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【一日一捨】 メモ帳

旅先や出先で何かアイデアを思いついたときはメモ帳にメモしていた。
今はスマホのメモに書き留めることに慣れたけど、当時はわざわざメモ帳を使っていた。旅先だったり出先だったり、だいたいメモ帳を持ってないときに何か思いつくことが多く、コンビニやキオスクで買ったものに書き留める。メモ帳を最後まで使ったことは一度もなくて、だいたい途中まで書いてどこかに放置したまま忘れ、また次のメモ帳を出先で買うことになる。

書いてある内容はあとから見ると、意味がわからなかったりすることも多いけど、このメモ帳の『浴室』とだけ書かれた頁のことはよく憶えてる。『浴室』は、ジャン・フィリップ・トゥーサンというフランスの作家が書いた小説のタイトルだ。ある日、浴室に引き籠もってしまった主人公をめぐる物語で、細かい内容はもうすっかり忘れてしまったけれど、不思議で心地よい読後感だけは今もとても印象に残っている。当時よく仕事のメールのやりとりをしていたデザイナーの安藤さんがとても本が好きで「何かオススメの一冊ってありますか?」みたいな話になったときに、これは何か気の利いた一冊を答えなければと思って考えて考えて思いつかないまま、たしかゴールデンウイークに北海道旅行に行ったとき、ふと、「そうだ!」と思いつき、メモしたものだった。

安藤さんは神戸在住のフリーランスのデザイナーさんで直接会ったことはなかったけれど、電話やメールで何度か打ち会わせをする中で面白い人だなあ思っていた。オシャレで頭の回転が早く上がってくるデザインはいつも洗練されている。そんな安藤さんへのオススメだから、渾身の一冊を薦めたい。いくら面白くてもあんまり泥臭い本は避けたいところ。連休明けに安藤さんに仕事の返信をしたついでに、追伸としてこの本のタイトルを書いたんだった。翌日、お返しにと安藤さんから返ってきたオススメの一冊は、松本清張の『小説帝銀事件』だった。渋い。渋すぎる。そして、あれこれ考えすぎてなんかちょっと気取った本を薦めてしまった自分が恥ずかしくなった。捨てる。

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