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wellbeingとは何か。

明けましておめでとうございます。
新年最初のテーマに選んだのは、『wellbeing』です。
節目にふさわしい壮大なテーマですが、私なりに色々と学び、咀嚼したことを、一度まとめてみようと、昨年から決意しておりました。

●wellbeingのための5か条

本日は、じっくりwellbeingについてご紹介し、論じていきたいのですが、wellbeingが端的に伝わるのは、これかなと思っています。時間のない方には、これだけでいいので、知ってほしいです!

wellbeingのための5か条:five way to wellbeing

connect/繋がってますか?
be active/活動的ですか?
take notice/注意を払ってますか?
learn/学んでますか?
give/与えていますか?

あなたは、wellbeingしていますか?
ちなみにこれは、イギリスの「Mental capital and wellbeing project」という今後20年をどうするか?という壮大な国家プロジェクトのレポートで言及されたものです。

●包括的なwellbeingという概念

では、ここからは…じっくり、深く、しつこく、論じさせてくださいw

まず、wellbeingを一躍有名にしたのは、以下のフレーズだと思うので、最初に載せておきます。WHOの健康の定義です。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

日本語では、身体的、心理的、社会的に「良い状態」と訳されます。
このことからも、私は、wellbeingを「幸福・幸せ」と訳すことには、違和感が大きいです。日本語としても、“身体的に幸せです。”って表現しなくないですか?
幸せ=happinessとは別ニュアンスのものと捉えています。ですので、“しっくり来る日本語がない。”がおそらく答えで、そのまま英語やカタカナ表記されることが多いです。

じゃあ、wellbeingって何よ?・・・ですよね。

この問いの結論から述べると、
「絶対の答えはない。」かつ「wellbeingは、多次元的な概念である。」
が正しい解答だろうと思います。

端的な答えでなく恐縮ですが…研究グループによって、wellbeingの定義は、異なっています。
その主たる理由は、「主語によって変わるから」と言えます。つまり、「誰のwellbeingなのか?」ということです。

「個人?」「チーム?」「会社?」「国家?」

人によって、地域によって、国民性によって、同じ国でも立場によって…「良い状態」は違いますよね。
自分は、どんな文脈・文化において、「wellbeing」を考えたいのか?に注意してみること。それがまず最初の留意点だろうと思います。そして、自分たちなりの「wellbeing」を都度、定義していくことになるのだろうと思っています。

そして、wellbeingの「多次元性」を上手に表現している、と個人的に思ったものは、以下の2つです。

①2012年「Happiness and WellBeing : Defining a New Economic Paradigm」と題した会合での国連事務総長バン・ギムン(BanKimoon)氏のフレーズ。
「社会的ウェルビーイング、経済的ウェルビーイング、環境的ウェルビーイングは不可分な関係にある。その3つを合わせた概念が地球総幸福量である。」

②英国保健省「Well-being Why it matters to health policy」でのフレーズ。
「well-beingは、気分が良好になり、機能が良好であることを意味し、個人の人生に対する経験、そして生活環境、社会規範や社会的価値に対応している。また人生の満足度(自己評価)、前向きな感情(hedonic:快楽的な幸せ)、人生の意義(eudaimonic:努力による幸せ)などの側面や十分な食料、身体的健康、教育、安全性などの側面を含む、基本的な人間のニーズと権利に関する仮定に基づいている。」

そう、「心理的」な概念だけではないのはポイントですよね。
衣食住・経済・教育・安全保障などをも含む包括的な概念と言えます。

ただし、わたしはメンタルヘルスの領域の人間なので、「心理的」な部分により関心があります。よって、心理面中心に「wellbeingとは何か。」を考えたときに、英国のフェリシア・ハパート先生(ケンブリッジ大学Well-Being Institute所長・心理学名誉教授)と米国のマーティン・セリグマン先生(ペンシルベニア大学ポジティブ心理学センター長・心理学部教授)は、押さえておきたい2名です。のちほど、この2名に絞って、紹介します。
何度も恐縮ですが、2名とも、心理的なwellbeingに偏っている点にはご留意ください。

●さまざまなwellbeingの理論

wellbeingについては、多くの研究者がおられます。さまざまな研究グループによるwellbeingの理論を、まとめて体系的に知りたい方は、わたしの母校でもある青学の「次世代ウェルビーイング」のサイトによくまとまったページがあるので、そちらをご参照ください。また、このページの引用元にもなっており、わたしのバイブルでもある「ウェルビーイングの設計論」をぜひ読んでみてください。特に、ヘルスケアIT領域の人は必読です!

http://www.cc.aoyama.ac.jp/~well-being/what-is-well-being/index.html

https://www.amazon.co.jp/gp/product/B06ZYQRMM1/ref=dbs_a_def_rwt_bibl_vppi_i0

●本題のちょっとその前に。QOL(生活の質)という概念


わたしは、多次元的な概念を扱うのが好きなのですが、「wellbeing」よりも前からあり、馴染みのある近接概念として「Quality of life:QOL」(生活の質)も外せません。QOL構成要素の概略図(カナダのトロント大学ヘルスプロモーションセンター作成)が素晴らしいので、載せておきます。

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非常に網羅的で、納得感が高いです。
特に「being・belonging・becoming」という分け方、素晴らしくないでしょうか!?

beingの下位には、「身体的・心理的・精神的」
belongingの下位には、「社会的・コミュニティ・生態学的」
becomingの下位には、「自己実現・余暇活動・日常生活」

becomingは「目的のある活動」のこと。個々の行動・変化という「動的な要素」を重視していると言えます。

さらに、QOL決定因子を、「環境的決定因子」と「個人的決定因子」に分けて、以下のようにまとめられています。

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脱線は、ここまで。
ここからはwellbeingの構成要素(=定義)・決定因子のお話をしていきます。決定因子は、wellbeingの向上との関連が研究により裏付けられている心理概念を指します。

●wellbeingの構成要素①フェリシア・ハパート先生

パパート先生らの論点は、「ill-beingとしての抑うつ尺度があるのだから、wellbeingとしてのポジティブ心理尺度だって作れるよ」、「wellbeingとは、良い状態なだけではなく、より良く機能している状態だ」という点と言えます。wellbeingの10の構成要素を以下のように定義しています。これは、広くヨーロッパでも認知、活用されているようです。

ポジティブ感情/没頭/意義/自尊心/楽観性/活力/心理的回復力/有能感/情緒的安定/良好な人間関係

さらに、このポジティブ感情をもっと詳しく見ていくと・・・

8つの向社会的ポジティブ感情(愛、希望、喜び、寛容、思いやり、信頼、畏敬、感謝)がwellbeingを構成するのだと言います。ここでのポイントは、この8つの感情はほぼすべて、自己というよりも人間同士のつながりから生じるということです。

●wellbeingの構成要素②マーティン・セリグマン先生

マーティン・セリグマン先生らの論点は、「wellbeingとは、一時的な快楽的なポジティブ感情ではなく、持続可能なもの=Flourishing(フラーリシング)である」、「wellbeingには、超越したものへの所属感が関与する」という点と言えます。

西洋人にとっての「超越したもの」とは、宗教・神などが該当し得ると思うのですが、東洋人では、自然崇拝などと共に、コミュニティ(地域、会社、家族、場の空気)という存在がしっくり来るかもしれません。

そして、セリグマン先生といえば、PERMAモデル。wellbeingの構成要素を以下の5つとして定義しています。

P:Positive emotion/ポジティブ感情
E:Engagement/物事への積極的な関わり、没頭
R:Relationship/良好な人間関係
M:Meaning/人生の意味・意義
A:Accomplishment/達成感

これらを統合したものがwellbeingである、と提唱しています。

ここまで見てきた中で、「超越したもの」・「所属感」・「関係性」については、QOLの「belonging」や「beingのspirituality」とも重なりますし、自己決定理論の「関係性」、ハパート先生の10の構成要素の「良好な人間関係」とも共通する点です。

つまり、QOLも、wellbeingも、個人の中にのみ存在する閉ざされた概念ではなく、人・コミュニティ・自然とのつながりを持った概念と言えそうです。

●wellbeingの決定因子①:リチャード・ライアン&エドワード・デシ

リチャード・ライアンとエドワード・デシは、「自己決定理論(Self-Determination Theory、SDT)」を提唱した人物です。この自己決定理論については、「動機付け理論」としてご存知の方の多いのではないでしょうか。自己決定理論は、3つの状態、①動機づけなし、②外的動機づけ、③内的動機づけに別けた場合、「③内的動機付けによって、強い自己決定感がある」という理論です。

自己決定理論では、自律性(Autonomy)/有能感(Competence)/関係性(Relatedness)が重要だと述べられていて、この3つが人間を動機づけ、wellbeingへ導くとしています。

●wellbeingの決定因子②:フレームワーク

「ウェルビーイングの設計論」の監訳者である渡邊淳司さん(NTT コミュニケーション科学基礎研究所の主任研究員(特別研究員)、博士(情報理工学))は、wellbeingの決定因子を、以下のような「個人内・個人間・超越的」というフレームワークにてまとめておられます。

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こうやって、表になると、包括的だったwellbeingの決定因子についても、整理されるのではないでしょうか。

とはいえ、自分の中では、まだQOL Fieldのwellbeing版ほどにまで、全体像を上手く描くことはできていません。ここまでの整理が一旦いまの自分の中では、限界で、、
この先の整理はどなたかと、どこかの機会でディスカッションしたいです。

読んでくださった方に、何か1つでも、気づきや思考のヒントになるものを届けられていればいいのですが…ちょっと心配に思っています。

まるで天気のように、動的で、掴むことが難しいwellbeingの全様・・・
まだまだ探求することが辞められそうにないテーマです。

気を取り直して、結語です。

●自分/自分たちなりの価値に根差して生きる

わたしは、wellbeingというものを考える中で、「超越的」・「スピリチュアル」というものが、重要な位置を占めているのではないか?と感じました。言い換えると、「メタ認知」することで見えた「自分/自分たち」というものはどんな感じ?という問いが、wellbeingの真ん中にあるように感じるからです。

自分/自分たちはどんな世界に生き、どんな歴史の線上に立っているのか。
自分/自分たちは誰と共に生き、相互に影響し合っているのか。
自分/自分たちは日々どんな活動をして生き、どこに向かっているのか。

それを広く、丁寧に見つめた先に、「存在意義」「自分/自分たちなりの価値」「自分/自分たちなりのwellbeing」が自ずと見出されるのではないかと思うのです。

これは「社会の中で、ありのままに生きる」ということかもしれません。

wellbeingを見つめ、考えることは、生きる力を与えてくれます。
あなたにとってのwellbeingとは何ですか?
あなたはwellbeingしていますか?

最後まで、読んでくださってありがとうございました。
2022年、wellbeingな世界でありますように。

※一部の内容・構成(構成要素と決定因子)を修正しました。(2022/9/3)

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