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【連載小説】 淋病おばさん南の島へゆく|第2章「雲の旅」(2)
色素が薄く、唇も白い。体は大きいが、日にあまり当たっていないみたいだ。
「この子がヒロキと八公。あたしの弟と甥っ子みたいなもんよ」
淋病おばさんに紹介された俺たちは、会釈をした。
「初めまして。そこの通りの向かいのバーのマスターのヒロキです」
「そこでバイトしてます八雲です」
青年はお辞儀で返す。そして穏やかな声音で挨拶をした。
「はじめまして、僕はコータといいます」
彼はこのスペースの向かいの路
【連載小説】 淋病おばさん南の島へゆく|第2章「雲の旅」(1)
八雲満は大学を辞め、ソドムというゲイバーでバイトをはじめた。今年の初夏に、ソドムのマスターの親友である淋病おばさんに会い、その強烈な生き方に触れることで、社会に対してふてくされていた八雲も、まだ、捨てたものではないと感じはじめていた。
しばらくしたある夏の日、俺はマスターの手伝いで淋病おばさんの事務所に行った。なんでも、彼女は競馬で儲けたお金で、この街の一角に事務所を借り、レインボーという名前で
【連載小説】 淋病おばさん南の島へゆく|第1章「陽炎の家」
大学を辞めた。合コンだの、彼女だの、そういう正常な雰囲気が嫌で、行けなくなった。いや、理由なんて嫌なものでも好いものでもいくらでもあって、事実、無理に学校に行くと具合が悪くなる、どうしても朝起きれなくて、単位を落とす。ありのままに生きることを教育の良しとされたにもかかわらず、ありのままに生きていたらぶち当たる壁があった。
名付けることのできない気分が、青春のすがすがしさとは相容れず、自分が誰か