見出し画像

職場のメンタルヘルス施策を"ポジティブな心理"に着目して構築するための理論たち。

●これからの職場のメンタルヘルス

「職場のメンタルヘルス対策」という言葉。この時代、誰しもが、どこかの文脈で触れうるものだと思います。「対策」というワーディングからして、「悪いもの」を改善する、「悪いもの」に対処する、そんなイメージを想起させます。企業で義務化されている「ストレスチェック制度」も基本的には「マイナス部分」の抽出・精査であり、「強みの部分」の抽出・精査にはあまりなっていません。

「良い点を見つけて伸ばす」よりも「悪い点を見つけて改善する」ほうが、日本の国民性にはマッチしやすいのか、教育の産物なのか。

私自身も、その例外ではなく、このnoteでも、ストレスモデルからストレスコーピング(対処)、ネガティブ感情など、(決して悪いものではないのですが)「悪いイメージを想起させる心理」に焦点を合わせたテーマや理論を扱ってきました。事実として、日本の労働者の6割は「ストレスを抱えている」ため、避けては通れない概念であり、社会課題だと思っています。また、疲弊・ハラスメント・無価値感など、取り除きたい課題点はほかにも挙げれば、いくつも思い浮かびます。

しかし、それだけで良いのでしょうか。

個人にも、組織にも、すでにある良さや強みに光を当てることも必要なのではないか。そんな気持ちから、「幸せ」「癒し」「熱狂」「楽しさ」などの「ポジティブな心理・感情」がいかに人生において意味を成すのか、重要なのか?、をこれまでのnoteでも、断片的に触れてきました。
しかし、とても断片でした。。そこで、この「ポジティブな心理とその可能性」の全体像を見つめてみよう!というのが、本日のテーマと狙いです。

特に、チーム、部門、企業などの集団のメンタルヘルスを「ポジティブな心理」の側面から考えていくために、そこに関連したキーワードや概念を整理していきます。中でも、『well-being(良い感じ、幸せ)』『ワークエンゲイジメント』にスポットライトを当ててみます。その理由は、①個人の話ではなく集団の話として、②研究がそこそこ進んでいて、③包括的な概念である、からです。
そして、この先には、ポジティブな仕事体験と生産性向上があるからです。

●ポジティブ感情は、なぜ大切なのか?

その理由は、至極単純です。
ポジティブ感情には、「ストレス打ち消し効果」があるからです。

その効果は、生理的(血圧が下がる、呼吸が深くなる)なものだけでなく、認知や行動にも現れます。

つまり、何らかのストレスがかかった時、原因となる困難や課題に「向き合う」だけでなく、人には「別のことに目を向ける」「気分転換する」「ポジティブ感情を体験する」ということが有用なのです。

ポジティブ感情の体験は、個人の認知や行動を柔軟にし、幅を拡げます。そして、その拡張した思考や行動は、個人の健康資源として豊かなデータベースを形成します。すると、よりポジティブな感情の体験をしやすい人生となり、好循環が回り出すのです。

これを、心理学者のフレドリクソンが提唱した「ポジティブ感情の拡張形成理論」と言います。

●ポジティブなメンタルヘルス〜様々なキーワードと概念

「ポジティブ感情」の重要性は見えてきたかと思いますが、他には、どんなポジティブなメンタルヘルスに関わるキーワードや概念があるのでしょうか。
まとめてみると、こんな具合に整理することができます。

スクリーンショット 2020-11-06 17.13.27

※後日、二要因理論を追加しました。


●well-beingとは?〜持続的で包括的な幸せの概念

真の健康とは何か、幸せとは何か、豊かな人生とは何か、平和とは何か。
そんな問いの産物として、上の表にある概念、理論、治療は生まれたのだと思います。

健康というものも、身体的・精神的・社会的な〜と言われるように、包括的かつパーソナルにもなる複雑な概念だと思いますが、well-beingも同様です。その中でも、「持続的な幸せとは何か?」を包括的に論じたのが、敬愛するマーティン・セリグマン先生です。

セリグマンのwell-beingの多面的モデルである「PERMAモデル」は、現在、最もコンセンサスを得られている理論かと思います。ここに「ポジティブ感情」が登場しますが、「ポジティブ感情」だけでは、快楽的で一時的な幸せしか得られないという指摘が含まれています。

さらに、従業員のwell-beingを高めることが、生産性・創造性の向上、売上の増加、欠勤率・離職率の低下に寄与することが分かってきました。


スクリーンショット 2020-11-02 15.40.17


●WHOの提唱する健康職場モデル

WHOは、well-beingな職場をどのように定義しているのでしょうか。

健康的な職場の構成要素に、「物理的な職場環境」「心理社会的な職場環境」「個人の健康資源」に加えて、「企業の地域社会への関与」を入れています。最後の地域社会との共生や貢献が、おまけではなく、4つの柱の1つということは興味深いです。

スクリーンショット 2020-11-02 14.02.00

出典:WHO Healthy Workplace Framework and Model: Background Document and Supporting Literature and Practices


●ワーク・エンゲイジメントとは?〜持続的で包括的な仕事への心理状態

シャウフェリらは、ワーク・エンゲイジメントを以下のように、定義しています。

『ワーク・エンゲイジメントは、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、活力(Vigor)、熱意(Dedication)、没頭(Absorption)によって特徴づけられる。ワーク・エンゲイジメントは、特定の対象、出来事、個人、行動などに向けられた一時的な状態ではなくて、仕事に向けられた持続的かつ全体的な感情と認知である。』

このワーク・エンゲイジメントは、心理的・身体的ストレス反応とは負の関連を、生活満足感および仕事のパフォーマンスとは正の関連を、持っています。

ワーク・エンゲイジメントを高めるものにはこんなものが!

スクリーンショット 2020-11-02 16.15.14

●セルフケアにも、マネジメントにも「ポジディブな心理」の視点を!

本日ここに、具体的な施策案を書く気はありません。なぜなら、職場におけるメンタルヘルスケアは、「その企業にフィットしているか?」「どんな文化で、どんな仕事をしているのか?」という文脈の上にあり、そこを踏まえてこそ成功がある、と信じているからです。

これからの日本に、好事例というか好挑戦が増えること、それが集団知として利活用されること、を願って、おしまいとします。

最後まで読んでくださった方、どうもありがとうございました。

あなたに笑顔がありますように。

画像5



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?