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女性が生理とともに働くということ①-私たちはどう向き合うべきなのか-

本日は、いつか言語化しなくちゃいけないと感じていた「生理」「生理休暇」のお話です。私にとって、温めていたような大切なテーマです。

生理や生理不調ついては、最近ご取材を頂くことが重なったり、女性誌等でも目にする機会が増えたり。産業医先でも、外来でも、必ず遭遇します。

ここには、私なりの葛藤がありました。
生理不調に悩む女性に寄り添いたい気持ちと、生理休暇が散発してマネジメントに悩むお職場や人事に寄り添いたい気持ちと。
そして、その落とし所に悩む自分の気持ちと。

なかなかモヤモヤしがちなところでした。

しかし、言語化する機会を多く頂戴したこともあり、視点がスッキリしてきたので、今なら書けるかなと思えるようになり、今向き合っています。

生理不調ってどんなもの?どう対応したらいいの?ということは、次回に。
今回は、歴史や調査をご紹介しながら、私のスタンスを書こうと思います。

歴史から振り返る。-女工たちと、労働運動の本格化-

1872年:富岡製糸場の設立、女工を募る
1916年:工場法
1928年:労働組合による初の生理休暇の要求
1947年:労働基準法に生理休暇が入る
1960年代後半:ウーマン・リブ(米国)
1972年:男女雇用機会均等法

第二次大戦前後の論調としては、母性保護の視点、労働環境改善の視点、どちらもあったようですが、「生理を医療化させない!」がスローガンでした。
つまり、生理は、生理的な(生物学的に普通な)反応なので、病院での治療・管理にするものではないのだと。まず就労しないでいい権利をくれ!と。その結果、「医師の診断・判定なしで、個人の権利として取れる生理休暇」の仕組みが出来上がりました。

現代からすると、治療の対象と見ないだなんて、違和感ですよね。
でも、はっとさせられた部分もあります。「何でも医療化」するのは、現代の特徴と言えるかもしれません。

なお、戦時下においては、総動員体制の下、女性に労働力と再生産力という二重の役割を果たさせるため、工場内にて管理と保護を行い、「母性」と「労働力」を確保する政策が進められたそう。

これは、安倍政権下での「働き方改革」を想起させます。なぜなら、働き方改革は、過労死をなくそう!といったメッセージとともに、「労働力」を確保し、一億総活躍社会を目指す政策の一環でもあったからです。

生理休暇、昔は有給も多かった?

生理休暇とは、労働基準法68条で定められている法定休暇です。条文によると『生理日の就業が著しく困難な女性労働者が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない』とあります。法律で認められた休暇なので、会社の就業規則に生理休暇に関する記載がなくても、請求できます。

厚生労働省「平成27年度雇用均等基本調査(事業所調査)」によると、生理休暇中の賃金を「有給」とする事業所の割合は 25.5%、そのうち 70.6%が「全期間 100%支給」とのこと。

有給としている割合、結構多く感じませんか?
しかし、驚くことなかれ。平成19年度の同調査では、42.8%です。

こちら「常用労働者5人以上を雇用している民営事業所」を対象とした調査ですので、大企業のみを対象にしているわけではありません。

生理休暇の取得状況はどうか?

同調査にて、女性労働者のうち、生理休暇を請求した者の割合は 0.9%でした。なんと、ピーク時の昭和40年には26.2%ですので、激減していることが分かります。

n=1の例で恐縮ですが、昔はどうだったの?と母に聞いてみました。
大企業に勤務していた母ですが、「毎月『生理休暇取った?勤怠に登録しておきなさいよー!』と先輩の女性社員から言われたものょ。」と。
めっちゃ時代を感じます。

そんなにオープンだったのか!という驚きと、突発休ではなく予定休として管理できていたことへの感心とともに、聴かせてもらいました。

個人の権利として取れる生理休暇なのですが、現在では、活用率の低い制度と言わざるを得ません。なお、平成28年〜令和元年の事業所調査では、生理休暇に関する質問は設けられていません。

生理休暇が廃れて行く中で、何が起きているのか?

もう、生理休暇取りなさいよー!の時代は終わったのかもしれません。

生理不調への治療の発展や普及、衛生用品の発展、年次有給の利用促進など、多様な解決策から「生理休暇」が適当な解決策にはならなくなっている可能性が大いにあると思いますが、「生理休暇を使わなくて済む」状態になったと言えるしょうか。

全労連「女性労働者の健康・労働実態及び雇用における男女平等調査報告書」によると、生理休暇を取らない理由は、「人員不足・多忙で取りづらい」が44.4%で最多、次いで「苦痛ではないので必要ない」28.7%です。

ここは、1位とともに2位にも注目しています。治療の有無は分かりませんが「苦痛ではない層」がいるということです。

一方、女性労働協会の調査によると、月経困難症は生殖年齢の女性の25%以上に認められ、苦痛を感じている人がいるのも事実です。

つまり、「生理休暇」を必要としている人とそうでない人がいるわけです。多様なわけですね。

ここに、私は「生理が楽な(楽になった)人」vs「生理が重い人」の構図を見ます。女性同士の間にも隔たりが潜んでいて、女性同士でもサポートがうまく作用しないことがあると思っています。

今後、さらに「人口減少」・「労働力減少」に転じていく社会では、より一層、生理休暇は取りづらいものになっていくのかもしれません。また、そんな労働環境において「生理休暇を取る人」ということが、「労働力」「労働生産性」の観点から、低く評価されてしまう、という心理社会的プレッシャーはあるように感じます。

生理休暇を使わなくて済む、と楽観的に言える状況ではなさそうです。

産業保健職なら誰しも知っている2つのデータの怖さ

2つのデータとはこちらです。

・ヘルスリテラシーが低い…という言葉のインパクト

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日本医療政策機構:働く女性の健康増進調査 2018

つまり、女性に関するヘルスリテラシーの高い人は、女性特有の症状があった時に対処できる割合が高く、結果、労働生産性が高い、ということです。

対策にも繋がる重要な調査結果ですが、ここから転じて、生理休暇多い人=メンテナンスできてない人=ヘルスリテラシーの低い人=労働生産性が低い人。そんな方程式を想起してしまいがちではないですか。
しかし、ここは=の人もいれば、=でない人もいますよね。

・月経随伴症状などによる労働損失は4,911億円…という数のインパクト

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経済産業省:健康経営における女性の健康の取り組みについて 2018

この辺りのデータは、インパクトがある分、取り扱いには配慮もいるように思います。知った当初は、由々しき事態だ、という受け止めを私もしましたが。資本主義社会なので、仕方がないと言ったらそれまでですが、「女性」でも「人」でも、「労働力」「生産性」と人格を失ったものとして、試算されることへの嫌悪が幾分あります。

生理不調の人はセルフケアしなさい!でいいのか?

メンテナンスできていない女性社員が多いのは事実。
これは、教育も医療も政治も関わる、おそらく国家レベルの課題です。子宮頚がんワクチンが進まない点でも繋がっていそうです。
そんな大きな課題を、多様性のある課題を、個人のリテラシーの問題にのみ帰着させてしまうのは乱暴でしょう。

しかも、通院してもコントロールがつかないことがあります。
はたまた、妊娠希望のためピルを服用できない社員さんもいます。

つまり、努力を重ねても、改善できないという事態はあり得るのです。

周囲は、ご本人の努力や行動変容を促したり、サポートしたりすべきですし、社員は自己保健義務も負っています。それでも、期待される結果が出せないことってあるのですよね。

むしろ、ここまでメンテナンスしなきゃいけなくて大変だよね…そんな声かけができると素敵ではないでしょうか?
努力も報われるってもんです。

生理こそ、DEIそのものである。

DEIとは、ダイバーシティ(多様性)、イクイティ(公平)、インクルージョン(包容、受容)の頭文字をとったものです。

まず、生理そのものが多様であり、生理不調そのものが多様です。気にならないレベルの人から、治療しても症状が重い人までいます。

生理に留まらず、女性社員には、妊娠、不妊、出産、育児、若年での婦人科がん、更年期障害、、キャリアの途中で健康課題が目白押しなのです。

そんな、女性を「労働力」としてどう見ますか?面倒なのでしょうか?
障害を持った方は?
介護や育児をしている方は?、、生産性が低い?採用したくない?

そう、ここには職場や企業の「姿勢」が滲み出てきます。
そもそも、「女性」と一括りにすることはできないのですけれど、何らかの課題を抱えながら働いている方が、この社会にも、会社にもいるわけです。そして、「生理不調」があったって働きたい、やりたい仕事もある。

そんな一人ひとりに、それぞれの秀でている点、貢献できる仕事があり、それを見つける作業は、企業にとって大切なプロセスになると思います。少なくとも、それは過重労働ではないでしょう。

働きやすい職場作りをしないまま、過重労働をさせながら、安全配慮義務を果たさないままに、どの口が女性たちにセルフケアしなさい!なんて言えるのか。私は、そう思います。

つまり、多様性への受容を示し、対策している職場、企業であるのか。
公平な機会提供をしているのか。そこの点検が重要だと言いたいのです。

労使関係での信頼関係は、双方で作り上げるものだと思います。

これは、生理に限ったことではないですよね。
日々の仕事だって、ルールだって。
会社側はこんな努力や整備をします、だから労働者側もこんな努力や成果をお願いしますね、と。

一人ひとりが体調をメンテナンスしやすい労働環境にある職場や企業が、日本に増えたらいいなぁと思っています。

今日もあなたに笑顔がありますように。

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●参考文献
上述の各種調査
田口亜紗著『生理休暇の誕生』…は未だ読んでないのです、、中山いづみ氏の書評(大原社会問題研究所雑誌)を参考にさせていただきました。
鈴木玲著『社会運動的労働運動とは何か』(大原社会問題研究所雑誌)…たまたまの雑誌被り。法政大学の研究所発行です。
ウルリケ・ヘルマン著『スミス・マルクス・ケインズ よみがえる危機の処方箋』(みすず書房)

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