それは参院選以降地方組織の整備を進めている点や、神谷氏が昨年11月15日の千葉県・松戸市での街頭演説で、公明党の組織力を参政党のモデルであると評した点からも分かる。そして党の動画からは、彼が街頭等での活動を重視していることも読み取れる(13) 。
 ここから、参政党が目標とする選挙戦術は風頼みのものではなく、ボランティアを組織して地道な活動を繰り広げる、いわゆる「ドブ板選挙」だということが推測できるだろう。

 参政党が実際に地方選でこの戦術を採用していることは間違いない。
 例えばフリーランスライターの畠山理仁氏は、参政党が日本維新の会と同様に戦闘力の高いボランティアらを育て、一人ひとりが自律的に活動するようにしてきた点を指摘している(14) 。また選挙ウォッチャーちだい氏は青森市議選(15)や西東京市議選(16)を取材し、ボランティアによる選挙期間中の地域活動や連日のチラシ配り等が活発に行われていたことを報告している(17) 。
 そしてこの「ドブ板選挙」が少数政党にとっても有効であることは、かつて「NHKから国民を守る党(現「政治家女子48党」)」が、「NHKの放送受信料問題」という必ずしも有権者の関心が高くない政治的争点を掲げながらも、2015年〜2019年にこの戦術で地方議会、そして国政に進出できたことからも分かるであろう(18) 。

 参政党は今後もこの活動能力の高いボランティア達の組織を整備し、彼らの地道な活動を通じて地域に浸透し続けることができれば、たとえ新型コロナ対策に代わる争点を創り出せなくとも、一定の支持(あるいは集票力)を維持し続けることは可能であろう。その点において、参政党の前途は著者がみなしているほど多難なものとは必ずしも限らないのである。

●終わりに

参政党のロゴ(※出典

 本稿では三春充希氏の興味深い記事を基に、参政党に関する考察を進めてきた。そしてその結論をまとめると、

① 参政党には指導者と支持者の間でイデオロギーの「ねじれ」がある
② 参政党の支持者は若者が多いとは限らない
③ 参政党には支持者に訴えかける政治争点がなくとも、地道な活動で支持者をつなぎとめることが可能である

の3点となる。

 ③については、参政党が今後も日本政界に一定の勢力を維持し続けることを可能とする要素であるため、党の日常的な活動の模様については引き続き観察が必要である。同時に参政党は①という党の分裂につながりうる要因も抱えている。そのため、「神谷氏の主張」「それに対する支持者の反応」を分析することは、党の結束の程度を測る1つの指標となるであろう。
 そして②については現時点で明確な結論を出すことは困難であり、今後も更なる検証が必要だと思われる。

 本記事が投稿された2023年8月25日以降、参政党には執行部の交代や地方選での連勝といった重大な出来事が起きており、党に対する有権者からの関心はさらに高まっているように見える。そのような中で、本記事は参政党に関する健全な議論を大いに喚起することができるものである。そして本稿がその議論の一助となれば幸いである。

●追記(2023/10/29)

 本稿の投稿後、三春充希氏より講評をいただいた。こちらも是非参照されたい。


※註

(1) 古谷経衡 2022年7月11日 「参政党とは何か?「オーガニック信仰」が生んだ異形の右派政党」
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/067c5c8f972ec52861a3f3fdef31af904e9c9728

(2) 日テレNEWS 2022年8月19日 「【徹底議論】参政党・神谷宗幣氏を生直撃 コロナ対策・党勢拡大…次の一手は?【深層NEWS】」https://www.youtube.com/watch?v=TH_rLDTdm_Q

(3) NHK 「候補者アンケート 参議院選挙2022立候補者へ質問と回答」
https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/sangiin/survey/

(4) 読売新聞オンライン 「神谷宗幣 参議院選挙・開票結果2022(比例代表) 」
https://www.yomiuri.co.jp/election/sangiin/2022/YB00858XXX000/16164/

(5) 政治社会学者の松谷満氏は、家族観・結婚観等の伝統的な価値規範を尊重することや、外交・安全保障に関して軍事力の強化を志向すること等が、日本での「右」の構成要件とされてきた点を指摘している。松谷満「世論は右傾化したのか」小熊英二・樋口直人編『日本は「右傾化」したのか』(慶應義塾出版会、2020)。

(6) 神谷宗幣「哲人政治が日本を救う!」『維新と興亜』令和5年3月号(望楠書房、2023)

(7) 日テレNEWS、前掲動画

(8) 古谷、前掲記事。但し私の参加した個人演説会においては「国旗掲揚」も「国歌斉唱」も行われていた。古谷氏の指摘が党の全ての集会に当てはまるわけではない、という可能性には留意すべきであろう。

(9) 総務省「国政選挙の年代別投票率の推移について」
https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/nendaibetu/

(10) 総務省「第15回~第26回参議院議員通常選挙年齢別投票率調」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000646950.pdf

(11) 黒猫ドラネコ 2022年7月17日 「ついに国政政党の参政党。応援弁士が河野太郎大臣”本音”を勝手に暴露していた」
https://kurodoraneko15.theletter.jp/posts/478db0f0-044b-11ed-83eb-bb40ae897284

(12) 黒猫ドラネコ 2023年3月6日 「【潜入ルポ】目覚めた中高年の春祭り!チェロやバレエから「参政党は世界の潮流」「我々が明治維新の志士」参政党政治資金パーティー2023①」
https://kurodoraneko15.theletter.jp/posts/2ee7efb0-bab8-11ed-bdf5-c1388d3bd583

(13) 参政党【公式】 2023年2月15日 「【一人語り】選挙に負けてしまいました…「選挙」というものについて語ります。地方統一戦に向けて! 神谷宗幣 #072」
https://www.youtube.com/watch?v=xv5_Stakub0

(14) AERA dot.  2023年5月23日「東京・杉並区議選の立候補者69人全員に取材 記者が「できるだけ候補者を自分の目で見る」理由」
https://dot.asahi.com/articles/-/194546

(15) チダイズム 2022年11月6日 「【選挙ウォッチャー】 青森市議選2022・分析レポート。」
https://note.com/chidaism/n/nf8649f4c7605

(16) チダイズム 2022年12月11日 「【選挙ウォッチャー】 参政党・動向チェック(#1)。」
https://note.com/chidaism/n/n8d875d3eff4b

(17) 因みに、私も参政党の街頭演説等の場に行った際、どのイベントでもボランティアが熱心にチラシ配りや交通整理等の活動を行っている様子を観察することができた。

(18) 詳しくは選挙ウォッチャーちだい 『「NHKから国民を守る党」とは何だったのか?』(新評論、2022)

※URLはすべて2023年10月17日確認。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?